この記事を読んでわかること
・中大脳動脈の梗塞について
・脳梗塞の初期症状
・中大脳動脈梗塞で出現する症状(後遺症)
脳梗塞と一口に言っても、梗塞した部位によって症状や後遺症は様々です。
脳梗塞というと、どんなイメージをお持ちでしょうか?
「知らずのうちに進行している」「突然意識を失って倒れる」「ひどい後遺症が残る」など、かなり重いイメージがあるかと思います。
しかし梗塞(血管が詰まり脳細胞が壊死)した部位によっては、イメージとは異なるケースも多々あります。
手遅れにならないためには、各部位が梗塞した時の影響について知っておくことが理想です。
今回は脳梗塞の中で最も多い「中大脳動脈の梗塞」について解説していきます。
※必ずお読みください
この記事で紹介している症状は中大脳動脈梗塞に限定されるものではありません。
他の疾患が潜んでいる可能性も考えられます、症状に心当たりがある場合は、速やかに医療機関へ受診してください。
中大脳動脈梗塞とは
中大脳動脈の梗塞は脳梗塞全体で60~70%と、とても多くみられます。
また中大脳動脈梗塞は、略語でMCA(middle cerebral artery)梗塞と呼ばれることもあります。
中大脳動脈とはなにか
心臓から分岐して脳に向かう血管には、主に内頚動脈と椎骨動脈の2本の動脈があります。
そのうち内頚動脈からは、さらに「中大脳動脈」と「前大脳動脈」の2本が分岐します。
中大脳動脈は主に前頭葉の外側、頭頂葉の外側、側頭葉の脳細胞に血液を供給しています。
中大脳動脈に狭窄や閉塞が起こると前頭葉・頭頂葉の一部や側頭葉の機能を傷害し、各症状が現れてくるのです。
中大脳動脈からは脳の深部(大脳基底核)に向かうレンズ核線条体動脈が分岐しています。
脳出血の中で発症率が高いとされる被殻出血は、このレンズ核線条体動脈の破綻によるものです。
また中大脳動脈は根元からM1(sphenoidal)、M2(insular)、M3(opercular)、M4(cortical segment /terminal segment)の4区分で分けられることが多く、レンズ核線条体動脈などの穿通枝(脳の深部に向かう細い血管)が分岐するM1とM2の梗塞、それ以降の抹消側の梗塞とでは予後が大きく異なってきます。
中大脳動脈狭窄症
血管狭窄とは、通常より血管内が狭くなった状態で、供給される血液が不足することにより様々な障害を引き起こします。
血管狭窄の原因は血管の炎症や凝固障害などありますが、その多くは生活習慣の乱れによる動脈硬化(プラーク形成)です。
中大脳動脈狭窄症は、中大脳動脈梗塞の前段階であるとともに脳出血を引き起こす危険性もあります。
狭窄により血流が乏しい状態になると、血流不足を補うために新たな血管を形成します。
この新生血管は他の血管よりも細く、非常に破れやすくなっています。
血管狭窄の多くは生活習慣病が原因になります。
特に高血圧である場合、血管に高い圧力がかかるため新生血管のようなもろい血管は、いつ破れるか分からない状態になっているのです。
現在の医療ではその新生血管をアプローチする手段があります。
生活習慣病を持っている方は早めに医療機関受診しましょう。血管がただ狭くなっているだけだと甘く見ないようにしてください。
初期症状に要注意!
