この記事を読んでわかること
・急性散在性脳脊髄炎とは
・急性散在性脳脊髄炎の原因
・急性散在性脳脊髄炎の治療
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は「中枢神経脱髄疾患」に分類される疾患で、脳や脊髄の神経に「脱髄」が起きることで症状が発生します。
子どもに起きることの多い疾患ですが、ワクチン接種後に発生する例が報告されたことから注目を集めています。
この記事では、急性散在性脳脊髄炎について解説します。
急性散在性脳脊髄炎とは
急性散在性脳脊髄炎は、脳や脊髄の神経に「脱髄」を起こす疾患であり、意識障害など重い症状を引き起こします。
- 「脱髄」というのは神経の「髄鞘」に障害が起きること
- 「髄鞘」とは神経から神経へ情報を伝達するのに重要な役割を果たす、神経を覆う膜のような組織のこと
- 「脱髄」が起きると神経の情報伝達が遅くなったり、間違った情報が伝えられたりしてしまうため様々な症状が発生する
年間10万人あたり0.4-1人に発生するまれな疾患であり、好発年齢は3-7歳と子どもに発生しやすいとされています。
急性散在性脳脊髄炎の症状
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の症状は多岐にわたり、主に発熱、頭痛、嘔吐、食欲不振などが初期症状として現れます。
また、けいれん発作や意識障害、運動麻痺などの神経症状も特徴的です。
これらの症状は急速に進行することが多く、早期の診断と治療が重要となります。
急性散在性脳脊髄炎の原因
詳細なメカニズムは分かっていませんが、自分で自分の神経を攻撃してしまう「自己免疫」が原因となることが分かっています。
風邪などの感染症状が起きた後に発生することが多く、インフルエンザウイルスやB群溶連菌、麻疹(はしか)や水痘・帯状疱疹ウイルスなど様々なウイルス感染後に発症したという報告があります。
髄鞘を構成する成分と、ウイルスなど外から入ってくる異物の間に似た特徴があると、自分の髄鞘を外敵と勘違いして攻撃してしまうのです。
ワクチン接種の後に発症する可能性があることも多く報告されており、新型コロナウイルスワクチンによる影響が注目されました。
厚生労働省ホームページにもワクチンによる重篤副作用として、急性散在性脳脊髄炎が挙げられています。
急性散在性脳脊髄炎の診断方法
急性散在性脳脊髄炎の診断には、MRIやCTスキャンが主に用いられます。
MRIでは、脳や脊髄における炎症性病変が確認され、診断の決定に重要な情報を提供します。
また、血液検査や髄液検査も行われ、他の疾患との鑑別診断が行われます。
早期の正確な診断が治療の成功に直結するため、適切な診断手法が不可欠です。
急性散在性脳脊髄炎の治療
一刻も早く自分の免疫をコントロールする治療を行う必要があります。
そのために使用される薬剤にはステロイド、免疫グロブリン、シクロフォスファミドなどがあります。
また、血液中の抗体をきれいにするため血漿交換療法という治療が行われることもあります。
急性散在性脳脊髄炎で命を落としてしまうことは多くなく、56-94%の方は発症後1-2ヶ月経過すると運動機能はほぼ回復するとされています。
ただし発症3年後に再度機能を評価すると運動や知能に障害が起きているとする報告もあり、本症の後遺症である可能性があることから注意が必要です。
ステロイドパルス療法
ステロイドパルス療法は、ADEMの急性期における第一選択治療であり、炎症を抑え、神経症状の改善を促す効果が期待できます。
しかし、高血糖や感染症などの副作用が生じる可能性があるため、医師の指示のもと、慎重に治療を受ける必要があります。
免疫グロブリン療法
ステロイドパルス療法が無効な場合や、重症な場合は、免疫グロブリン療法が検討されます。
免疫グロブリン療法は、免疫系の働きを調節することで、炎症を抑える効果が期待できます。
ただし、発熱や頭痛などの副作用が生じる可能性があります。
その他の治療法
その他、重症な場合やステロイド療法が無効な場合には、プラズマ交換療法が検討されることがあります。
また、再発を予防するために、免疫抑制剤が長期的に使用される場合もあります。
急性散在性脳脊髄炎の予後と長期的な影響
急性散在性脳脊髄炎の予後は患者によって異なり、早期の治療が行われた場合は比較的良好な経過をたどることが多いですが、場合によっては後遺症や再発のリスクが残ることもあります。
長期的な影響として、運動機能や認知機能の低下が生じる可能性があり、リハビリテーションが重要な役割を果たします。
急性散在性脳脊髄炎に対する再生医療
神経のダメージは一度発生すると回復が難しく、後遺症が残るケースが多くあります。
様々な神経疾患に共通した特徴であり、急性散在性脳脊髄炎もその特徴を有する疾患の一つです。
子どもに発生する疾患であることから、後遺症は一生涯付き合っていかなければならないことになります。
神経の機能そのものを後から治療することは難しく、急性期にどれだけ症状を抑えることができるかにかかっているのです。
そのような状況の中、神経そのものを治療しようとする試みが広がっており、様々な手法が用いられています。
そのうちの一つが、再生医療です。
再生医療は神経の元になる幹細胞を治療に使用します。
体内に移植された幹細胞は分裂・成長する際に神経や血管を保護する因子を放出します。
それに加えて神経に成長した細胞は、体内の障害された神経に集まり、そこで神経として機能するようになることが期待されています。
ニューロテックメディカル株式会社では、「ニューロテック®」として脳卒中・脊髄損傷・神経障害などに対する幹細胞治療の基盤特許を取得しており、再生医療の効果を高める取り組みを行っています。
急性散在性脳脊髄炎に対しては、再生医療と最先端のリハビリテーションを組み合わせることで最大限の機能回復を達成できると考えています。
急性散在性脳脊髄炎の症状にお悩みの患者さんやご家族の方は、ぜひご相談ください。
急性散在性脳脊髄炎についてのまとめ
急性散在性脳脊髄炎について解説しました。
ワクチン後遺症としても注意が必要であり、厚生労働省ホームページでは「ワクチンを接種してから1-4週後くらいに頭痛や発熱、嘔吐、意識混濁、眼が見えにくい、手足が動きづらいなどの症状がある場合には急いで医療機関へ連絡を」と記載されています。
後遺症に対する再生医療の可能性が期待される中でも、急性期治療が重要であることは変わりありません。
万が一発症を疑う場合には、早急に対処してください。
よくあるご質問
- 急性散在性脳脊髄炎の症状は?
- かぜ症状やワクチン接種の1〜4週後に意識障害が起こり、頭痛や嘔吐、痙攣などが出現します。発症してから1週間以内に症状はピークとなり、その後徐々に改善します。
重症では集中治療室での治療が必要となり、死亡する例もあります。 - 急性散在性脳脊髄炎の後遺症は?
- 多くの場合症状を残さずに改善するとされていますが、しっかりと評価すると発症後3年でも運動や知能に障害を残していたという報告があります。
重症であるほど後遺症を残すリスクが高くなると考えられます。
<参照元>
・「重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性散在性脳脊髄炎」厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r5n.pdf
・ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が疑われる:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001161515.pdf
・「急性散在性脳脊髄炎(ADEM)」日本臨床80 増刊号5, 2022
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