この記事を読んでわかること
・多系統萎縮症とは
・多系統萎縮症の種類
・多系統萎縮症の原因
多系統萎縮症という病気をご存知ですか?
多系統萎縮症は、血圧や運動制御など体の不随意 (自律神経) 機能に影響を与えるまれな神経障害です。
動きの鈍さ、筋肉のこわばり、バランスの悪さなど、パーキンソン病と多くの症状を共有します。
具体的にどんな症状や治療方法があるのか気になる方もいるかと思います。
そこで、この記事では、多系統萎縮症の種類や治療、予後などについて詳しく説明します。
多系統萎縮症とは
多系統萎縮症は、脳のいくつかの部分の神経細胞が時間の経過とともに劣化するまれな神経の病気です。
通常は50代または60代で多く発症しますが、30歳以降でも起こり得る病気です。
症状は多岐にわたり、パーキンソン病と同様の筋肉制御の問題のほか、呼吸器系、泌尿器系、消化器系もなど体のさまざまな機能が影響を受ける可能性があります。
多系統萎縮症の種類
多系統萎縮症には大きく2つの種類があり、パーキンソン型と小脳型の2種類です。
この2つのタイプは、診断されたときの症状によって異なります。
①パーキンソン型
パーキンソン型は最も一般的なタイプであり、症状としては、パーキンソン病の症状と似ています。
以下のような運動の障害が起こります。
- 筋肉のこわばり
- 腕や足を曲げにくい
- 動きが遅い(運動緩慢)
- 姿勢とバランスの問題
②小脳型
小脳型の特徴としては、筋肉の協調の問題 (運動失調) の他にも次のようなものがあります。
- 不安定な歩行やバランスの喪失など、運動と協調の障害
- ろれつが回らない(構音障害)
- かすみ目や複視、目の焦点が合わないなどの視覚障害
- 嚥下困難(嚥下障害)または咀嚼困難
多系統萎縮症の一般的な症状
多系統萎縮症の主な症状は自律神経障害であり、制御できない身体機能の問題を引き起こす可能性があります。
①起立性低血圧
立ち上がった後に頭がクラクラしたり、めまいがしたり、失神したりすることがよくあります。
これは起立性低血圧と呼ばれるもので、立ち上がったり、急に体勢を変えたりすると血圧が低下することが原因です。
横になった後に立ち上がると、通常、血圧が低下して脳への血流が減少するのを防ぐために、血管が急速に収縮し、心拍数がわずかに上昇します。
この機能は自律神経系によって制御されていますが、多系統萎縮症ではこのシステムがうまく働かず、コントロールが効かなくなります。
②排尿および腸の機能障害
便秘や膀胱または腸の制御の喪失などが現れ、通常、以下の膀胱の不調が現れます。
- 常に尿意がある
- 排尿回数が増える
- 残尿がある
- 排尿困難
③協調性やバランス、発語の問題
多系統萎縮症では、小脳と呼ばれる脳の一部が損傷を受けることにより、歩くときに不器用で不安定になり、ろれつが回らないこともあります。
これらの問題は、まとめて小脳性運動失調と呼ばれています。
④動きの鈍さとこわばり
多系統萎縮症の人は、通常よりもはるかに動きが遅くなり(運動緩慢)、日常生活動作が困難になる可能性があります。
特に動きを開始するのが難しく、人によっては、筋肉がこわばったり緊張したりすることもあり、痛みを伴う筋肉のけいれん (ジストニア) を引き起こす可能性があります。
その他にも以下のような症状が現れます。
- 発汗量の変化
- 体温調節の障害により、発汗低下やしばしば手足の冷えを引き起こします。
- 睡眠障害
- 夜間に眠れなくなります。
- 性機能障害
- 勃起不全 (インポテンス)や性欲の喪失が現れます。
- 心血管の問題
- 血液の滞留による手足の色の変化が現れます。
- 精神医学的問題
- 笑ったり泣いたりするなど、感情をコントロールするのが難しくなります。
多系統萎縮症の原因
多系統萎縮症の原因ははっきりしておらず、遺伝因子や環境因子が関連しているという証拠もありません。
ただし、多系統萎縮症の患者の脳細胞には、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が過剰に蓄積していることがわかっています。