冒頭でも触れましたが、脳梗塞の症状というと突然意識を失い倒れるなど、突然に重篤な症状が出現する「イメージ」があると思います。
しかし実際のところ脳梗塞の初期症状は、一見疲れや睡眠不足が原因のような、見過ごされてしまう症状もあるのです。
以下に脳梗塞の初期症状を挙げます。
当てはまる方は、脳梗塞の可能性があります。はやめに医療機関へ相談しましょう。
- 突然、手足から力が抜ける
- 片足を引きずっていると言われたことがある
- 以前からつまずきやすくなった
- 最近話が理解できなかったり、言葉が出てこなかったりする
- 足元がふらついたり、まっすぐ歩けない
- 片側の手や足がしびれる
- 突然のめまい
- 片目が薄いフィルターがかかったように見えにくくなるときがある
- ものが二重に見える など
これら症状の特徴は、突然あらわれて無症状の時との区別がはっきりしていることが多いです。
はじめのうちは短時間(5~10分)で改善することもありますが、日が経つにつれ悪化したり他の症状も現れてくることもあります。
中大脳動脈梗塞と後遺症
中大脳動脈は、外側の前頭葉、外側の頭頂葉、側頭葉の脳細胞に血液を届けます。
また中大脳動脈から分岐するレンズ核線条体動脈は脳深部の大脳基底核に血液を届けます。
中大脳動脈梗塞が出現し、脳細胞の壊死が進むと以下のような症状が出現します。
- 失語(読む・書く・聴く・話すなど言語機能が失われる)
- 失認(見たり、聞こえたりした情報を認識できなくなる)
- 失読失書
- 失行(日常生活における行動ができなくなる)
- 半側空間無視(視界には入っているが、注意を向けない限り片側を認識できない)
- Gerstmann症候群(手指失認、左右失認、失書、失算の4つが現れた状態)
- 同名性半盲、同名性四分盲(両目の同じ部分が見えなくなる)
- 共同偏視(無意識に視線が左右に寄ってしまう)
- 片麻痺(上肢に強い)
- 半身の感覚障害(上肢に強い)
- 意識障害 など
中大脳動脈梗塞が末梢(先端)側であるほど、症状や後遺症は軽く治療効果が良好であるといわれています。
中大脳動脈の抹消とはM3、M4のことで脳の表面付近を走行します。
M3、M4から分岐する血管は少ないため、梗塞の影響は小さくなります。
反対にM1、M2はレンズ核線条体動脈が分岐したり(M1)、脳表面へ向かう中大脳動脈をたくさん分岐しています(M2)。従
ってM1やM2で梗塞が起こると症状や後遺症は重く長期間の治療が必要になる場合が増えます。
脳細胞は一度障害されると元には戻りません。
しかし適切な看護・リハビリを行うことで「神経可塑性(しんけいかそせい)」という働きにより、機能を回復させることができます。
神経可塑性とは障害された脳細胞を復活させるのではなく、障害された周辺や代償的に働く脳の構造を変化させることで代役として機能させます。
ですが、障害領域が大きいと回復が難しく時間もかかってしまいます。
同じ梗塞でも左右で症状が異なる
脳は左右で優位半球と劣位半球に分かれ、異なる機能に特化しています。
優位半球では言語的な理解能力や計算能力、劣位半球では空間認識能力や芸術的思考能力に特化しています。
一般に左側が優位半球である場合が多く、右利きの方と一部の左利きの方がこれに該当します。
従って左右の中大脳動脈梗塞では出現する症状(後遺症)が異なってきます。
[左中大脳動脈梗塞(優位半球)]
- 失語
- 物体失認(見ただけでは物体を理解できない、視覚以外では理解できる)
- 失読失書
- Gerstmann症候群
- 観念性失行(今までふつうに行えた行動ができなくなる)
- 観念運動製失行(指示された行動ができない、自発的にはできる)
- 右側麻痺(上肢に強い)
- 右半身の感覚障害(上肢に強い)
- 同名性半盲、同名性四分盲(右目)
- 共同偏視(右方向に向く)
- 意識障害 など
[右中大脳動脈梗塞(劣位半球)]
- 半側空間無視
- 着衣失行(衣服を正しく着脱できない)
- 半側身体失認
- 相貌(そうぼう)失認(親しい人でも顔を見ただけでは判別できない)
- 左側麻痺(上肢に強い)
- 左半身の感覚障害(上司に強い)
- 同名性半盲、同名性四分盲(左目)
- 共同偏視(左方向に向く)
- 意識障害 など
中大脳動脈梗塞(脳梗塞)の看護
脳梗塞が起こってしまった場合、手術や薬での治療を行っていきます。
それに合わせ医療スタッフや家族の適切な支え(看護)が重要です。
家族や周囲の人は、医療スタッフでなくとも「自分も患者の看護をしている」と自覚しなければなりません。つまりただ見舞いに行くという認識ではいけないということです。
