この記事を読んでわかること
・急性壊死性脳症は、高熱を伴うウイルス感染症の後に脳浮腫や壊死が生じることがわかる。
・急性壊死性脳症の診断基準には、特定のウイルス感染症後の意識障害やけいれん、MRIやCTによる特徴的な脳病変が含まれることがわかる。
・急性壊死性脳症には現在、特異的な治療法はなく、予後が厳しいことがわかる。
急性壊死性脳症は、急速に進行する脳の炎症性疾患で、特に小児に多く見られます。
この病気は、脳の一部が壊死し、重大な神経学的後遺症や死亡に至る可能性があります。
急性壊死性脳症は、インフルエンザやその他のウイルス感染後に発生することが多いとされています。
今回は急性壊死性脳症の概要や治療法などについて詳しく解説します。
急性壊死性脳症の定義と発生原因
急性壊死性脳症(acute necrotizing encephalopathy:ANE)とは、高熱をともなうウイルス感染症の症状がみられた後、脳浮腫、つまり脳のむくみや、視床を含む脳の特定の部位に、左右対象に壊死性病変を生じる脳症です。
特に東アジアの幼児に多くみられるとされています。
インフルエンザとの関連が強くみられます。
診断基準は以下のようになっています。
- 発熱をともなうウイルス性疾患に続発した急性脳症で、意識障害の後に全身性痙攣(けいれん)を起こす。
- 髄液検査で細胞増加を認めない。
- 血清トランスアミナーゼの上昇はあるが、血中アンモニアの上昇は認めない。
- 頭部CTにおける両側対称性、多発性病変(両側視床の病変、大脳側脳室周囲白質、内包、被殻、上部脳幹被蓋、小脳髄質にあるが、他の脳領域に病変を認めない)。
- 他の類似疾患の除外が行われている。
そもそも、急性脳症とは脳や脊髄といった中枢神経系に炎症や血管障害がないのにも関わらず、中枢神経の浮腫(むくみ)によって脳機能障害が起こり、せん妄状態や意識障害、けいれんなどが急激に発症するというものです。
ANEの原因は、サイトカインストームといって、血液中の炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-@など)が異常なほどに増加してしまう状態の関与があるのではないかとされています。
これは免疫系の暴走とも呼べる状態のことです。
なお、サイトカインとは、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質や生理活性物質の総称のことで、細胞同士の情報伝達を担っています。
ANEでは、サイトカインストームが起こることで、脳をはじめ、全身の臓器が障害を受けてしまうと考えられています。
急性壊死性脳症の初期症状と診断方法
ANEの初期症状としては、高熱や嘔吐、過呼吸が多くみられます。
その他、下痢や肝臓の腫大、血圧の低下もしばしばみられます。
脳の症状として、意識障害が急速に進みます。
また、昏睡、痙攣、除皮質・除能硬直、縮瞳、対光反射遅延、鬱血乳頭などの頭蓋内圧亢進徴候、深部腱反射亢進、バビンスキー反射などがあります。
また、血液検査では、ASTやALT、LDHが上昇します。
重症になると、総蛋白が低下したり、腎機能障害がみられます。
脳髄液検査では、髄液圧が上昇したり、蛋白の上昇もしばしばみられます。
ANEの診断基準は、特徴的な脳のCTやMRIの所見です。
視床や側脳室周辺の白質、内包、被殻などに、左右の大脳半球に対称性に病変がみられます。
急性壊死性脳症の治療法と予後
ANEに対する特異的な治療は今のところ確立されていません。
ステロイドパルス療法という、多量のステロイドを数日の間連続して投与することを1クールとし、それを1から3クールほど行う治療法や、γグロブリン投与が現場では用いられています。
脳幹や小脳に病変がなかった場合では、ANEが発症してから24時間以内にステロイド療法が開始された場合には、予後が良くなることがわかりました。
しかし、脳幹や小脳の病変がある症例では、ステロイドもグロブリンも明らかな治療効果が得られなかったとのことです。
その他、脳低体温療法などの脳保護療法が行われています。
ANEでは、脳症の他に、サイトカインストームのために、血液の凝固異常(DIC)、心・肝・腎障害などの多臓器不全を合併しやすいとされています。
このように、ANEの凝固異常治療効果は限定的で、死亡する人も多く、後遺症が残る場合が多くみられます。
神経学的な後遺症として、けいれんや手足の麻痺などがあります。
このような状況を改善するために、現在、 CTやMRIの所見が現れる前に、血液検査でANEを超早期診断できるマーカーの発見や、炎症をより強力に抑える分子標的治療の導入といった戦略が考えられています。
まとめ
この記事では、急性壊死性脳症(ANE)の概要や原因、治療法、予後について解説しました。
ANEは、今のところ確実な治療法がなく、また後遺症を残してしまうことも多い病気です。
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よくあるご質問
- 急性脳症になるとどうなるのか?
- 急性脳症になると、脳に炎症が起こり、発熱やけいれん、意識障害などの症状が現れます。
症状は急速に進行し、重篤な場合は昏睡状態や死亡に至ることもあります。
早期発見と迅速な治療が重要です。 - 脳に炎症が起こる原因は何ですか?
- 脳に炎症が起こる主な原因は、ウイルス感染や免疫反応によるものです。
インフルエンザやヘルペスウイルスなどの感染が引き金となり、体の免疫システムが過剰に反応して脳にダメージを与えることがあります。
<参照元>
・神経系疾患分野|重症・難治性急性脳症(平成22年度) – 難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/746
・成人の急性壊死性脳症:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/19/4/19_661/_pdf/-char/ja
・脳症症候群 (サブタイプ) – 小児急性脳症研究班:https://encephalopathy.jp/dxntx.html
・疾患・用語編) 急性脳症|神経内科の主な病気 – 日本神経学会:https://www.neurology-jp.org/public/disease/ae_detail.html
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