この記事を読んでわかること
・脱水による血栓形成のメカニズム
・脱水による心原性脳梗塞のリスクについて
・血管内皮機能を高める方法としての再生医療とは
高齢者は元々の体内の水分量も少ない上に水分摂取量が減少しやすいため、特に発汗しやすい夏季には脱水状態に陥りやすいです。
脱水状態が持続すると徐々に血液が濃縮状態になり、元々の動脈硬化病変や心疾患に伴う血栓形成のリスクを高めてしまい、結果として脳梗塞の引き金になります。
そこで本書では脱水と脳梗塞の関係性について解説します。
脱水による血栓形成のメカニズム
そもそも脳梗塞とは脳の血管が詰まる病気です。
原因によって心原性脳塞栓症、アテローム性血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、そのほかの脳梗塞に大別されます。
心原性脳塞栓症は、その名の通り心臓の中に血の塊である血栓ができて、脳に飛んでしまう病態です。
アテローム性血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の原因は、動脈硬化や血管内に蓄積した脂肪の塊(アテローム)により脳の血管が閉塞してしまう病態です。
脳梗塞の予防的観点では、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を適切にコントロールするための生活習慣の改善が肝要ですが、一方で脱水も脳梗塞のリスクを上昇させてしまうことが知られています。
発汗や飲水量の低下に伴う脱水によって血液が濃縮し血液粘稠度が高まってしまいます。
さらに血栓の元となるフィブリノゲンの濃度が上昇することで凝固能も亢進してしまいます。
つまり一般的な言葉で言えば「ドロドロの血液」になってしまうため、血栓が形成されやすくなってしまうのです。
さらに細かく解説すると、血小板が集まることで弱くて脆い一次血栓である血小板血栓が形成され、血小板血栓の周囲をフィブリンという凝固因子が覆って強くすることでいわゆる血栓ができます。
このフィブリンが形成される過程では、フィブリノゲンをはじめとする12種類の凝固因子と呼ばれるものがそれぞれ複雑に反応し合って最終的にフィブリンを形成し、血小板血栓を覆い固めて血栓を形成します。
脱水による血液濃縮はフィブリノゲンの血中濃度を上昇させ血栓形成傾向を促してしまいます。
脱水による血栓形成傾向は、脳の深部の細い血管や、太い血管の狭窄部、さらには心臓の内部にも血栓の形成を引き起こし、全てのタイプの脳梗塞の発症リスクを上昇させてしまいます。
特に睡眠中は発汗や飲水量の低下などの条件が揃うため、朝方や起床時は脳梗塞が発症しやすいタイミングであり注意が必要です。
脱水による心原性脳梗塞のリスクについて
ラクナ梗塞やアテローム性血栓性脳梗塞の原因が動脈硬化であったことに対して、心原性脳塞栓症の血栓形成の原因はあくまで「血液の流れが悪い」からです。
心臓の拍動リズムに問題があったり、心臓内に人工物(ペースメーカーや手術による機械弁など)が入っていることで、血液の流れが悪くなり心臓内に血栓ができてしまいます。
心臓の影響でただでさえ流れが悪い所に、脱水状態で「ドロドロの血液」が流れれば当然血液は固まりやすくなってしまいます。
さらに心臓疾患の患者は強制的に尿を多く排出させる利尿剤の内服者も多く、利尿剤により脱水になる可能性も高まるため、再発も含め注意が必要です。
脳梗塞予防に適切な脱水を防ぐための看護とは?
人間が脱水に陥るには様々な原因があります。
飲水量の不足、食事摂取不足はイメージしやすいかもしれませんが、尿が病的に多く出てしまう病気(尿崩症や糖尿病による浸透圧利尿、利尿剤内服など)でも脱水に陥ります。
また塩分不足でも血管内に水分を確保できず血液濃縮が出現します。
では一体どのようにして周囲の人間は脱水であると判断すべきなのでしょうか?
普通は尿量が減少したり尿の色が濃くなることで脱水を感じることが多いですが、前述したように多尿が原因で脱水になることもあるため判断材料になりません。
どの脱水にも共通し、かつ周囲の人が見て分かる所見としては、皮膚や口腔内の乾燥、皮膚をつまんでもハリが無くてなかなか元に戻らない、血圧の低下、頻脈などが挙げられます。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病による動脈硬化や心疾患をお持ちの方を看護する場合、上記の所見を認めれば脱水の可能性が高いと考え、脳梗塞予防の意味でも水分摂取を促すことを勧めます。
重症脱水の患者に無理に経口から飲ませようとすると誤嚥する可能性もあるため、経口からの飲水が難しい場合は医療機関への受診を検討すべきです。
まとめ
また近年では、血管の動脈硬化を予防したり、血管内皮機能を高める方法として再生医療も注目されています。
今まで脳梗塞など一番治りにくい神経細胞では傷つくと2度と回復することはないと言われてきました。
しかし、再生医学の進歩で、傷ついた組織でさえ改善することが分かってきました。
具体的には骨髄の中にある幹細胞を取り出し、培養したものを点滴投与する方法です。
幹細胞には損傷した細胞を再構築する能力があるからです。
現在、多くの治療結果が積み重なってきており、その成果が今後更に明らかになっていくと思います。
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