この記事を読んでわかること
・脳幹脳炎の影響と多様な後遺症がわかる。
・リハビリテーションと再生医療の可能性がわかる。
・再生医療の課題と将来の展望がわかる。
ウイルス性脳幹脳炎は、生命維持や運動機能を担う脳幹に炎症が生じる疾患で、単純ヘルペスウイルスなどが原因となります。
後遺症として四肢麻痺や感覚障害、認知障害などがあります。
この記事では、脳幹脳炎の原因や症状、後遺症、さらに運動機能低下や認知障害の改善に向けたリハビリテーションと再生医療の可能性も紹介します。
後遺症の種類:神経障害、運動機能低下、認知障害
脳炎とは、脳の実質で起こる炎症のことを指します。
その中でも、脳幹という部位で主に炎症が起こる病態を、脳幹脳炎と総称します。
脳幹という部分は、脳幹は生命維持や意識を司る重要な部分です。
以下のような重要な役割を果たしています。
- 意識を保つ(網様体賦活系)
- 生命維持を保つ(呼吸中枢)
- 運動を伝える(錐体路・錐体外路)
- 感覚を伝える(内側毛帯・脊髄視床路・三叉神経核)
- 体幹バランスや運動を制御統合する(上・中・下小脳脚)
- 眼球運動を司る(内側縦束、傍正中橋網様体、上丘、動眼神経、滑車神経、外転神経)
- 基底核や視床と密接な関係を持つ黒質、赤核がある
- 平衡感覚と聴覚を司る(前庭蝸牛神経)
このように、脳幹は多くの複雑な機能を持っているのです。
脳幹脳炎の原因は様々です。
そして、それぞれ症状、経過、予後に大きな違いがあります。
原因としては、単純ヘルペス脳炎や日本脳炎、結核性脳幹脳炎といった感染によるものや、ビッカースタッフ型脳幹脳炎として知られる自己免疫疾患があります。
中でも、ウイルス性脳炎の代表であり、致死率が高いとして知られる単純ヘルペスウイルスによる脳炎では、側頭葉内側の病変が典型的とされています。
しかし、中には側頭葉以外に、脳幹にも炎症が起こるものもあることが知られています。
さて、脳幹脳炎が起こった場合、ウイルス性の場合には抗ウイルス薬の投与が行われる場合があります。
自己免疫性疾患であるビッカースタッフ型脳幹脳炎の場合には、免疫グロブリン大量静注療法や、血液浄化療法(血液から有害物質を取り除く治療)、副腎皮質ホルモン投与などがあります。
脳幹脳炎の後遺症としては、四肢麻痺に伴う運動機能低下があります。
その他にも、脳幹は運動神経だけでなく感覚神経の重要な経路となっているため、感覚障害が生じることもあります。
感覚障害があると、熱さや冷たさを感じにくくなることがあります
また、脳幹のみならず、脳の他の部位にも炎症が及んでいた場合には、認知障害も後遺症となる可能性があります。
後遺症を軽減するリハビリテーションと再生治療の組み合わせ
脳卒中や神経筋損傷に対しては、その後遺症を軽減するための方法が模索されています。
例えば、疾患後の生活の質を向上させる可能性がある方法の一つにとして、リハビリテーションと再生医療の組み合わせが注目されています。
例えば、ヘルペス脳炎の後遺症としての記憶障害に対して、リハビリテーションと再生医療の組み合わせの効果が示された研究があります。
例えば、単純ヘルペス性脳炎の治療を受けてから8ヶ月後に、認知、精神、運動障害を伴うウイルス性脳炎の後遺症を発症した11歳の子供に対する、同種臍帯血幹細胞移植ならびにリハビリテーションを行なった研究があります。
脳幹脳炎に限った研究ではない点には注意が必要ですが、この報告によると、包括的なリハビリテーション療法と組み合わせた 6 回の同種 CBMC 移植を受けた後、患者は言語、思考、理解、長期記憶、認知の正常な機能を取り戻したということです。
さらに、幹細胞治療後の 5 年間の追跡調査で、患者の生理学的指標は正常範囲内であることが示され、思考、言語、精神的認識の能力は回復し、病気の発症前と同等のレベルに維持されました。
(参照サイト:Yangら、2013)
こうした予備的な臨床データは、幹細胞移植がウイルス性脳炎の重篤な後遺症に対する新しい治療選択肢となる可能性があることを示唆しています。
再生医療がもたらす長期的な回復可能性と課題
脳炎によって損傷を受けた神経細胞は、自然に再生することは難しいとされています。
一方で、再生医療により、神経細胞の修復を図り、神経障害や認知機能障害、運動障害などが回復することが期待できます。
リハビリテーション療法は脳損傷後の損傷したニューロンの再生と中枢神経系の機能的可塑性を助けることができると考えられています。
さらに、リハビリテーション療法は移植細胞に相乗作用を発揮して機能回復を促進する可能性があります。
最近の研究では、リハビリテーション療法は移植細胞の生存と分化を活性化し、損傷部位の周囲組織で内因性神経栄養因子の合成と分泌を開始し、グリア線維性酸性タンパク質とコンドロイチン硫酸プロテオグリカンタンパク質の発現をダウンレギュレーションして軸索変性を防ぎ、軸索再生を改善できることが実証されています。
