この記事を読んでわかること
・アルツハイマー型認知症の治療の種類
・アルツハイマー型認知症治療の将来
・アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症の違い
アルツハイマー型認知症は、脳細胞が徐々に変性していく進行性の病気であり、根治できるような治療法はありません。
そのため、現状行われている治療の目的は症状の進行を防ぐことで、主に薬物療法や非薬物療法が行われています。
そこでこの記事では、アルツハイマー型認知症の治療に関して詳しく解説していきます。
アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる治療法
アルツハイマー型認知症はなんらかの原因で脳細胞に「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれる異常タンパクが集積し、脳細胞を破壊、変性させる病気です。
アルツハイマー型認知症の怖いところは、脳細胞の変性が不可逆的かつ進行性であるという点です。
つまり、一度変性を起こして萎縮した脳細胞が元に戻ることはなく、加齢とともに確実に変性が範囲を広げて進んでいくのです。
いずれは脳内で記憶を形成するのに必要不可欠な、「海馬」と呼ばれる部位に広がり、認知機能障害を引き起こします。
残念ながら、ここまで病態が解明されてきたにも関わらず、現在に至るまで、なぜこれらの変化が生じるのか、明確な原因は判明していません。
原因がわからないため、根治する治療法も未だに見つかっていませんが、症状を抑えるための治療法は確立されています。
ここでは、アルツハイマー型認知症に対する治療を詳しく解説します。
進行を遅らせる薬物療法
アルツハイマー型認知症の脳内では、神経と神経の間の情報伝達に必要なアセチルコリンと呼ばれる物質が減少していることが分かっています。
アセチルコリンの減少によって神経がうまく機能せず、記憶障害や見当識障害、判断力の低下などの症状が出現しています。
そこで、これらの症状を抑えるために、脳内でのアセチルコリンを増加させるような薬がいくつか開発され、実際に日本でも認知症治療薬として承認されています。
具体的には、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンなどが挙げられます。
これらの薬剤は、アセチルコリンを分解する酵素「コリンエステラーゼ」の機能を阻害することで、脳内におけるアセチルコリンを増加させる効果があります。
脳細胞の変性を止めるような効果はなく、あくまで記憶障害などの症状を改善させる目的で使用されていて、「3年先には家族の顔が分からなくなるのを5年先に延ばす」ようなイメージです。
次に、2011年には上記3剤と全く異なる作用機序を持つ薬「メマンチン」が開発されました。
メマンチンは、神経細胞を障害する機能を持つNMDA受容体をブロックすることで、脳細胞を保護する役割があります。
しかし、メマンチンも他の薬剤と同様、その効果は一時的で、認知症の進行を完全に抑えるものではありません。
改善に有効な非薬物療法
認知症の症状の1つである、行動・心理症状に対しては非薬物療法が優先されます。
行動・心理症状とは、不安感や抑うつ気分、幻視、物盗られ妄想などを指し、これらに適した非薬物療法としては、適切なケアや環境調整、リハビリテーションなどが挙げられます。
適切なケアとは、その人のパーソナリティーを否定せずに尊重し、認知症の人の視点や立場に立って理解しようと努めることです。
環境調整とは、認知症の人が日常生活で苦労しないように、デイサービスなどの介護保険サービスの導入を検討したり、介護を受けやすい環境を作ることです。
また、簡単な運動やウォーキングなどのリハビリテーションを行うことも、行動・心理症状の改善に有効だと考えられています。
実際には、上記の非薬物療法だけで行動・心理症状をコントロールするのは困難であり、抗精神病薬、抗うつ薬、漢方薬などを併用することもあります。
アルツハイマー型認知症治療の将来
現状では、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて治療を行なっていますが、どちらも脳細胞の変性を止めるような治療法ではありません。
そこで、世界中の研究者が原因究明と根治療法の開発のために日々研究を進めています。
根治療法のポイントは「原因となるアミロイドβを蓄積させない、もしくは除去」が可能かどうかです。
仮に、アミロイドβを蓄積させない、もしくは除去できるような夢の治療法が開発されれば、少なくとも症状の進行を停止させることができるはずです。
その第一歩として、2023年1月には新薬「レカネマブ」の承認が、厚生労働省に申請されました。
これは、アミロイドβに対する人工的な抗体で、アミロイドβの蓄積を予防する効果が期待されています。
しかし、一度変性を起こした脳細胞が回復するわけではなく、失った機能の回復という点では課題が残ります。
脳の健康維持に役立つ生活習慣とは
脳の萎縮を予防するためには、日常的に認知機能を刺激することが重要です。
例えば、クロスワードパズルや読書、社交的な活動が推奨されます。
また、地中海食やDHA・EPAを多く含む食事が脳の健康維持に有効です。
ストレス管理や瞑想も神経細胞の再生を促進するとされています。定期的な運動も、脳内の血流を改善し、萎縮の進行を抑える効果が期待できます。
アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症の違い
アルツハイマー病を原因疾患として認知症に至った場合は、アルツハイマー型認知症と呼ばれます。
認知症という言葉は、思考力や記憶力などの認知機能や行動能力が、日常の生活や活動を妨げる程度にまで失われる状態を指し、あくまで症状のことです。
それに対してアルツハイマー型認知症やアルツハイマー病とは、認知症の原因となる疾患のことです。
SDATとアルツハイマー型認知症の違い
アルツハイマー型認知症は、発症年齢で分類されることもあります。
具体的には、65歳以前の発症をアルツハイマー病、65歳以降の発症をアルツハイマー型老年期認知症(SDAT)と分類します。
両者の違いとしては、SDATの方が脳の萎縮が限定的であり、症状の進行速度も比較的緩徐であるという点です。
つまり、若くして発症した認知症には要注意です。
アルツハイマー型認知症治療のまとめ
今回の記事では、主にアルツハイマー型認知症の治療について解説しました。
アルツハイマー型認知症に対する治療の中心は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて症状を緩和、改善させることです。
しかし、近年では原因物質とされるアミロイドβに対してアプローチする治療法も現れ、今後さらに認知症治療が進んでいく期待が持てます。
また、近年発達の目覚ましい再生医療もその一端を担える可能性があります。
一度損傷、変性した脳細胞は再生しないため、たとえアミロイドβに対してアプローチする治療法を行なっても、失われた記憶能力などは再生しません。
しかし、再生医療によって脳細胞が再生できれば、記憶の回復も期待できるため、治療の新たな選択肢になる可能性があります。
よくあるご質問
アルツハイマー型認知症の進行は?
アルツハイマー型認知症は比較的緩徐に、しかし不可逆的に進行していきます。
症状の進行速度には個人差があるため一概には言えませんが、発症から3年ほどで症状が顕著になり診断され、平均余命は発症後8年と言われています。
最終的には呼吸器感染症による死亡が多いとされています。
若年性アルツハイマーの前兆は?
加齢とともに増加するアルツハイマー型認知症ですが、64歳以下で発症したものは若年性アルツハイマーと言います。
主な前兆としては、頭痛やめまい、不眠、不安感、自発性の低下、抑うつ状態、周囲への配慮の低下などが挙げられます。
<参照元>
・アルツハイマー病情報サイト:https://adinfo.tri-kobe.org/worldwide-alzheimers-information/alzheimers-basics.html
・厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html
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