この記事を読んでわかること
・唾液分泌のメカニズムがわかる
・脳梗塞による唾液分泌減少のメカニズムがわかる
・唾液分泌低下による健康への影響がわかる
唾液は嚥下や消化を助けたり、抗菌作用・粘膜保護など、実はさまざまな機能を有しています。
しかし、脳梗塞をはじめとする何らかの原因によって唾液分泌が低下してしまうと、これらの機能が障害されてさまざまな健康被害が生じます。
この記事では、唾液分泌のメカニズムや脳梗塞との関係、さらに分泌低下に伴う健康への影響について解説します。
唾液分泌を司る神経細胞の働き
普段食事をする時に唾液は自動で、無意識に分泌され、口の中で食べ物の消化を促進したり、口腔内の衛生環境を清潔に保ちます。
しかし、なぜ唾液が自動で分泌されるのか、メカニズムを説明できる人は少ないでしょう。
まず、唾液のほとんどは舌下腺・耳下腺・顎下腺と呼ばれる唾液腺から分泌されます。
この唾液腺は交感神経と副交感神経で構成される自律神経によってそれぞれ二重に支配されており、その時の状況によって交感神経と副交感神経がそれぞれ作用しながら唾液分泌に関与しているわけです。
まず、食事摂取を例に解説すると、食事摂取によって副交感神経が活性化し、脳幹にある上唾液核や下唾液核が刺激され、下記のような経路で唾液腺を刺激します。
- 上唾液核→顔面神経→顎下神経節→舌下腺・顎下腺
- 下唾液核→舌咽神経→耳神経節→耳下腺
副交感神経による唾液腺への刺激の場合、アセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、アセチルコリンがムスカリン受容体に結合することで、血漿成分中の水分が唾液として分泌されるため、サラサラした唾液が分泌されるわけです。
一方で、ストレスなどによって交感神経が活性化した場合、上頚神経節から分岐した交感神経が直接舌下腺・耳下腺・顎下腺を同時に刺激します。
交感神経による唾液腺への刺激の場合、ノルアドレナリンという神経伝達物質が分泌され、ノルアドレナリンがアドレナリン受容体に結合することで、アミラーゼなどの唾液タンパク質が分泌されるため、ネバネバした唾液が分泌されます。
だからこそ、人は緊張状態になると口の中が乾燥したり、粘り気のある唾液が分泌されるわけです。
脳梗塞が神経細胞に与える影響
唾液分泌のメカニズムは上記で記した通りであり、このいずれかの経路が何らかの原因で障害されることで唾液分泌は低下します。
- 唾液腺そのものの機能低下:加齢・シェーグレン症候群・放射線照射など
- 副交感神経の機能低下:薬剤性・医原性の神経障害など
- 中枢性の機能低下:脳梗塞・脳出血などの脳血管障害など
UETAらの報告によれば、唾液分泌の最も多い原因は加齢です。
加齢によって唾液腺そのものの機能が低下したり、唾液腺の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群や、何らかのがん治療に伴う放射線照射も唾液腺の機能低下を招く原因です。
次に、脳から分岐した顔面神経や舌咽神経の副交感神経枝が医原性に損傷した場合や、副交感神経を遮断する薬剤の使用によっても唾液分泌は低下します。
さらに、稀ではありますが脳梗塞などの脳血管障害によって脳幹の橋にある上唾液核や、延髄にある下唾液核が障害されると、唾液分泌の刺激そのものが入らなくなるため、唾液分泌は低下する可能性があります。
唾液分泌障害の長期的な健康への影響
では、唾液分泌の低下は身体にどのような悪影響を及ぼすのでしょうか?
通常、唾液が担う役割は下記の通りです。
- 消化の促進
- 口腔内を清潔に保つ
- 味覚を正常に保つ
- 嚥下を助ける
- 抗菌作用を持つ
唾液に含まれるアミラーゼは消化を促進し、また口腔内の食べ物をまとめることで嚥下の手助けにもなります。
また、唾液は口の中の食べかすを洗い流したり、口腔内の保湿・保護作用もあるため、口腔内が清潔に保たれます。
他にも、食べ物の成分を味蕾(味覚を感じる部位)に運搬することで味覚を正常に保ったり、外部から侵入した細菌の増殖を防ぐ抗菌作用も唾液の重要な役割です。
唾液の分泌量が低下すれば、これらの機能が障害されるため、嚥下障害・味覚障害・口腔内の不潔に伴う齲歯や歯周疾患の発症・乾燥に伴う粘膜損傷など、さまざまな悪影響を及ぼします。
まとめ
今回の記事では、脳梗塞による唾液分泌障害の原因と影響について詳しく解説しました。
普段無意識に分泌・調整されている唾液ですが、実は一人で何役もこなしているため、分泌が低下されなくなるとその影響は少なくありません。
特に脳梗塞などの脳血管障害によって唾液分泌に関わる神経が障害された場合、神経の機能が完全に元に戻ることは困難であるため、嚥下障害や口腔内感想などさまざまな後遺症が残ってしまいます。
しかし、近年では損傷した脳細胞や神経細胞の再生を見込める再生治療が注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、脳梗塞による唾液分泌障害の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 脳梗塞の後遺症でよだれが出るのはなぜですか?
- 脳梗塞の後遺症でよだれが出るのは、顔面神経麻痺によって口元の筋肉が麻痺するためです。
口元の筋肉に力が入らなくなり、口腔内の唾液が漏れ出しやすくなることでよだれが垂れます。 - 脳血管障害は唾液に影響しますか?
- 脳血管障害は唾液に影響します。特に、橋や延髄などの脳幹に梗塞や出血が生じると、上唾液核や下唾液核が障害されて、舌下腺や耳下腺などの唾液腺に唾液分泌の刺激が入らなくなります。
その結果、唾液分泌量が減少する可能性があります。
<参照元>
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/56/3/56_155/_pdf/-char/ja
・厚生労働省:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-004.html
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1964/40/12/40_12_858/_pdf/-char/ja
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatology1952/52/5/52_5_227/_pdf
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