この記事を読んでわかること
・脳の部位別の機能や働きがわかる
・脳卒中の症状が部位別にわかる
・脳の機能がリハビリで改善する機序がわかる
脳は部位によって機能が異なるため、脳卒中によって脳が破壊されると、その部位によって出現する症状も異なります。
特に前頭葉が障害されると、記憶や思考・感情などさまざまな高次機能が障害されるため、生活に与える影響も大きいです。
そこで、この記事では脳卒中の部位別症状やリハビリとの関係について詳しく解説します。
脳卒中が部位別に及ぼす影響
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)によって脳細胞への血流が低下すると、脳細胞が障害され、さまざまな神経症状をきたします。
また一言に脳といっても、部位によって担っている機能は異なるため、脳卒中によって障害される部位によって出現する症状も異なり、注意が必要です。
ここでは、 脳卒中による前頭葉と後頭葉や側頭葉への影響について部位別に解説します。
脳卒中が前頭葉に及ぼす影響
前頭葉は以前まで「サイレントエリア」と呼ばれ、あまり重要な機能を有していない部位と認識されていましたが、近年の医学の発達とともに、その機能の重要性が徐々に明らかになっています。
前頭葉の主な機能は下記の通りです。
- 遂行機能
- 運動性言語
- 感情や情動のコントロール
- 習得した動作のコントロール
上記はあくまで一部ですが、これらの機能が障害されることで複雑な神経症状が出現します。
遂行機能とは、自分でなんらかの目標を設定し、その目標達成のために実際に行動を計画し、遂行することです。
遂行機能が障害されることで、旅行の計画を緻密に立てられなくなったり、複雑な質問にうまく答えられなくなります。
また、前頭葉には運動性言語を司るブローカ(Broca)野が存在しており、障害されると相手の言語の意味は理解できるものの、自分が話すときは言葉がうまく思い浮かばなくなります。
そのほかにも、病側と左右反対側のさまざまな刺激や状況を認識できなくなる「半側空間無視」や、一時的に記憶を保つことができなくなる「記憶障害」など、出現する症状は多いです。
また、感情や情動のコントロールがつかなくなることで、思ったことをそのまま口に出してしまったり、集団生活に適応できなくなるなど、日常生活に与える影響も多岐に渡ります。
脳卒中が後頭葉に及ぼす影響
後頭葉の主な機能は、視覚情報の処理です。
通常、網膜からインプットされた視覚情報は視神経→視床の外側膝状体→後頭葉の順に伝達されます。
そのため、後頭葉が障害されると視覚情報が正常に認識できなくなり、自分の今見ている景色と過去の記憶の照らし合わせもできなくなります。
これを皮質盲と呼び、中には自身の視覚が正常でないことに気づいていない人(これをアントン症候群と呼ぶ)もいます。
脳卒中が側頭葉に及ぼす影響
側頭葉の主な機能は、記憶情報の処理・保存と、言語の理解です。
人の記憶において、側頭葉、特に海馬と言われる部位は非常に重要であり、インプットされたばかりの記憶の一時的な保存や、長期記憶の加工・再現などを行うことができます。
また、特に左側頭葉に位置するウェルニッケ(Wernicke)野が障害されると言語の理解は障害されやすく、他人の言語が理解できなくなるため、会話が著しく障害されます。
具体的な症状は、流暢な発語が見られるものの、会話の内容が噛み合わないなどの症状です。
上記のように、脳は障害される部位によって出現する症状もさまざまであり、広範な脳血管障害であれば複数の部位が同時に障害されることもあるため、注意が必要です。
側頭葉の損傷が引き起こす失語症や記憶障害のメカニズム
側頭葉は、脳の中でも記憶や言語、聴覚において重要な役割を果たします。
特に、左側頭葉が損傷した場合には、言語障害(失語症)や記憶の保持に関わる問題が発生しやすくなります。
側頭葉の損傷は、音の認識や言葉の意味を理解する能力を低下させ、日常生活に大きな支障をきたします。
右側頭葉が損傷すると、物体の認識や見当識に関する問題が発生することが多く、記憶力や視覚認知にも影響を与えます。
これらの障害を軽減するためには、早期の診断とリハビリテーションが不可欠です。
前頭葉の障害による認知機能と行動の変化
脳卒中によって前頭葉が障害されると、認知機能や行動に変化が生じる「高次脳機能障害」が出現します。
主に言語・思考・学習・行為・注意・記憶・感情などの高次な知的機能が障害され、日常生活に大きな支障を与えます。
感情をコントロールできなくなり攻撃的な性格になったり、注意力が低下して仕事上でのミスが多発するなど、社会生活に与える影響も大きいです。
人によって、どのような行動の変化が出現するかは異なりますが、コミュニケーション能力が低下する点では共通しています。
脳の復旧とリハビリテーションの過程
まず一般的に、脳や心臓の細胞は自己複製能に乏しく、一度損傷を受けるとなかなか再生することが困難と認識されています。
それでも実際にはリハビリテーションなどを行い、麻痺やしびれなどの神経症状は完全回復とは言わないまでも、ある程度回復できることは間違いありません。
この回復の過程には、大きく2つのプロセスが存在します。
- 再建:残存した組織が自己複製し、全く同じ機能を持つ組織を作り直す
- 再組織化:全く同じ機能ではないが、異なる機能で元の機能を取り戻す
上記のうち、障害部位がある程度小さければ、再建も可能です。
実際に、成人の脳は損傷後数週間から数ヶ月で迅速に回復する可能性があり、その後も数年かけて緩徐に回復するという報告が多数散見されます。
しかし、障害部位が広範囲にわたる場合、神経機能が完全に再生することは難しく再建は困難であり、その代わりリハビリテーションなどによって周囲の組織が発達し、再組織化することで、機能の維持・改善を目指します。
前頭葉と後頭葉や側頭葉への影響についてのまとめ
今回の記事では、 脳卒中による前頭葉と後頭葉や側頭葉への影響について詳しく解説しました。
脳卒中は脳の血管の病気であり、脳全体に張り巡らされた血管のどこに発症するかによって障害される部位も異なり、それによって出現する症状も変わります。
特に、前頭葉の障害は注意障害や記憶障害などの高次脳機能障害を招き、社会生活に重大な支障を与えるため、早期から適切に介入することが重要です。
その取り組みの一つとして、早期からのリハビリテーションは損傷した脳の機能を代償し、機能改善のためにも非常に重要な治療です。
また、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
ニューロテックメディカルでは、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「神経再生医療×同時リハビリ™」によって、損傷した脳の改善・再生が期待できます。
よくあるご質問
前頭葉と後頭葉の役割は?
前頭葉は言語の発出を司っているため、障害されるとうまく話すことができなくなります。また、感情や記憶・人格形成などにも関わっています。後頭葉には視覚中枢があり、視覚情報の処理・加工を行なっています。
後頭葉が障害されるとどうなる?
後頭葉が障害されると、視覚中枢が障害されるため、網膜からインプットされた視覚情報がうまく処理できなくなります。人によっては自分の視覚情報が正確でないことに気付けない方もいて、これをアントン症候群と呼びます。
<参照元>
・日本神経学会:https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_16.pdf
・MSDマニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/09-脳、脊髄、末梢神経の病気/脳の機能障害/部位別にみた脳の機能障害
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/32/1/32_21/_pdf
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