インフルエンザウイルス感染による「インフルエンザ脳症」とは? | 脳梗塞・脊髄損傷の幹細胞治療|ニューロテックメディカル

インフルエンザウイルス感染による「インフルエンザ脳症」とは?

           

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この記事を読んでわかること

インフルエンザ脳症の症状がわかる。
インフルエンザ脳症の発症メカニズムがわかる。
インフルエンザ脳症の治療法がわかる。


インフルエンザ発症から数時間〜2日以内にけいれんや意識障害を伴う場合、インフルエンザ脳症と呼ばれる重篤な合併症を発症している可能性があります。
大変予後が悪く、特に小児では対処が遅れれば死亡する可能性も高い病気です。
この記事では、インフルエンザ脳症の症状や発症メカニズム、治療法について詳しく解説します。

インフルエンザ脳症の症状

眠っている子供のイメージ
例年、冬になると空気が乾燥し、気道が空気中の異物をキャッチしにくくなるため、さまざまな感染症が発症しやすくなる季節ですが、その最たる例がインフルエンザウイルスです。
インフルエンザに感染すると発熱や倦怠感、咳や呼吸苦などさまざまな症状をきたしますが、インフルエンザ発症から比較的早期にけいれんや意識障害、異常行動などの精神神経所見を認める場合、インフルエンザ脳症を発症している可能性があります。
特に1〜5歳くらいの幼児で発症しやすいことが知られており、インフルエンザ発症による発熱から数時間〜2日以内に下記のような神経症状を認めた場合は要注意です。

けいれん 60〜80%程度にみられ、特に意識障害や異常行動を伴う場合はインフルエンザ脳症の可能性が高い
意識障害 最も合併しやすい症状で、進行する場合はインフルエンザ脳症の可能性が高い
異常行動 人や物への認識が正常でない、幻覚、幻視などの症状で1時間以上継続する場合はインフルエンザ脳症の可能性が高い

上記のような症状を認める場合、インフルエンザ脳症を疑い、高次医療機関への搬送が必要不可欠です。
インフルエンザ脳症の神経症状の進行は急速であり、症状が進行すると脳の血管内皮細胞の透過性が過剰に亢進し、血管内の水分が血管外に漏出するため、脳に浮腫が生じます。
過剰な浮腫によって脳が膨張しますが、脳は頭蓋骨によって囲まれた閉鎖空間に存在しているため、膨張によって脳自体が圧迫され、呼吸や血圧を司る延髄が強く圧迫されると、呼吸停止や循環動態の破綻を招き、死に至ります。

日本小児神経学会によれば、インフルエンザ脳症を発症した場合の死亡率はなんと約30%で、たとえ生き残ったとしても約25%の子どもに後遺症が残るため、非常に重篤な疾患です。

インフルエンザ脳症の原因や発症メカニズム

これまで、インフルエンザ脳症の原因や発症メカニズムは未解明でしたが、近年では医療の発達に伴いその発症メカニズムも徐々に解明されつつあります。
木村氏(大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座 ウイルス学特任助教)らの研究グループの報告によれば、主に下記のようなメカニズムで発症していることが明らかになりました。
血管内皮細胞を介して、血流に乗って脳内に直接的にインフルエンザウイルスが侵入
侵入したウイルスからウイルス蛋白(ウイルスが産生するタンパクでさまざまな機能を有する)が産生され、脳血液関門を破壊
過去の研究では、インフルエンザ脳症発症者の脳内でウイルスがほとんど検出されなかったため、インフルエンザ脳症はウイルスの直接感染ではなく、感染に伴う過剰な免疫反応が原因であると考えられていました。
しかし、実際にはインフルエンザウイルスは脳内に侵入しており、侵入したウイルスから産生されたウイルス蛋白が蓄積すると脳血液関門が破壊されてしまうのです。
脳は血液中の有毒物質や異物から脳を守るために、脳血液関門というバリア機構を構築していますが、これが破壊されることで脳出血や脳浮腫が急激に悪化し、けいれんや意識障害が生じます。
あくまでウイルス蛋白が大量に産生されることが病態悪化の本態であるため、ウイルス自体はほとんど増殖を認めず、過去の研究ではウイルス自体はほとんど検出されなかったわけです。