患者に対する言葉・行動1つで、患者が病気と闘うモチベーションを失くしてしまうことだってあります。以下に脳梗塞患者に対する看護のポイントを挙げます。
- コミュニケーション困難な状態の患者に対して、適当な返事をしない
- 面会中もリハビリだと思い、会話はせかせず中断させない(失語の場合など)
- 患者とゆったりとした気分で接する(失認の場合は特に重要)
- なんでもやってあげようとしない(サポートに徹する)
- 患者の状態について医療スタッフと密に情報共有する(何がどこまでできるのか、またはできないのか)
中大脳動脈梗塞の予後
脳梗塞は主に3つのタイプに分けられます。
動脈硬化などによるアテローム血栓性脳梗塞、高血圧が主な原因である細い血管の梗塞(ラクナ梗塞)、心臓疾患が原因の心原性脳塞栓の3つです。
中大脳動脈梗塞に限ったわけではないですが、
1年生存率はラクナ梗塞が約90%、アテローム血栓性脳梗塞が約80%であるのに対し、心原性脳塞栓は約50%となっています。
脳梗塞が原因であるというよりかは、脳梗塞に相まった潜在疾患や合併症の影響が大きいと考えられます。
後遺症や治療予後について
「中大脳動脈梗塞と後遺症」の項目でも少し触れましたが、中大脳動脈梗塞が末梢側であるほど治療効果や後遺症の改善効果が良いです。
しかし起始部に近い領域で梗塞が起きても、初期症状に気づき迅速な対応ができれば、予後は良好になります。
従って日頃から体の不調や違和感を無視せず医療機関を受診することが予後を良好にする鍵といえるでしょう。
また冒頭で、内頚動脈と椎骨動脈の2本の動脈について解説しました。内頚動脈系の梗塞では主に人間としての機能(言語など)に障害を起こしますが、椎骨動脈系の梗塞では主に生物としての機能に障害を起こすため予後が悪いことが多いです。
椎骨動脈系の脳梗塞では、脳底動脈の閉塞が原因になることが多いです。
(繰り返しになりますが)いずれにしても自分や周りの人に気を配り異変に早く気付くことが重要です。
脳梗塞で最も多い中大脳動脈梗塞のまとめ
今回は脳梗塞の中で最も頻度が多い中大脳動脈梗塞について解説しました。
中大脳動脈の梗塞は生存率は高いものの、とてもつらい後遺症が残る可能性があります。
多くの方がイメージする脳梗塞の症状は、かなり進行した状態であることがお分かりいただけたと思います。普段から体調に気を配りましょう。
異変を感じた時には、疲労や睡眠不足が原因と自己判断するのではなく医療機関へ早めに受診することが大切です。
何気ない症状が、実は重篤な疾患の前ぶれであるかもしれません。
脳梗塞に限らず、正しい知識をつけアクションを起こすことが重要です。
あなた自身や大切な人を守るために。
よくあるご質問
中大脳動脈梗塞の予後は?
中大脳動脈は脳内の太い血管でありアテローム血栓性脳梗塞、または心原性脳塞栓症が発生します。予後を表す1年生存率はアテローム血栓性脳梗塞で約80%、心原性脳塞栓症で約50%とされています。
中大脳動脈梗塞の症状は?
右側の中大脳動脈に閉塞が起きた場合、左半身の麻痺症状が発生します。左側の閉塞であれば、右半身です。多くの方の言語中枢がある左側に閉塞が起きると、言葉が理解できなくなったり話せなくなったりする失語という症状が発生します。
<参照>
・松本祐蔵、目黒俊成、河田幸波、萬代眞哉、合田雄二、守山英二、櫻井勝
「中大脳動脈閉塞症の治療と問題点」
脳卒中の外科23:405~411(1995)
・冨永悌二、鈴木則宏、宮本享、小泉昭夫、黒田敏、高橋淳、藤村幹、寶金清博:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服事業 ウイリス動脈輪閉塞症における病態・治療に関する研究班
「もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)診断・治療ガイドライン(改訂版)」
脳卒中の外科46:1〜24(2018)
・国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
「脳卒中」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/
・社団法人 日本循環器学会
「心房細動と心原性脳塞栓症」https://j-circ.or.jp/old/about/jcs_ps5th/index03.html
あわせて読みたい記事:脳幹梗塞と生活習慣病の関係について
外部サイトの関連記事:脳梗塞とてんかんの関係
コメント