この記事を読んでわかること
ブレインフォグの症状がわかる。
ブレインフォグの発症メカニズムがわかる。
ブレインフォグの治療や対策がわかる。
新型コロナウイルス感染後、一部の方ではブレインフォグと呼ばれる後遺症が生じることがあります。
ブレインフォグに陥ると認知機能低下や集中力の低下、抑うつ状態などの症状が長期的に続き、日常生活に大きな支障をきたすため、注意が必要です。
この記事では、新型コロナウイルス感染後のブレインフォグの症状や治療法などを詳しく解説します。
新型コロナウイルス感染による「ブレインフォグ」とは?

冬は気候的に空気が乾燥し、それとともに気道も乾燥するため、一般的にウイルス感染症が流行しやすく、これからの季節に心配なのが新型コロナウイルスです。
新型コロナウイルスに感染すると、感染から平均して5〜6日目に下記のようなさまざまな症状が出現します。
- 発熱
- 咳
- 倦怠感
- 味覚・嗅覚障害
- 下痢
- 呼吸困難
- 脱毛
特に高齢者や糖尿病などの既往を持つ方の場合、症状が重症化しやすく、重度の呼吸不全で死に至る方もいます。
これらの症状に加え、新型コロナウイルス感染による怖い症状が「ブレインフォグ」です。
ブレインフォグ(Brain Fog)は、直訳すると脳の霧という意味であり、思考力や集中力が低下し、疲労や気分障害を伴う後遺症のことです。
ブレインフォグ自体は医学的に定義を明確化された医学用語ではないため、あくまで記憶障害や認知機能低下、集中力低下などのさまざまな大脳の症状を表す言葉であり、この症状が新型コロナ流行に伴い後遺症として増加したことで注目されました。
野崎氏(国際医療福祉大学塩谷病院 副院長)の報告によれば、感染から3ヶ月後の患者の7.2%に「集中困難と、集中力や思考力の低下」というブレインフォグの症状が認められたそうです。
また、感染から回復した患者の約⅔の方に、近時記憶障害(数分〜数日前の出来事が覚えられない)、混乱、複数課題の遂行困難、睡眠障害などのブレインフォグの症状を認めたという報告もあるそうです。
一方で、ブレインフォグは必ずしも新型コロナウイルスが重症であればあるほど起こりやすいわけではなく、リスク因子として女性・何らかの呼吸症状・集中治療室入室などの要因が挙げられています。
ブレインフォグの診断基準や発生メカニズム

先述したように、ブレインフォグは医学的に定義が明確化されていないため、学会が診断基準を規定しているわけではありません。
またブレインフォグを診断するための決まった検査なども存在しません。
さまざまな報告がある中で、おおむねの共通認識としては、新型コロナウイルス感染後に下記の2種類の症状を認めた場合、ブレインフォグを疑います。
- 認知行動機能の低下
- うつ症状やPTSD(心的外傷後ストレス障害:PostTraumatic Stress Disorder)
認知行動機能の低下の具体的な症状としては、意欲の低下・集中力の低下・失認(物事や人を正しく認識できない)や失語(思うように言葉が出ない)などが挙げられます。
うつ症状やPTSDでは、気分の落ち込み、疲労感や倦怠感、無気力、過去の強いストレスが無意識にフラッシュバックする、などの症状が特徴的です。
では、なぜ新型コロナウイルス感染でブレインフォグに陥るのでしょうか?
