この記事を読んでわかること
・脳外傷による脳出血の病態
・脳外傷による脳出血の治療法
・高次脳機能障害とリハビリについて
頭部に強い外力が加わり、皮膚や皮下・頭蓋骨や脳そのものが損傷を受けた状態を頭部外傷といい、特に脳実質の損傷を脳外傷といいます。
脳外傷によって出血や浮腫が生じると脳の血流が悪化し、さまざまな神経症状をきたす可能性もあります。
そこでこの記事では、脳外傷の病態や脳出血を起こす機序、治療について解説します。
脳外傷による脳出血の病態と治療法
これまで、転倒や転落、交通事故で頭を強くぶつけ、フラついたり目がチカチカした経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?
しかし、ほとんどの場合、頭を強打しても問題になることはありません。
脳という臓器は人体の中でも極めて重要な臓器であり、非常に強く守られているからです。
まず、最も表層には毛髪や頭皮があり、その内側には脂肪組織や筋肉があります。
さらに内側に頭蓋骨があり、その内側にある硬膜・クモ膜という膜で包まれています。
クモ膜の内側には、脳脊髄液と呼ばれる衝撃吸収のためのプールのような液体があり、最後に薄い軟膜という膜で包まれて、脳実質は存在しています。
ここまで何重に包まれている脳でも、あまりにも強い衝撃が加わると流石にダメージを受けることがあります。
強い衝撃によって、頭蓋骨の内側で脳が頭蓋骨にぶつかり、さらにその反動で逆側の頭蓋骨にぶつかり、頭蓋骨内で脳が撹拌されると脳震盪(のうしんとう)になります。
その衝撃で脳の細胞がダメージを受け、構造上の変化をきたした場合、脳挫傷と呼びます。
この際、脳周辺を走行する血管が衝撃によって破損し、出血を引き起こす可能性があり、出血する部位によって病名も異なります。
- 硬膜外血腫:頭蓋骨と硬膜の間を走行する血管が損傷して生じる
- 硬膜下血腫:硬膜とクモ膜の間を走行する血管が損傷して生じる
- くも膜下出血:クモ膜の内側を走行する血管が損傷して生じる
- 脳出血:脳内を走行し、脳を栄養する血管が損傷して生じる
脳は頭蓋骨という一定容積の閉鎖空間に存在しているため、内部で出血を引き起こすと、血腫によって脳そのものが圧迫されてしまいます。
そのため、より内側での出血ほど、脳実質がダメージを受けやすく、くも膜下出血や脳出血は重篤な後遺症や、場合によって命に関わる事態に発展する可能性もあります。
脳出血を引き起こすと、脳を栄養する血管が破綻するため、脳は活動に必要な栄養をうまく受け取れず、時間の経過とともに壊死してしまいます。
また、激しい炎症が生じて脳が浮腫んでしまうため、やはり脳実質が頭蓋骨内で圧迫されてしまいます。
脳が強く圧迫を受けると呼吸や循環が不安定になるため、人工呼吸器や血圧コントロールなどの治療が必要となります。
脳出血を伴う脳外傷の場合、頭部CT検査などを行い脳出血や脳浮腫の程度を見て、治療方針を決めます。
軽度であれば経過観察で問題ありませんが、重度の場合は手術で血腫を除去したり、点滴で脳の浮腫を改善させるような治療が行われます。
特に、緊急手術による血腫除去は患者の生命予後を大きく左右するような手術であり、対応が遅れると死に至る可能性もあるため、迅速な診断・手術が必要となります。
高次脳機能障害とリハビリの改善に対する期待
脳外傷によって脳の細胞を損傷すると、麻痺やしびれなどさまざまな後遺症を残す可能性があり、そのうちの1つに高次脳機能障害が挙げられます。
高次脳機能障害とは、注意力や記憶力の低下、性格の変化や場にそぐわない行動をするなど、さまざまな症状が原因で社会生活に支障が生じる障害です。
特に、脳外傷では脳卒中などと比較して高次脳機能障害が残りやすいことが知られています。
高次脳機能障害は、主に4症状に分けることができます。
- 記憶障害:情報をインプットする能力の欠如
- 注意障害:物事に一定時間集中する能力や、他の物事に注意を切り替える能力の欠如
- 遂行機能障害:ある一連の動作を効率よく実施するための能力の欠如
- 社会的行動障害:意欲の低下や性格の変化による一般的な社会行動を送る能力の欠如
損傷する脳の部位によって出現する症状は異なり、例えば脳の深部にある海馬と言われる部位が障害されると記憶障害が生じます。
高次脳機能障害の原因は脳細胞の損傷であり、現状、一度損傷した脳細胞を根治する治療法はないため、機能回復のためのリハビリテーションが治療の中心となります。
また、高次脳機能障害はアルツハイマー型認知症などと異なり、徐々に進行していくことは少なく、リハビリテーションによってある程度まで症状が改善することが見込まれています。
具体的なリハビリテーションの内容は、生活支援や就労移行支援など、高次脳機能障害とうまく付き合いつつ社会生活に順応していけるような手助けを主としています。
特に発症後1年以内のリハビリの質が、症状改善にとって非常に重要であるため、早期から適切な取り組みをおこなっていくことが重要です。
まとめ
今回の記事では、脳外傷の病態や脳出血を起こす機序、治療について解説しました。
なんらかの外力によって頭部を損傷した場合、脳そのものが損傷することもあれば、それに伴って硬膜外や硬膜下、クモ膜下や脳内を走行する血管が破綻し出血を引き起こすこともあります。
特に、くも膜下出血や脳出血による血腫は脳実質を圧迫する可能性が高く、呼吸や循環の状態が不安定になる可能性もあります。
また、出血や浮腫によって脳細胞が損傷を受けると、麻痺やしびれ、高次脳機能障害などの重い後遺症を残す可能性があり、早期から適切な治療を行う必要があります。
現状、脳外傷に伴う脳出血に対しては軽度であれば経過観察、重度であれば緊急手術による血腫除去がスタンダードな治療ですが、損傷した脳細胞を蘇らせるような治療ではありません。
しかし、近年では再生医療の発達が目覚ましく、破壊された脳細胞が再生する可能性もあり、そうなれば脳外傷に伴うさまざまな神経障害や後遺症が改善する可能性もあります。
現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脳外傷の症状は?
脳外傷の軽度な症状として、頭痛や嘔気嘔吐、皮下血腫、一時的な健忘などが挙げられます。
しかし、脳内部で出血や浮腫を伴う場合は意識障害や麻痺、しびれ、高次脳機能障害などの神経症状をきたします。
けいれん発作を起こす方もいます。
外傷性脳損傷の特徴は?
外傷性脳損傷の特徴は、外傷によって脳そのものが損傷を受け、半身麻痺や感覚障害をきたし、記憶障害や注意障害などの高次脳機能障害を伴いやすい点です。
特に、脳卒中と比較して高次脳機能障害が後遺症に残りやすいです。
<参照元>
・MSDマニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/25-外傷と中毒/頭部外傷/脳挫傷と脳裂傷
・脳損傷後の高次脳機能障害に対する包括的集中リハビリテーションの効果:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/47/4/47_4_232/_pdf
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