一方で、課題としては安全性と治療効果の実証がまだ不十分である点などがあります。
今後もより多くの知見を得ていく必要があるでしょう。
また、幹細胞治療は高価であり、広く利用できる治療法になるには課題が残っています。
まとめ
今回の記事では、ウイルス性脳幹脳炎や他のタイプの脳幹脳炎の原因や症状、再生医療を組み合わせたリハビリテーションによる後遺症の改善効果について解説しました。
当院ニューロテックメディカルでも、脳卒中・脊髄損傷を専門として、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しております。
リニューロ®では、同時刺激×神経再生医療®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリ®を行うことで神経障害の軽減を目指します。
脳幹脳炎の後遺症に対しても、効果が期待できます。
ご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
- ウィルス性脳炎の後遺症は?
- ウイルス性脳炎の後遺症には、運動機能低下や感覚障害、認知機能障害などが含まれます。
四肢麻痺や熱さ・冷たさを感じにくい感覚障害、記憶力や注意力の低下など、日常生活に影響を及ぼす場合があります。 - 脳炎の子供は後遺症が残りますか?
- 脳炎の子供では、炎症の重症度によって後遺症が残る場合があります。
運動機能や記憶、学習能力への影響が報告されています。
ただし、早期治療や適切なリハビリテーションにより回復の可能性もあります。
<参照元>
(1)Yang WZ, Shu GJ, Zhang Y, Wu F, Ye BY, Hu X. Human cord blood-derived mononuclear cell transplantation for viral encephalitis-associated cognitive impairment: a case report. J Med Case Rep. 2013 Jul 8;7:181. doi: 10.1186/1752-1947-7-181. PMID: 23835552; PMCID: PMC3710245.:
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3710245/
IV.重要な神経系の感染症 6.脳幹脳炎.日内会誌.1996;85:720-724.:
https://www.jstage.jst.go.jp/
ウイルス性脳炎(viral encephalitis)|症状からアプローチするインバウンド感染症への対応:
https://www.kansensho.or.jp/ref/d06.html
急性呼吸障害を来した単純ヘルペス脳炎において脳幹病変が 病理学的に確認できた 89 歳男性の1例.臨床神経.2020;60:840-845.:
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/060120840.pdf
ビッカースタッフ脳幹脳炎(指定難病128):
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4463
脳炎 – 07. 神経疾患 – MSDマニュアル プロフェッショナル版:
https://www.msdmanuals.com/
5 脳炎後の記憶障害と リハビリテーション治療.Jpn J Rehabil Med.2023;60:491-497.:
https://www.jstage.jst.go.jp/
Moritz CT, Ambrosio F. Regenerative Rehabilitation: Combining Stem Cell Therapies and Activity-Dependent Stimulation. Pediatr Phys Ther. 2017 July;29 Suppl 3(Suppl 3 IV STEP 2016 CONFERENCE PROCEEDINGS ):S10-S15. doi: 10.1097/PEP.0000000000000378. PMID: 28654473; PMCID: PMC5488706.:
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5488706/
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