異常なα-シヌクレインの蓄積は、バランスや動きなど体の正常な機能を制御する脳の領域に損傷を与える原因であると考えられています。
多系統萎縮症の合併症や予後について
多系統萎縮症の進行はさまざまですが、病気が進行すると、合併症によって、日常生活が困難になります。
考えられる合併症は次のとおりです。
- 睡眠中の呼吸の問題
- バランス不良や失神による転倒によるけが
- 皮膚の故障などの二次的な問題につながる進行性の不動
- 日常の活動において自分自身の世話をする能力の喪失
- 発声や呼吸が困難になる声帯麻痺
- 嚥下困難
多系統萎縮症の症状が最初に現れてから、通常は約7〜10年程度余命があります。
多くの場合、呼吸器系の問題、感染症、または肺の血栓 (肺塞栓症) が原因で死亡します。
多系統萎縮症の薬物療法と治療戦略
多系統萎縮症の治療は根治的なものがなく、対症療法が中心です。
薬物療法では、パーキンソン型の患者に対してはドパミン補充療法が検討されますが、効果は限定的です。
低血圧に対する血圧調整薬、排尿障害には膀胱を緩める薬が処方され、嚥下障害には喉の筋肉をサポートする薬も使用されます。
リハビリテーションや生活習慣の改善が長期的なケアに大きく貢献しますが、進行が速いため、定期的な評価と調整が不可欠です。
多系統萎縮症の治療法とその効果
多系統萎縮症には確立された治療法はありませんが、徴候や症状を改善してできるだけ体の機能を維持することが治療の目的となります。
患者が自立して快適に過ごせるように、以下のような症状を管理することが重要になります。
- 低血圧
- 便秘
- 尿失禁
- 嚥下障害
これらの症状はパーキンソン病に典型的なものですが、残念ながら、パーキンソン病患者の症状を緩和するために使用される薬 (レボドパ) は多系統萎縮症にはあまり効果がありません。
また、薬で症状が改善しても数年経つと効果が薄れることもあります。
したがって、薬だけに頼るのではなく以下のような看護ケアやリハビリを行いつつ、症状を管理していく必要があります。
- 血圧のチェック
- 定期的に血圧を測ります。
- 嚥下および呼吸管理
- 飲み込みにくい場合は、食事内容の調整
多系統萎縮症のリハビリ
日常生活を送るのが難しいと感じている場合は、リハビリを行うことが大切です。
理学療法士は、障害が進行するにつれて、運動能力や筋肉能力を可能な限り維持する手助けをします。
- バランスの維持
- 起き上がり、立ち上がりの練習
- 歩行訓練
また、言語聴覚士は、言語を改善または維持するのに役立ちます。
多系統萎縮症についてのまとめ
今回の記事では多系統萎縮症の種類や治療、予後などを中心に詳しく解説しました。
多系統萎縮症は、脳の神経細胞に徐々に損傷を与える神経系のまれな病気です。
呼吸、消化、膀胱制御などさまざまな基本的な機能が制御されます。
多系統萎縮症の治療としては明確なものはありませんが、リハビリや看護ケアは欠かせません。
また、近年では、脳卒中などの他にも多系統萎縮症などの神経系の病気に再生医療が有効な場合があります。
ニューロテックメディカルでは脳卒中・脊髄損傷・神経障害を専門として、脳の治る力を高める『同時刺激する神経再生医療』という、リハビリテーションのための下地作りをおこなっています。
多系統萎縮症に関する再生医療に興味がある方は、ぜひご相談ください。
よくあるご質問
多系統萎縮症の余命は?
多系統萎縮症は脊髄小脳変性症の1つの病型で、症状の進行速度が早いことが知られています。
発病から5年ほどで車椅子になり、10年ほどで臥床状態を経て亡くなることが多いと言われています。
多系統萎縮症の痛みは?
疼痛の発現は発病後平均2.9年であり、30%は診断前から痛みが生じると言われています。
痛みの原因は神経痛によるものだと言われています。
あわせて読みたい記事:難病指定の多系統萎縮症とは
外部サイトの関連記事:脳卒中に対する最新のリハビリとは
コメント