ブレインフォグ発症のメカニズムは完全には解明されていませんが、現状では下記のようなメカニズムが推定されています。
- 新型コロナウイルス感染
- 全身に激しい炎症が生じ、炎症性サイトカインIL-6が過剰分泌される
- IL-6が脳内のGABA作動性ニューロンを選択的に障害する
- 前頭葉周囲が主に障害されることでブレインフォグ発症
新型コロナウイルス感染によって生じた炎症によって、免疫細胞を活性化させるためのサイトカインIL-6(インターロイキン6)が過剰に分泌されます。
このIL-6が、GABAと呼ばれる脳内の神経伝達物質によって働く神経系(これをGABA作動性ニューロンと呼ぶ)を選択的に阻害し、GABA作動性ニューロンである前頭葉周囲の機能が障害され、ブレインフォグが生じるのです。
他にも、ウイルスが血液を介して直接的に脳内に侵入して局所的に炎症を引き起こす説や、嗅神経(鼻腔から脳にかけて走行する嗅覚を司る神経)を逆行して脳内に侵入する説など、発症メカニズムは諸説あります。
ブレインフォグの治療や対処法
残念ながら、一度発症してしまったブレインフォグを根治できる治療は現状では確立されておらず、主に実施されるのは下記のような対症療法です。
| 薬物療法 | 脳疲労を解消できるビタミンやミネラルの投与など |
|---|---|
| 非薬物療法 | 認知機能回復のための脳リハビリテーションなど |
一方で、ブレインフォグを含むほとんどのコロナ後遺症は、2回のワクチン接種によってその後遺症が28日以上継続するリスクを減少させたとの報告もあります。
一度発症してしまうとなかなか改善させることが困難であることからも、現状では2回以上のワクチン接種が唯一の対策と言えます。
まとめ
定期的に流行を繰り返す新型コロナウイルス。
感染後の呼吸苦や咳嗽などの症状とは別に、脱毛や味覚障害、ブレインフォグなどの後遺症で苦しむ方も少なくありません。
特にブレインフォグは若年者であっても起こり得る症状であり、その後の社会生活に大きな支障をきたし、経済活動を継続することが困難になる可能性もあるため、注意が必要です。
残念ながら、現状の医療では一度発症したブレインフォグを根治する治療法は存在しないため、ブレインフォグ発症を未然に防ぐためにワクチンを接種することが重要です。
さらに近年では、神経障害が「治る」を当たり前にする取り組みとして注目されている「ニューロテック®」という考え方があります。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対して「狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療」再生医療「リニューロ®」を軸とするアプローチで、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリ®を組み合わせた治療法です。
新型コロナウイルス感染による神経障害に対しても、今後このような先進的な治療法が希望となる可能性があります。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。
よくあるご質問
- ブレインフォグを解消する方法は?
- ブレインフォグを解消する直接的な治療はいまだに開発されていませんが、脳に負担のかからないように、規則正しい生活を心掛けることが重要です。
適度な運動や栄養バランスの良い食事摂取によって悪化を予防できる可能性があります。
- ブレインフォグに対する薬は?
- ブレインフォグに対する薬は主にそれぞれの症状に対する対症療法になります。
集中力低下にはADHDの治療薬を、認知機能低下には認知症治療薬を処方することもあります。
<参照元>
(1):国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト.新型コロナウイルス感染症.:https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/covid-19/index.html
(2):野崎一郎. 小野賢二郎.Long COVIDと臨床症状.血栓止血誌.2022年33巻4号 p. 421-425:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/33/4/33_2022_JJTH_33_4_421-425/_html/-char/ja
(3):香川靖雄.新型コロナウイルスの脳後遺症 ブレインフォグの診断と治療.女子栄養大学 栄養科学研究所:https://llab.eiyo.ac.jp/
(4):小野理恵 et al.Long COVIDのbrain fog診療~質問票作成とスコアリングによる実態把握と他科との連携~.日本プライマリ・ケア連合学会誌.2024年47巻3号p. 120-123.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/47/3/47_120/_article/-char/ja/
(5):Michela Antonelli et al.Risk factors and disease profile of post-vaccination SARS-CoV-2 infection in UK users of the COVID Symptom Study app: a prospective, community-based, nested, case-control study.Lancet Infect Dis. 2022 Jan;22(1):43-55.:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34480857/
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