この記事を読んでわかること
・膀胱障害とは
・高齢者の膀胱健康に膀胱障害はどう影響するのか?
・何が膀胱障害の主な原因となるのか
膀胱は尿を溜め込み、ある程度溜まったら収縮して尿道から排出する機能を持つ臓器です。
しかし、膀胱になんらかの異常があるとうまく尿を排出できず、尿路感染症のリスクも増加します。
膀胱の機能異常は、日常的な生活習慣が思わぬリスクになることもあります。
そこでこの記事では、膀胱障害の原因とリスクファクターについて解説します。
高齢者の膀胱健康に膀胱障害はどう影響するのか?
通常、左右の腎臓で生成された尿は尿管を経由して、下腹部に位置する膀胱に貯留します。
膀胱は袋状の構造を成しており、尿が溜まると徐々に拡張しますが、約200mlほど溜まると尿意を自覚し、排尿する際は膀胱が収縮して尿道から排出されます。
この膀胱の機能を支えているのは自律神経であり、膀胱の伸展を感知すると副交感神経が活性化して、膀胱を収縮させ、尿道の筋肉を弛緩させることで排尿が成り立っています。
しかし、高齢者では正常な膀胱の機能がなんらかの理由で損なわれ、うまく膀胱に尿を貯められない(これを蓄尿障害という)、もしくは膀胱に溜まった尿をうまく排出できない「排出障害」があります。
蓄尿障害
高齢者では、自律神経の調節機能低下や、尿道括約筋の筋力低下に伴い、膀胱に尿を貯留することなくすぐに排出してしまう蓄尿障害をきたします。
よく高齢者で失禁してしまうのはこのためです。
特に、自律神経の調節機能低下によって、少しの尿の蓄積でも膀胱が過敏に反応してしまい、すぐに収縮してしまう「過活動膀胱」は、夜間頻尿による睡眠障害などの原因となるため、厄介な病気と言えます。
また、加齢によって膀胱内に腫瘍が形成されると、膀胱内の有効な容量が減少してしまうため、うまく蓄尿できなくなります。
排出障害
膀胱に溜まった尿をうまく尿道から排出できない状態を排出障害といいます。
加齢に伴って膀胱を収縮させる筋肉が弛緩すると、膀胱に尿が溜まっても収縮が得られず、排出できなくなります。
また、男性の中高年者で多い前立腺肥大症や前立腺癌によって尿道が物理的に閉塞・狭窄すると、膀胱が収縮しても抵抗が強くうまく尿が排出されません。
高度の排出障害によって尿の流れが悪くなると、尿路感染症のリスクにもなるため、注意が必要な病態です。
肥満の影響が膀胱障害リスクをどう高めるのか?
実は肥満も膀胱障害のリスクを高めます。
肥満による内臓脂肪の増加は、膀胱を外的に圧迫するため、頻尿になりやすいことが報告されています。
さらに、肥満に伴う糖尿病や睡眠時無呼吸症候群では夜間頻尿が増加することも知られています。
また、肥満と泌尿器ガンの関連を示唆する報告もあり、泌尿器ガンの形状によっては排出障害をきたす可能性もあります。
糖尿病や神経学的疾患による膀胱障害のリスク
前述したように、膀胱の機能には自律神経をはじめとする多くの神経が関与しています。
蓄尿時における膀胱の伸展刺激は脊髄を経由して脳へ伝わり、尿意として自覚します。
その刺激を受けて、脳から交感神経である下腹神経に刺激が伝わり、膀胱括約筋が弛緩することで尿を溜め込みます。
その際、尿道から尿が漏れ出ないよう、陰部神経からの刺激で尿道括約筋が収縮し、膀胱に蓋をします。
逆に、排尿時には副交感神経が活性化し、骨盤神経が刺激されることで膀胱が収縮し、尿道括約筋が弛緩することで、尿道から排尿されます。
このように、正常な排尿には下腹神経・陰部神経・骨盤神経などの神経や、脊髄・脳など多くの神経回路が関与しています。
自律神経の調節機能が低下する糖尿病や、脊髄に異常が生じる脊髄・脊椎疾患、中枢神経である脳が障害される脳梗塞や脳出血などによって、これらの神経回路が障害されると膀胱障害が出現します。
健康への長期的影響として尿路感染症再発と膀胱障害はあるのか?
膀胱障害、特に排出障害の場合、膀胱内に尿が貯留してしまい尿道から逆流した細菌が繁殖しやすい状態となります。
膀胱内で病原菌が繁殖すると膀胱炎となり、さらに症状が進行すると膀胱内の細菌は尿管を逆流し、腎臓に到達すると「腎盂腎炎」となります。
腎盂腎炎による死亡率は約0.3%と言われていますが、腎臓は血管の豊富な臓器であるため、仮に細菌が血管に侵入してしまうと全身に飛び散ってしまいます。
この状態を「菌血症」と呼び、菌血症に至った場合の死亡率は7.5%〜30%にも上ることが知られています。
膀胱障害は飲酒と喫煙のリスクと影響はあるのか
飲酒や喫煙は膀胱ガンの発生率を増加させる可能性があり、膀胱障害を引き起こす可能性もあります。
国立がん研究センターの報告によれば、喫煙本数と喫煙年数が多ければ多いほど膀胱癌の発症リスクが増加することが知られており、タバコに含有する化学物質が原因と考えられています。
一方で、アルコールの代謝物質であるアセトアルデヒドにも発ガン性が指摘されているため、膀胱ガンの発症に関与している可能性が指摘されています。
欧米で行われた研究では飲酒と膀胱ガンに関連性を認めませんでしたが、日本人は欧米人よりもアルコール代謝能力が低く影響を受けやすいため、関与している可能性もあります。
膀胱障害を避けるためにも、過度な飲酒や喫煙は控えましょう。
まとめ
今回の記事では、膀胱障害の原因とリスクファクターについて解説しました。
膀胱は排尿する上で非常に重要な臓器であり、複雑なメカニズムで蓄尿と排出を行なっています。
一方で、加齢や肥満・糖尿病や脳血管障害・飲酒や喫煙などさまざまな要因で膀胱の機能が障害され、蓄尿障害や排尿障害をきたす可能性があります。
特に、排尿障害は膀胱内に細菌感染を引き起こす可能性があり、腎盂腎炎や菌血症など生命予後に関わる可能性もあるため注意が必要です。
また、脊髄損傷や脳血管障害などの神経疾患は、不可逆的な膀胱障害の原因となり、現状根治的な改善方法は見つかっていません。
しかし、近年では再生医療の発達が目覚ましく、再生医療によって破壊された神経細胞が再生すれば、膀胱障害が改善する可能性もあり、現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
何が膀胱障害の主な原因となるのですか?
膀胱障害の主な原因は、脊髄損傷や脳血管障害、糖尿病や加齢によって膀胱の機能をコントロールする神経の障害が挙げられます。
また、膀胱ガンなどの形態学的異常や、膀胱の収縮に関わる筋肉の菲薄化なども原因となります。
特定のライフスタイルが膀胱障害のリスクを高めることはありますか?
膀胱障害の原因となりうる膀胱ガンは、喫煙や特定の医薬品(フェナセチンやシクロフォスファミドなど)によって発症リスクが高まることが知られています。
また、肥満や糖尿病も膀胱障害の原因となるため、日常生活から注意が必要です。
<データ参照元>
・健康長寿ネット:https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenko-cho/haisetsushogaitaisaku.html
・関東中央病院:https://www.kanto-ctr-hsp.com/ill_story/201710_byouki2.html
・国立ガン研究センター:https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8041.html
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