この記事を読んでわかること
・視神経脊髄炎で顔面麻痺が出るメカニズムがわかる
・視神経脊髄炎のリスク因子がわかる
・視神経脊髄炎の症状がわかる
視神経脊髄炎とは、自己抗体によって中枢神経系が多発的に障害される自己免疫性疾患です。
視神経・脊髄・大脳・脳幹などさまざまな部位が障害されるため、視力低下や麻痺・しびれ・顔面麻痺など出現する症状も多岐に渡ります。
この記事では、顔面の麻痺やしびれをきたす視神経脊髄炎の症状や原因について詳しく解説します。
視神経脊髄炎とは一体なんだろう
顔面の麻痺やしびれを来たしうる疾患の1つに、視神経脊髄炎と呼ばれる病気があります。
視神経脊髄炎とは自己免疫性中枢神経性脱髄性疾患です。
非常にややこしく聞こえますが、それぞれを分解して解釈すると案外わかりやすい病気です。
脳や脳幹・脊髄などの中枢神経系に対し、自己免疫性に作用して脱髄を引き起こす病気、という意味になります。
通常、体外から体内に侵入した細菌などの異物に対して、白血球などの免疫細胞が動員され、その異物を除去するために抗体が作られます。
しかし、なんらかのエラーで自分の正常な細胞を異物と誤認し、誤って自分自身の細胞に対する抗体を作ってしまうことを自己免疫性と呼びます。
そして、視神経脊髄炎の場合、神経細胞の軸索周囲を鞘のように保護している髄鞘と呼ばれる構造物が自己免疫のターゲットです。
髄鞘が自己抗体によって攻撃・破壊されることで、その神経が担っているさまざまな機能が障害され、さまざまな神経症状をきたします。
元々は多発性硬化症と呼ばれる病気の1つの亜型とされていましたが、多発性硬化症と異なり、視神経脊髄炎では抗アクアポリン4抗体と呼ばれる自己抗体を持つ方が多いなどの特徴があります。
またその症状が視神経や脊髄に強く出現するのも多発性硬化症との違いです。
視神経脊髄炎の発症者は、日本国内では約6,500人とされており、有病率は人口10万人あたり5人程度と推定されています。
自己免疫性疾患であることは判明していますが、なぜ自己抗体が産生されてしまうのかまでは原因不明です。
さらに、必ずしも抗アクアポリン4抗体が陽性である訳でもなく、一部の症例では抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(MOG)抗体という別の自己抗体を持っていることが近年新たに報告されており、今後その成り立ちがより解明されていくことが期待されます。
視神経脊髄炎を引き起こす主な原因と症状
視神経脊髄炎を引き起こす主な原因は先述したように体内で自己抗体が産生されるためです。
自己抗体はその後、下記のようにさまざまな部位の神経細胞を障害します。
- 視神経:視力低下・視野の欠損・目を動かした時の強い痛み
- 脊髄:胸や腹のしびれやピリピリ感・麻痺・尿失禁・排便障害など
- 大脳:運動や感覚の機能低下・認知機能低下
- 脳幹:眼球運動障害・顔面神経麻痺・構音障害・嚥下障害など
上記のように、視神経脊髄炎では自己抗体が中枢神経系のさまざまな部位に複合的に作用し、これを空間的多発性といいます。
また、これらの症状悪化と寛解を繰り返しながら、時間経過の中で徐々に悪化していくため、この特徴から時間的多発性もある点が特徴です。
また視神経脊髄炎では多発性硬化症にはほとんど認められない、吃逆・嘔吐・傾眠などの脳幹症状が出現することもあります。
厄介なことに、視神経脊髄炎における神経症状は多発性硬化症と比較して重症化することが少なくなく、両目の失明や強い四肢・体幹の疼痛や麻痺、嚥下障害による誤嚥性肺炎の併発など、その後の生活に与える影響も少なくありません。
視神経脊髄炎の因子と予防策
まず視神経脊髄炎の発症は世界的に見ても地域差など認めませんが、女性が男性と比較して圧倒的に発症しやすい(男女比1:9)という特徴を持ちます。
また近年では視神経脊髄炎の発症に関わる遺伝的要因や環境的要因も徐々に明らかになってきています。
ゲノムワイド関連解析では、発症に最も関与している遺伝子領域は第6染色体の主要組織適合抗原領域であり、HLA-DRB1 03:01がリスク関連アリルとして強く相関している結果でした。
次に、環境因子としては特定の感染症への感染がリスク因子として挙げられており、具体的には、Helicobacter pyloriやChlamydia pneumoniaeの感染がリスクです。
しかし、発症の決定的な原因は明らかになっていないため、新規発症を予防するのは困難です。
一方で、視神経脊髄炎は再発と寛解を繰り返し、再発によって症状が悪化していくため、生涯にわたって再発予防が重要となります。
再発予防には経口ステロイドや免疫抑制薬などの内服治療や、日常生活における過労やストレス、感染などのリスク因子の回避が重要です。
まとめ
今回の記事では、 視神経脊髄炎について詳しく解説しました。
視神経脊髄炎は体内で発生した自己抗体が原因となって神経細胞を破壊していく病気と考えられており、現状では自己抗体の産生を抑制するような治療が主です。
これらの治療によって強力に自己免疫を抑えれば、感染症に罹患するリスクやさまざまな合併症のリスクもあるため、なかなか付き合っていくことが難しい病気です。
中には失明や麻痺など重篤な神経学的後遺症を残してしまう方もいるため、いかに症状を悪化させないかが重要となります。
一方で、最近ではこれらの神経学的後遺症に対して「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
これまで治療の困難であった神経症状に対して、ニューロテックメディカルでは、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「神経再生医療×同時リハビリ™」によって、視神経脊髄炎による神経学的後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 視神経脊髄炎は難病ですか?
- 視神経脊髄炎は難病です。
日本には、厚生労働省の指定する難病に対して医療費を助成する制度、いわゆる難病法と呼ばれる法律が存在します。
視神経脊髄炎は上記法律で指定難病とされており、医療費の助成を受けることができます。 - 視神経脊髄炎は完治する病気ですか?
- 視神経脊髄炎は完治することのない病気です。
一度損傷した神経細胞が回復することは少なく、また時間の経過とともに再発するため、その都度神経が障害されていきます。
そのため、現状の医療では完治を目指すよりも、いかに再発予防するかが重要です。
<参照元>
・難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806
・国立精神・神経医療研究センター:https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease15.html
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