この記事を読んでわかること
多発神経鞘腫の病態や症状がわかる。
多発神経鞘腫の治療法や予後がわかる。
多発神経鞘腫で注意すべき症状がわかる。
多発神経鞘腫とは、神経鞘腫と呼ばれる良性腫瘍が全身の神経に生じることでさまざまな神経症状をきたす疾患です。
特に聴神経が障害されやすく、放置すれば聴力低下や耳鳴りなどの症状によって日常生活に大きな支障をきたします。
この記事では、多発神経鞘腫の病態や症状、治療法などについて詳しく解説します。
多発神経鞘腫とは
多発神経鞘腫とは、その名の通り神経鞘腫と呼ばれる良性腫瘍が全身の神経に多発する病気で、発症頻度はおおよそ25,000〜60,000人に1人とされている難病です。
神経は電線のような構造を成しており、内側に軸索と呼ばれる神経細胞の束(神経信号を伝える部分)があり、その外側を髄鞘と呼ばれる鞘のような構造物で覆われています。
この髄鞘はシュワン細胞と呼ばれる細胞によって構成されており、このシュワン細胞が異常増殖してしまうと神経鞘腫と呼ばれる腫瘍になります。
良性腫瘍であるため、周囲の組織に浸潤するわけではありませんが、徐々に大きくなると軸索が圧迫されることで様々な神経症状をきたすため、注意が必要です。
神経鞘腫自体は本来孤発性(遺伝とは関係なく偶然発症する)であることがほとんどですが、稀に遺伝的要因や特殊な症候群によって多発することがあり、主に下記の2つの疾患が知られています。
- 神経線維腫症Ⅱ型(最近ではNF2関連神経鞘腫症と呼ばれる)
- 神経鞘腫症
脳・脊髄・末梢神経など全身の神経に神経鞘腫が形成される点は共通していますが、聴神経にも形成されるのが神経線維腫症Ⅱ型、聴神経には形成されないのが神経鞘腫症と分類されます。
なお、神経線維腫症Ⅱ型の場合は両親のいずれか一方が発症している場合、50%の確率で子供も発症する可能性があるため、注意が必要です。
症状は発症した神経の部位によって異なり、主に下記の通りです。
- 聴神経が障害される場合:難聴・めまい・ふらつき・耳鳴りなど
- 脊髄が障害される場合:手足の麻痺・しびれ・感覚低下など
- 脳が障害される場合:頭痛・半身麻痺・嘔吐など
これらの症状に加え、頭部MRI検査などの画像検査で診断を行いますが、最終的な確定診断のためには病理組織学的検査が必要となります。
多発神経鞘腫の治療法や予後

一般的に、良性腫瘍の場合は悪性腫瘍と異なり他の組織に浸潤・転移はしないため、発症しても経過観察となります。
しかし、多発神経鞘腫の場合は腫瘍が増大すると神経を圧迫してしまうため、痛みや難聴などの症状が出現したら治療を検討することになります。
多発神経鞘腫に対する主な治療法は下記の3つです。
- 手術療法:外科的に腫瘍を切除する治療
- 放射線療法:体外から放射線を照射してメスを使わずに腫瘍の増大を抑制する治療
- 薬物療法:腫瘍増殖を抑制する治療
特に注意すべきは神経線維腫症Ⅱ型によって聴神経鞘腫を発症している場合です。
放置すれば聴力の低下や脳の圧迫によって生命に関わる可能性もある一方で、手術や放射線療法そのもので聴神経を損傷してしまい、聴力を温存できないケースも少なくありません。
薬物療法であれば聴力維持が期待される場合があるのですが、治療に用いられる分子標的薬ベバシズマブは現状保険適用外であるため、現状では手術療法が主な治療法となります。
多発神経鞘腫はあくまで良性疾患であり、早期に対策すれば予後は良好な疾患であるため、いかに早期発見・早期治療に努めるかが重要です。
こんな症状があれば要注意!
神経鞘腫の多くは末梢神経から発生することが多く、局所的な痛み・しびれ・放散痛などが初発症状となることが多いです。
また、脳神経から発生する神経鞘腫の90%以上は聴神経に発生することが知られており、難聴やめまい・ふらつき・耳鳴りなどの症状も認める場合は神経線維腫症Ⅱ型を疑う必要があります。
これらの症状を無視して、下記のような症状を認める場合、腫瘍の著明な増大を認める可能性が高いため、早急に医療機関を受診すべきです。
- 意識障害
- 半身麻痺
- 激しい頭痛や嘔吐
まとめ
この記事では、多発神経鞘腫の概要や症状、治療などについて詳しく解説しました。
多発神経鞘腫で問題になるのは、閉鎖空間である頭蓋内や脊柱管内(脊髄が通る管状構造)に腫瘍が多発し、正常な脳や神経が圧迫されることです。
放置すれば永続的な難聴や死に至る可能性もあるため、症状に心当たりのある方は早期に医療機関を受診しましょう。
ニューロテック
近年では、神経障害が「治る」を当たり前にする取り組みとして注目されている「ニューロテック®」という考え方があります。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対して「狙った脳・脊髄の回復を支援する可能性が期待される」再生医療「リニューロ®」を軸とするアプローチで、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリ®を組み合わせた治療法です。
神経鞘腫による神経障害や術後の神経損傷に対しても、今後このような先進的な治療法が希望となる可能性があります。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。
よくあるご質問
- 神経鞘腫ができる原因は?
- 神経鞘腫ができる原因は現状でもほとんど解明されておらず、原因不明に孤発性に生じることがほとんどです。
一方で、遺伝性による発症も一部認めており、NF2遺伝子の異常による神経線維腫症Ⅱ型がその代表例です。 - 神経鞘腫はガンですか?
- 神経鞘腫はガンではなく、良性腫瘍の1つです。
そのため周囲の組織に浸潤や転移をすることはありませんが、増殖することで周囲の組織を圧迫することがあります。
特に、神経鞘腫は正常な神経を圧迫するため、ガンではなくても手術が必要となることがあります。
<参照元>
(1)神経線維腫症Ⅱ型(指定難病34)|難病情報センター:
https://www.nanbyou.or.jp/entry/123
(2)迷走神経鞘腫を伴う多発性神経鞘腫症の1例|J STAGE:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/25/2/25_2_155/_pdf/-char/ja
(3)神経線維腫症|MSDマニュアル:
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/23-%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E8%85%AB%E7%97%87
(4)神経鞘腫|日本神経病理学会:
https://www.jsnp.jp/shikkan/cerebral_7.htm













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