この記事を読んでわかること
・CCJ DAVFの病態がわかる
・CCJ DAVFに対する治療法の選択肢がわかる
・CCJ DAVFに対する外科的手術のリスクがわかる
頭蓋頸椎移行部脊髄硬膜動静脈瘻(CCJ DAVF)とは、本来交わることのない脳や脊髄の臓器血流に関わる動脈や静脈が繋がってしまうことで、臓器血流が乱れる病気です。
くも膜下出血や脊髄損傷の原因にもなるため、早期から適切な治療を受けることが重要です。
そこでこの記事では、CCJ DAVFの病態や治療について詳しく解説します。
CCJ DAVFの基本情報と病態生理
頭蓋頸椎移行部脊髄硬膜動静脈瘻とは、その名の通り頭蓋頸椎移行部(Cranio Cervical Junction:CCJ)に発生する、硬膜動静脈瘻(Dural Arteriovenous Fistula:DAVF)で、頭文字を取ってCCJ DAVFと言います。
まず脳は3つの膜に覆われており、内側から順に軟膜・クモ膜・硬膜の順です。
この硬膜には血管が豊富に存在していますが、本来交通しないはずの動脈と静脈が頭蓋骨と頚椎の間でシャント、つまり交通してしまうと、CCJ DAVFという病気に至ります。
通常、硬膜動静脈瘻の好発部位は海綿静脈洞部、横-S状静脈洞部であり、頭蓋頸椎移行部での発症は比較的稀です。
この病気の問題は、動脈と静脈がシャントすることで脳や脊髄への血流が乱れる点です。
動脈とは心臓から駆出される圧の高い血液が流れる血管であり、各臓器に酸素や栄養分を供給しています。
この際、臓器内では毛細血管と呼ばれる細い血管で酸素や栄養分の引き渡しをゆっくり行うため、血液の速度は一気に低下します。
その後、臓器から老廃物などを回収した静脈は圧が低い状態で心臓に戻っていくため、基本的に動脈よりも圧が低いわけです。
CCJ DAVFにおいては、硬膜において動脈と静脈がシャントすることで、圧の高い動脈から圧の低い静脈に一気に血液が流入するため、脳や脊髄における血流障害を引き起こします。
動脈からの血液によって静脈の血液が頭蓋内に逆流した場合、静脈瘤を形成しやすく出血傾向が上がると言われており、くも膜下出血の発症リスクが増加します。
また静脈の逆流が脊髄静脈に及ぶと、脊髄における血流障害が出現し脊髄が虚血に陥り、麻痺やしびれなどの神経障害をきたすこともあるため、注意が必要です。
つまり、CCJ DAVFにおいてはどの動脈がどの静脈とシャントし、どの臓器の血流障害が出現するかで出現する症状もさまざまです。
外科的介入の役割や血管内治療とその効果
では、CCJ DAVFに対してはどのように治療すべきでしょうか?
一般的にCCJ DAVFの治療は下記の2つです。
- 外科的手術
- 血管内治療
外科的手術の場合、原因となるシャントを直視できるように描出し、直接遮断する術式です。
一方で、血管内治療では上肢や下肢の血管からシャント部位にカテーテルを進め、原因となるシャント部位を液体塞栓物質で閉塞する治療法です。
どちらを優先するかは報告によっても異なりますが、127例の治療報告をまとめたWangらの報告によれば、外科的手術が55.9%、塞栓術は24.4%の割合でした。
基本的には下記のような理由から血管内治療よりも外科的手術が第一選択となります。
- 頭蓋頸椎移行部においては血管内治療ではシャント部位にアプローチしにくい
- 液体塞栓物質の位置どりが悪いと根治性に欠く
直接目で見てシャント部位を遮断できる外科的手術と異なり、血管内治療では頭蓋頸椎移行部が病変の場合、技術的に困難であることが多いです。
また、カテーテル先端から注入される液体塞栓物質が標的部位以外に逆流・迷入してしまうこともあり、さらに神経障害を悪化させる可能性もあります。
一方で、外科的治療の場合も下記のようなリスクがあります。
- 血管遮断における血栓形成
- 病変の残存・再発
原因血管を遮断することで静脈側に血栓が形成されやすくなり、遅発性に脊髄障害が増悪していく可能性があるため、手術したから絶対に大丈夫という訳でもありません。
また、完全に遮断できないなどの理由で病変の残存・再発の可能性もあります。
再生医療を用いた治療の可能性
今、脳梗塞や脊髄損傷など、これまで改善することが困難であった神経疾患に対して、再生医療が注目されています。
神経細胞は自身の力で再生する能力が低いため、一度障害されると後遺症として残りやすいです。
しかし、再生医療によって神経細胞の再生が促進されれば、CCJ DAVFに伴う血流障害によって破壊された神経細胞の再生も期待できます。
ただし、CCJ DAVF自体はシャント血管を外科的手術、もしくは血管内治療で物理的に閉塞する必要があるため、あくまでも再生医療は神経学的後遺症に対しての治療となることは理解しておきましょう。
まとめ
今回の記事では、 頭蓋頸椎移行部脊髄硬膜動静脈瘻(CCJ DAVF)の病態や治療について詳しく解説しました。
CCJ DAVFは決して頻度の多い病気ではありませんが、一度発症すれば治療しないで改善することはなく、継続的に症状が悪化していく病気です。
特に、脳や脊髄への血流障害に伴う麻痺やしびれなどの神経学的後遺症は日常生活に大きく影響するため、早期診断・早期治療が肝要です。
一方で、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
これまで治療の困難であった神経症状に対して、ニューロテックメディカルでは、狙った脳・脊髄の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「神経再生医療×同時リハビリ™」によって、CCJ DAVFによる神経学的後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 脊髄硬膜動静脈瘻は頸髄に関係しますか?
- 脊髄硬膜動静脈瘻では、上行咽頭動脈などの動脈が静脈にシャントを形成することで、頸髄への血流障害を引き起こす可能性があります。
その場合、頸髄が障害され四肢麻痺や四肢の痺れが生じるため、注意が必要です。 - 頭蓋頸椎移行部脊髄硬膜動静脈瘻の原因は?
- 頭蓋頸椎移行部脊髄硬膜動静脈瘻の原因は多くの場合、不明です。
ただし、外傷や脊髄・脊椎の手術によって癒着などが起こり、動静脈瘻が形成される可能性があることが指摘されています。
<参照元>
・日本神経学会:https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/056010037.pdf
・Pub Med:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26195333/
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