この記事を読んでわかること
・脊髄損傷の応急処置の必要性
・具体的な応急処置の対応
・脊椎損傷の後遺症は?
脊髄損傷は主に交通事故や転落、転倒などの外傷で起こりやすく、特に頚椎は安定性が低いため脊髄の中でも最も損傷しやすい部位です。
しかし、頸髄は呼吸や循環などに関与する部位であるため、適切に対応しなくては症状を悪化させ、重大な後遺症を残してしまう可能性もあります。
そこで今回は、脊髄損傷への応急処置に関して詳しく解説します。
脊髄損傷の応急処置の必要性
脊髄には運動を司る運動神経や感覚を司る感覚神経、さらに血圧や脈拍、体温や睡眠、排尿や排便など多くの生理機能を司る自律神経が走行しており、交通外傷や転倒によって脊髄が損傷されると、多くの機能が障害されてしまいます。
特に脊髄の中でも最も安定性の低い頸髄は一番損傷しやすく、脊髄の中でも高位に存在するため多くの神経機能が障害されてしまいます。
例えば、腰髄の損傷であれば下肢の麻痺やしびれ、膀胱直腸障害に留まりますが、頸髄損傷では四肢や体幹の麻痺やしびれはもちろんのこと、呼吸機能や循環機能にも障害をきたす可能性があります。
例えば第4頸髄以上のレベルで損傷すると、横隔膜の運動をうまくコントロール出来なくなり浅い呼吸しかできなくなってしまいます。
また頸髄損傷による炎症の波及は咽頭後部に及び、気道が狭くなってしまえば窒息してしまう可能性もあります。
また頸髄損傷により交感神経の機能が障害されると、血圧や脈拍のコントロールが上手くできなくなり循環動態に大きな影響をきたす可能性があります。
以上のことからも、特に頸髄損傷の場合は生命に関わる事態を招きかねないため、早期対応、早期介入が必要なのです。
実際の脊髄損傷への応急処置とは?
では実際に脊髄損傷を疑う場合、具体的にどのように対応すべきでしょうか?
救急隊要請とAEDの準備
発見の場面にもよりますが、まず受傷者に接触する前に救急隊を要請し、人がいればAEDを持ってきてもらうように指示すべきです。
救急隊が来るまでの時間は短ければ短いだけ良いため、まず最初に行うべきことです。
脊髄損傷だけではAEDの使用は不要なことが多いですが、場合によって必要になることもあり得るため、周囲の人にお願いしておくべきです。
安全確認
脊髄損傷を疑う場合の応急処置として、受傷者の周囲の安全確認が必要です。
前述したように、脊髄損傷は交通事故や転落などの外傷で起きやすく、周囲の安全が確保されていない可能性もあります。
不用意に近づいて介助者が怪我をすれば元も子もありません。
呼びかけと意識確認
その上で応急処置を行う場合は、可能であれば介助者は受傷者の頭側にしゃがみ込んで、両手で頭部と頸部を挟みこむように固定して受傷者に話しかけます。
固定せずに不用意に話しかけると、受傷者が振り向こうとして頭部を動かしてしまい、更なる神経障害を招く可能性があるため注意が必要です。
患者の頭部と頸部を固定した上で、話しかけて患者の意識状態を確認することも重要です。
患者の氏名や生年月日、今どこにいるのかなど基本的なことを確認し、異常があれば頭部外傷の可能性もあります。
移動や体位変換について
次に、不用意に受傷者の体を大きく揺さぶったり、移動や体位変換をさせないことが重要です。
もし脊髄を損傷している場合、椎骨が正常な位置になかったり砕けていたりして、脊椎がぐらついていることがあります。
その状態で不用意に体位変換や移動を行うと、脊髄に負担がかかってしまい、さらなる神経損傷を招いてしまう可能性があるため注意が必要です。
基本的に、移動や体位変換は救急隊以外が行うべきではありません。
実際に、救急隊員は移動に関して専門的な技術を身につけています。
負傷者を硬い板にベルトで固定し、体が動かないように慎重にパッドをあて、首が動かないように硬性カラーを使用することもあります。
もし救急隊の到着を待たずに移動が必要であれば、タンカーの上で頭から足までを棒のように動かさないように固定して移動させてください。
呼吸状態の観察
救急隊が到着するまで、介助者が最も注意すべきことは呼吸状態の変化です。
前述したように、上位頸髄、特に第4頸髄より上のレベルの損傷は横隔膜の機能障害を招くため、胸式呼吸を上手く行えなくなります。
また頸髄損傷による炎症が咽頭後部に及ぶと、気道が狭くなってしまい窒息してしまう可能性もあります。
そこで、介助者は気道狭窄の兆候が見られた場合、少しだけ顎先を挙上し気道確保を行う必要があります。
過度な顎先の挙上は神経障害を招く可能性があるため、慎重に行う必要があります。
まとめ
本書では、脊髄損傷患者に対する適切な応急処置について解説しました。
基本的に一度損傷した神経細胞が再生することは無いため、脊髄損傷の程度によっては四肢麻痺やしびれ、自律神経障害など多くの神経障害を来し、重大な後遺症に苦しむ生活を送る羽目になってしまう可能性もあるのです。
以上のことからも、脊髄損傷に対しての適切な初期対応は、その後の神経学的予後に対し非常に重要であり、迅速かつ適切な対応が求められます。
また、近年では再生医学の進歩が目覚ましく、損傷した神経細胞の形態や機能そのものを代替えできる可能性が出てきました。
再生医療は、自身の骨髄内の自己幹細胞を取り出し、培養して増殖させたものを体に戻すことで損傷した細胞を再構築する治療法であり、脊髄損傷後の神経障害に対しても有効な治療になり得ることが期待されています。
よくあるご質問
脊椎損傷の後遺症は?
損傷された部位より下の機能が失われます。頸髄損傷の場合は損傷レベルにより、首のみしか動かせない、手は不十分だが動かせるが足は動かせないなどの後遺症があります。膀胱に尿を貯められない、尿をうまく出せないという排尿障害の合併も多いです。
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