この記事を読んでわかること
・頚椎症性筋萎縮症の原因がわかる
・頚椎症性筋萎縮症の特徴的な症状がわかる
・頚椎症性筋萎縮症が難病である理由が知れる
頚椎症性筋萎縮症とは、頚椎の変形に伴い脊髄や神経根が圧迫され、上肢に筋萎縮が生じる病気です。
しびれは認めない、もしくはあっても軽微であり、麻痺とそれに伴う筋萎縮が主な症状ですが、出現する症状は多彩で個人差も大きいことが知られています。
この記事では、頚椎症性筋萎縮症の症状や原因、治療法などについて紹介します。
この疾患の主な発症原因
頚椎症性筋萎縮症の原因は、脊髄前角もしくは前根、もしくはその両方の圧迫であると考えられています。
これらの病態を理解するためにも、脊髄や脊椎の解剖を少し知っておきましょう。
まず、脳から運動の指令を身体に伝える、もしくは身体からの感覚の情報を脳に伝える橋渡しとしての役割を担っているのが脊髄です。
脳→脊髄→脊髄前角→前根(前側の神経根)→末梢神経→筋肉、という順に運動の指令が伝達され、最終的には筋肉が刺激されて運動が起こります。
逆に、身体からの感覚は末梢神経→後根(後側の神経根)→脊髄後角→脊髄→脳、という順に伝達され、最終的に大脳皮質で受け取った情報によってヒトは「痛い、熱い」などの感覚を自覚します。
次に、この非常に重要な神経組織である脊髄を守っているのが脊椎(いわゆる背骨)です。
脊椎は、上から順に頚椎・胸椎・腰椎・仙椎と区分され、それぞれ椎骨と呼ばれる小さな骨が縦に連なって形成されています。
また、椎骨と椎骨の間は骨同士がすり減らないように、椎間板と呼ばれる緩衝材が存在します。
これらの椎骨・椎間板、そのほかの靭帯・筋肉などによって脊髄は周囲を囲まれており、この空間こそが脊髄を外から守っている脊柱管です。
症状進行によるリスク
しかし、加齢や外力に伴って脊椎や椎間板、靭帯は変形していくため、内部を走行する脊髄が圧迫され、さまざまな神経症状をきたします。
特に、頚椎は首の回旋運動を可能にするため、あえて不安定性が高い構造となっているため、変形の影響を受けやすく、頚椎の変形によって脊髄が圧迫されれば頚椎症性脊髄症、神経根が圧迫されれば頚椎症性神経根症となります。
通常、頚椎症性脊髄症では上肢や下肢がともに障害され、また麻痺だけではなくしびれを伴うことが一般的です。
一方で、頚椎症性筋萎縮症とは脊椎の変形によって脊髄前角や前根の神経細胞を栄養する動脈が圧迫されることで、上肢に麻痺が生じる病気であると考えられています。
そのため、現在で言う所の頚椎症性筋萎縮症の症状は通常の頚椎疾患としては一般的ではなく、1965年にキーガンがその病態を死体解剖を経て報告するまでは、あまり解明されていませんでした。
これらの経緯から、一般的ではない臨床所見をきたす頚椎症として、キーガンの名を取って、キーガン型頸椎症とも呼びます。
では、どのような症状が見られるのでしょうか?
キーガン型頸椎症の症状と特徴
キーガン型頸椎症の症状は、それぞれ上肢の近位に筋萎縮の強い近位型、遠位に筋萎縮の強い遠位型、両者を合併する合併型に分類されます。
- 近位型:三角筋や上腕二頭筋の筋力が低下するため、肩が上がらなくなる
- 遠位型:手首の運動や指の屈伸運動が障害される
より高頻度なのは近位型であり、キーガン型頸椎症も厳密には近位型の頚椎症性筋萎縮症のことを指します。
また、近位型では肩が上がらなくなる以外にも、上腕二頭筋の萎縮に伴う肘関節の屈曲運動の低下、さらには前腕回外筋の筋力低下も認められることが多いです。
手術の選択肢とリスク管理
頚椎症性筋萎縮症の厄介な点は、手術によって脊髄や神経根の圧迫を解除すれば必ずしも症状が改善する訳ではなく、むしろ悪化するケースすらある点です。
治療結果に応じて、主に4つのケースに分けられます。
- 手術を行わなくても保存療法で改善するタイプ
- 手術で改善するタイプ
- 手術で改善しないタイプ
- 手術した結果、症状が悪化するタイプ
特に術前に脊髄や神経根がより広範囲で障害されているケースでは、術後悪化する傾向にあることが知られており、治療法の選択には慎重を期すべきでしょう。
頚椎症性脊髄症の治療後の生活と予後
頚椎症性脊髄症の手術後のリハビリテーションは、後遺症を予防し、日常生活の質を向上させるために非常に重要です。
手術後、物理療法、作業療法、言語療法などの様々なリハビリを行い、脊髄への圧迫を解消し、関節の硬直や筋力低下を防ぎます。
これらのリハビリは、歩行や手指の動きなど、日常生活の動作を改善することを目的としています。
リハビリ期間は、個々の状態によって異なりますが、医師やリハビリ専門家の指導のもと、計画的に行うことが大切です。
手術後も、しびれ、痛み、運動機能障害などの後遺症が残る可能性があります。これらの後遺症に対しては、痛み止めや装具の使用、さらなるリハビリテーションなど、適切な対処を行う必要があります。
日常生活においては、正しい姿勢を維持し、適度な運動を行うことが重要です。
特に、首や肩周りのストレッチや、体幹を安定させる運動は効果的です。
ただし、過度な運動は症状を悪化させる可能性があるため、医師や理学療法士の指導のもとで行うようにしましょう。
定期的な通院と医師の指示に従うことで、後遺症のリスクを最小限に抑え、快適な生活を送ることができます。
まとめ
今回の記事では頚椎症性筋萎縮症の病態や症状・治療などについて解説しました。
頚椎症性筋萎縮症は、頚椎の加齢性変化に伴う主に前根の循環障害がその病態と考えられており、一般的な頚椎症とは異なる症状であることが知られております。
症状が軽度であれば保存療法(消炎鎮痛剤や理学療法など)が選択され、人によっては改善が見込めるケースもありますが、保存療法での改善が難しければ手術療法を検討します。
ただし、手術によって誤って神経を損傷したり、手術が成功しても症状が悪化するケースもあるため、治療法の選択には注意が必要です。
また、近年では再生医療の発達もめざましく、再生医療によって損傷した神経機能が再生すれば、筋萎縮も改善する可能性があり、今後のさらなる知見が待たれるところです。
よくあるご質問
頸椎症性筋萎縮の症状は?
頚椎症性筋萎縮症の特徴的な症状は、しびれを伴わない、もしくは軽微なしびれとともに出現する上肢の麻痺です。
特に、肩周囲の筋萎縮が強く、肩が上がらなくなる方が多いです。
筋萎縮が起こるとどうなる?
筋萎縮が起こると、その部位に応じた運動が障害されます。
特に、頚椎症性筋萎縮症では三角筋や上腕二頭筋における筋萎縮が高頻度で出現します。
三角筋は肩関節の挙上、上腕二頭筋は肘関節の屈曲運動を可能にしているため、これらの運動がうまく行えなくなるでしょう。
<参照元>
・今日の臨床サポート:https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1979
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/28/2/28_151/_pdf
・東京医科歯科大学 整形外科:https://tmdu-orth.jp/spine-disease/post-3982/
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