この記事を読んでわかること
・くも膜下出血とは?
・くも膜下出血と幹細胞治療
・治療にかかる費用
脳を覆うくも膜、その中で出血するのが「くも膜下出血」です。
3分の1ルールという言葉があります。
くも膜下出血を起こすと、3分の1は死亡、3分の1は重い後遺症、3分の1は社会復帰という統計のことです。
脳血管障害(脳の血管が原因で起こる病気)の中でも、重症の部類に入ります。
脳動脈瘤の破裂やケガなどが原因で、くも膜下腔と呼ばれるスペースに出血します。
出血による脳の圧迫や、脳脊髄液の流れが悪くなって起こる水頭症などが原因で、脳の神経がダメージを受けます。
神経は非常にデリケートな組織で、ダメージを受けた時の回復能力が高くありません。
そのままでは不十分な回復能力を最大限に引き出す治療、それが幹細胞を使用した再生医療です。
脳梗塞の再生医療 “くも膜下出血”
くも膜下出血になってしまったものの、幸いにも一命を取り留めた方。
そのうち社会復帰を果たすのは半数です。
その方たちも無症状とは中々いきません。
くも膜下出血は、出血自体による圧迫の他にも、出血後の血管れん縮(血管が縮んでしまう反応)が原因で脳梗塞になってしまい、脳のダメージを重くしてしまうことがあります。
脳にダメージが及ぶと、様々な後遺症に悩まされることになります。
後遺症が残ってしまうと、その後大きな改善を望むのは難しくなります。
今注目を集める再生医療。
最新の治療法は脳梗塞の後遺症治療に新たな光をもたらしています。
脳梗塞の再生医療は大学病院や専門病院で長年研究が行われてきました。
国をあげた支援もあり、基礎研究から実用化へと、段階が進んできています。
現在実用化が最も進んでいるのは、幹細胞を使用した幹細胞治療です。
神経の元になる細胞を移植することで、脳が損傷部や損傷部周辺に新しい神経回路を作って治る能力(可塑性)を最大限に引き出す、それが幹細胞治療です。
自らの体から採取した幹細胞を安全に増やして、体内に移植すると幹細胞は体細胞(神経細胞など)に成長して機能を果たすようになる、また増殖する際に体の細胞再生や修復を調節する成分(サイトカイン)を分泌する、というメカニズムで機能再生を果たすことが期待されています。
脳梗塞の治療実績は着実に増えてきており、その有効性が明らかとなってきています。
幹細胞治療の適応は広がりを見せており、様々な脳血管障害に適応されていくものと思われています。
サンバイオ社は2018年に日本、米国で行われた慢性期の外傷性脳損傷(くも膜下出血を含む)の患者さんに対する再生医療の臨床試験の結果を報告しており、その有効性を明らかにしました。
脳卒中や脊髄損傷など再生医療に関する情報は「脳卒中ラボ」でもご覧頂けます。
くも膜下出血や脳梗塞で期待できる効果
くも膜下出血や脳梗塞の後遺症は非常に多彩です。
なぜなら、脳は様々な機能を担っているからです。
脳は場所によって担っている機能が異なるため、どこがダメージを受けるかによって症状が異なります。
主な症状は顔のしびれ、手足の麻痺、動かしづらい、歩きづらい、ろれつが回らない、言語障害、物が二重に見えるなどがあります。
脳梗塞の多彩な後遺症に関して以下で解説しています。
これらの症状は、本来の脳の機能が失われているためにでる症状です。
幹細胞治療により脳の機能を取り戻すことで、これらの症状が改善する効果が期待できます。
また、くも膜下出血や脳梗塞に伴って脳の血管は障害を受けています。
障害を受けたまま放置すれば、再発の可能性が高くなります。
幹細胞治療には、これらの血管を修復・再生する効果も期待されます。
血管が正常に機能するようになれば、再発を予防する効果が得られます。
幹細胞は自らの体から取り出した、自らの細胞です。そのため拒否反応などの副作用はほぼありません。
治療方法:安全性や体にかかる負担について
治療の第一歩は、治療について詳しく知り、理解することです。
治療によって期待される効果と具体的な方法、さらには安全性や体にかかる負担について詳しく知る必要があります。
幹細胞治療を行うことのできる施設は、法律(再生医療安全確保法)で定められたいくつものチェックを受けて厚生労働省から認可を受けているため、高い安全性を確保しているといえます。
さらに治療前には採血検査などを行い、全身状態のチェックをすることで安全性を高めます。
幹細胞は自らの骨髄や脂肪などから採取します。
骨髄は腰ぼね(腸骨といいます)に針を刺して吸引して採取します。
脂肪の場合はお腹などに小さな切開をおいたり針で吸引したりして採取します。
いずれも出血量はごく少量ですみ、傷は針を刺した痕程度のものになります。
局所麻酔、または全身麻酔で行われるため痛みもわずかです。
採取の所要時間は30分程度、60分ほどの経過観察時間を含めて90分程度の処置となります。
採取した幹細胞は細胞培養施設で培養され、必要量まで増殖させます。
細胞を効果的に増殖させ、菌の混入などのトラブルを起こさずに培養を実施するには専門的な知識、設備が必要です。
培養施設は、治療実施施設と同じように非常に厳格な基準をクリアした専門の施設となっています。
培養した後の幹細胞を移植前にチェックして、必要な細胞が十分量含まれていることを確認して、移植に入ります。
移植は点滴で行われます。30分程度の処置となります。
自分の細胞ですから、拒否反応の心配なく移植を受けることができます。
このように、幹細胞治療は安全性が高く、体にかかる負担はそれほど大きくないものであるため、脳血管障害の後遺症に悩む方でもほとんどの方が受けることができる治療と考えてよいでしょう。
治療後、どれくらいで効果を実感できるのか?
移植した幹細胞が損傷部位に届き、治療効果を発揮するまでの時間は、非常に個人差があります。
傷ついた脳が元に戻ろうとする能力を引き出す治療ですから、その改善能力にも個人差がありますし、時間をかけて少しずつ効果がでてくると考えられます。
点滴をして翌日から腕が動くようになる、というようなものではありません。
特にくも膜下出血を発症して長年が経過している方など、慢性期に入っている場合の後遺症改善は簡単ではありません。
かたくなってしまった関節や、痛みなどは脳の機能が回復してもすぐに回復するものではないからです。
そこで、幹細胞治療の効果をさらに上げるために、関節可動域の改善や歩行障害の改善、高次脳機能(言語や判断、感情など)の改善を目指したリハビリテーションを併用すると効果的です。
患者さん一人ひとりがどれくらい主体的に治療へ取り組んでいけるか。それにより治療効果は大きく異なります。
幹細胞治療はその手助けをする一手段です。
費用
幹細胞の採取、管理、培養、そして移植には専門の設備と知識を必要とするため、多くの費用がかかります。
幹細胞治療は保険適応とはなっていないため、自費診療となります。
そのため、患者さんの負担は低くはありません。
また実施する施設によって異なります。
しかし長年の後遺症に悩む患者さんの苦しみは本人にしか分かりません。
常時感じるしびれや痛み、自分の意志で思うように生活できない、人とのコミュニケーションが思うようにとれない、そういった悩みは健常の方の想像を超えるものです。
改善の可能性にかかる費用として高いのか安いのか、その判断は皆さん次第です。
脳血管障害の再生医療にかかる費用はケースバイケースですが、概ね100万円〜400万円程度となっています。
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