この記事を読んでわかること
・脳卒中による麻痺
・脊髄損傷と麻痺
・筋肉疾患と不全麻痺
麻痺とは何らかの原因で随意的な運動機能が低下した状態を指し、程度によっては歩行など日常の基本動作にも支障を来すため、厄介な症状です。
随意的な運動機能には脳・脊髄・末梢神経・筋肉など多くの器官が関わっており、このいずれかが障害されても麻痺が生じます。
そこでこの記事では、各種麻痺の原因となる疾患について部位別に解説します。
脳卒中と麻痺の関係
脳卒中は麻痺を引き起こす代表的な疾患です。
そもそも、麻痺とは何らかの原因で随意的な運動機能が低下した状態を指します。
随意的な運動機能とは身体を思い通りに動かす能力のことであり、逆に心臓の運動などは意識せずともおこなわれるため、不随意運動と呼ばれます。
では、随意運動とはどのようなメカニズムで生じているのでしょうか?
まず、脳の大脳皮質から運動の指令が生じ、脳幹(中脳・橋・延髄)を経由して脊髄へ伝達されます。
その後、草木の根っこのように、脊髄から左右に神経が複数分岐し、それぞれの神経が支配する筋肉へ刺激が伝達され、最終的に筋肉が収縮することで随意運動が得られます。
例えば、腕を曲げようとした時には脳からの指令が頸髄から分岐する末梢神経に伝わり、最終的に上腕二頭筋が収縮することで「腕を曲げる」という運動が得られます。
つまり、この刺激伝達系統のどこか一部にでも問題が生じると、うまく運動の刺激が伝達されなくなるため、麻痺が生じるわけです。
脳卒中の場合、刺激の始まりである脳そのものが障害されるため、麻痺を生じやすい病態です。
脳卒中は主に下記3疾患を含みます。
- 脳梗塞:脳を栄養する血管が閉塞して脳細胞が壊死する病気
- 脳出血:脳を栄養する血管が破綻して脳細胞が壊死する病気
- くも膜下出血:脳を包むくも膜の下層で出血を引き起こし、脳が血腫で圧迫されて壊死する病気
どの疾患も、脳細胞への血流に問題が生じて壊死することで麻痺が生じます。
もちろん、脳細胞の損傷部位が運動の伝達に関わらない部位であれば麻痺が生じない可能性もあるでしょう。
脊髄損傷による麻痺
前述したように、脊髄は脳からの運動の指令を末梢神経へ伝達する架け橋のような役割を担っているため、脊髄を損傷すると麻痺が生じます。
脊髄は上から順に頸髄・胸髄・腰髄・仙髄に分類され、頸髄から仙髄に向けて下降性に運動の刺激が伝達されるため、上位脊髄の損傷ほど麻痺の範囲も広範となります。
首や腰はひねり運動をおこなうために回旋性に富んだ解剖となっており、一方で安定性に欠けるため、交通外傷や転落で損傷しやすい部位です。
そのため、脊髄損傷では損傷部位が頸髄や腰髄であることが多く、特に頸髄の損傷では上肢・体幹・下肢全ての運動機能が障害されるため、被害は甚大です。
一方で、腰髄損傷の場合はすでに頸髄から上肢への運動の指令が、胸髄から体幹への運動の指令が出た後の損傷のため、下肢の運動以外は保たれる傾向にあります。
主な脊髄損傷の原因は、交通外傷や転落・転倒、スポーツ外傷などの外力によるものもあれば、脊柱管狭窄症・脊椎椎間板ヘルニア、脊椎腫瘍・脊髄腫瘍などの疾患によるものも挙げられ、麻痺解除のために緊急での手術が必要となることもあります。
筋肉疾患が原因の不全麻痺
脳や神経から伝達された運動の刺激は最終的に筋肉へ伝達されますが、筋肉そのものに問題がある場合も当然麻痺が生じます。
代表的な疾患をいくつか紹介しましょう。
重症筋無力症
重症筋無力症とは、神経と筋肉の接合部でうまく刺激が伝達されなくなる病気です。
通常であれば神経伝達物質「アセチルコリン」が末梢神経から分泌され、筋肉表面にあるアセチルコリン受容体に接合することで筋収縮が生じますが、重症筋無力症ではアセチルコリン受容体の機能が障害されるため、うまく筋収縮が得られません。
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーとは、筋繊維が壊死・変性して進行性に筋力が低下していく病気であり、まさに筋肉そのものが原因となって麻痺が生じる疾患です。
主な原因は遺伝的要因であり、ある特定の遺伝子によって筋肉の設計図が正常ではなくなることで、筋肉の細胞が壊死してしまいます。
現状、根治療法が見つかっていない難病です。
不全麻痺と完全麻痺の違いとは?
不全麻痍では感覚や運動機能が一部残っているため、早期のリハビリテーションが予後に大きく影響します。
理学療法や作業療法、神経再生治療などを組み合わせることで、麻痺の改善が期待できます。
一方で、完全麻痺の場合は生活補助技術や補助器具の導入も重要となり、患者の生活の質を向上させるリハビリが中心となります。
各種麻痺の原因についてのまとめ
今回の記事では、各種麻痺の原因となる疾患を部位別に紹介しました。
麻痺は脳や脊髄・末梢神経・筋肉のいずれかに問題が生じることで引き起こる神経症状であり、範囲や程度によっては日常生活に大きな支障をきたします。
本文では紹介しませんでしたが、末梢神経の障害に伴う麻痺では、ギランバレー症候群・糖尿病性ニューロパチーなどの疾患も挙げられます。
特に、脳や脊髄・末梢神経を構成する脳細胞・神経細胞は自己複製能に乏しく、一度損傷すると機能が再生しにくい、もしくは再生しないことが知られています。
そのため、脳卒中や脊髄損傷などによるダメージは神経機能に大きな影響を与え、四肢麻痺のみならず、呼吸筋麻痺や構音障害・嚥下障害など重篤な後遺症を残す可能性があるため、注意が必要です。
一方で、近年では再生医療の発達も目覚ましく、損傷した脳細胞・神経細胞の機能が回復する可能性もあります。
現状、これらの麻痺症状に対して根治する術が無い中で、再生医療を取り入れれば麻痺が改善する可能性もあり、新たな治療の選択肢として知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脳卒中による麻痺とは?
脳卒中による麻痺とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などによって脳細胞の一部が壊死し、運動の指令がうまく伝達できなくなることで生じます。
運動の指令は脳幹で左右交差するため、左脳の脳卒中では右半身が、右脳の脳卒中では左半身が麻痺します。
脊髄損傷で麻痺するのはなぜ?
脳からの運動の指令を末梢神経や筋肉へ伝達するための架け橋となる脊髄が損傷すると、うまく指令を伝達できなくなり麻痺が生じます。
特に、頸髄を損傷すると、胸髄や腰髄にも運動の指令が届かなくなるため、麻痺が四肢に及び生活への影響も甚大です。
<参照元>
・健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/mahi.html
・日本整形外科学会:https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/spinal_cord_injury.html
・難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/4522
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