インフルエンザ脳症の治療法

インフルエンザウイルス自体の増殖や拡散を防ぐタミフルなどの薬は存在するものの、現状の医療では発症したインフルエンザ脳症を根治的に改善できる治療法は開発されていません。
発症した場合に行われる治療は主に下記の通りです。

支持療法 呼吸や循環動態の安定化を図る全身管理
特異的治療 抗ウイルス薬・メチルプレドニゾロンパルス療法・ガンマグロブリン大量療法など、病状改善を目指す治療
特殊治療 支持療法や特異的治療を行った上で、更なる効果を得るために実施を検討する治療

インフルエンザ発症後にけいれんや意識障害などを認めた場合、まずは支持療法(呼吸や循環動態の安定化、脳圧のコントロール、けいれんへの薬物投与など)を行い、全身状態の安定化を目指します。
その上で、インフルエンザ脳症が疑わしい場合や確定した場合は、特異的治療を併用することで更なる症状の悪化を予防します。
それでも病状が改善しない場合、脳低温療法や血漿交換療法、アンチトロンビンIII大量療法などの特殊治療の併用が検討されますが、これらの治療は有効性や安全性における十分なエビデンスは得られていないため、慎重に検討すべきです。

先述したように、近年ではインフルエンザ脳症の発症メカニズムも解明されつつあるため、インフルエンザウイルスからのウイルス蛋白産生を抑制するような新薬が開発されれば、直接的に予防・治療できる可能性があり、今後の開発が待たれるところです。

まとめ

インフルエンザは毎年必ずと言っていいほど冬季に流行し、多くの人が罹患するため、それに伴うインフルエンザ脳症も他人事ではありません。
特に幼児で発症しやすい合併症のため、小さい子供を持つ家庭では注意が必要です。
インフルエンザ脳症を発症した場合、全身管理を行った上で特異的治療や特殊治療を行う必要があるため、いかに早期に高次医療機関に搬送できるかが予後にとって重要です。
仮に適切な治療を行っても、死亡例や後遺症が残ってしまう例は少なくないため、直接的に治療できる新薬の開発が待たれますが、近年では、神経障害が「治る」を当たり前にする取り組みとして注目されている「ニューロテック®」という考え方があります。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対して「狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療」再生医療「リニューロ®」を軸とするアプローチで、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリ®を組み合わせた治療法です。
インフルエンザ脳症による神経障害や後遺症に対しても、今後このような先進的な治療法が希望となる可能性があります。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。

よくあるご質問

インフルエンザ脳症の致命率は?
インフルエンザ脳症は以前までは致命率約30%、後遺症率約25%と大変予後不良な病気として認識されていました。
しかし、近年ではガイドラインの策定などによって致命率は7〜8%、後遺症は約15%と改善しつつあります。
インフルエンザ脳症の前兆は?
インフルエンザ脳症の前兆は、インフルエンザ発症後のけいれん・意識障害・異常行動です。
特に意識障害は伴いやすく、これらの神経症状の進行は急速であるため、症状の悪化が早い場合はインフルエンザ脳症の疑いが強いです。

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    1:インフルエンザ脳症の診療戦略ガイドライン日本小児神経学会:https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/influenzaencephalopathy2018.pdf
    2:<速報>インフルエンザ脳症による成人の死亡例.国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/5585-pr4231.html
    3:Q57:インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?日本小児神経学会:https://www.childneuro.jp/general/6524/
    4:Shihoko Kimura-Ohba et al.Viral entry and translation in brain endothelia provoke influenza-associated encephalopathy.Acta Neuropathol. 2024 Apr 30;147(1):77. doi: 10.1007/s00401-024-02723-z:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38687393/
    5:インフルエンザ脳症の新しい治療法について.国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト:https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/8947-472r06.html

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    PROFILEこの記事の監修
    貴宝院 永稔
    貴宝院 永稔 医師
    (大阪医科薬科大学卒業)
    • 脳梗塞・脊髄損傷クリニック 総院長
    • 日本リハビリテーション医学会認定専門医
    • 日本リハビリテーション医学会認定指導医
    • 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
    • ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

    私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
    リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
    このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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