この記事を読んでわかること
・脂肪由来幹細胞治療とはどのようなものか
・骨髄由来幹細胞治療とはどのようなものか
・脂肪由来幹細胞の特性と治療効果が得られやすい場合は何か
骨髄由来幹細胞治療と脂肪由来幹細胞治療は、ともに再生医療において重要なものです。
骨髄由来幹細胞は、特に神経障害の治療において優れた効果を示しています。
脂肪由来幹細胞も多様な治療に応用されていますが、骨髄由来の幹細胞が一部の分野で優位性を保っています。
今回の記事では、これらの治療についてそれぞれ詳しく解説していきます。
骨髄由来の幹細胞はなぜ脂肪由来の追随を許さないのか
再生医療の分野では、骨髄由来幹細胞治療と脂肪由来幹細胞治療は、それぞれ独自の特徴と治療可能性を持っています。
骨髄由来の幹細胞治療が長い歴史を持ち、広範な臨床応用が行われている一方で、脂肪由来の幹細胞治療もその多様な治療可能性により注目されています。
その点を踏まえ、骨髄由来の幹細胞治療が脂肪由来の追随を許さない理由をこれから説明していきます。
主に、以下の点となります。
- ◆液性因子の放出
- ヒト骨髄間葉系幹細胞からは、脂肪由来間葉系幹細胞と比較して、BDNF(脳由来神経栄養因子)、NTF(神経成長因子)などの液性因子がたくさん放出されます。
それら液性因子は、神経回路の伝導性を改善したり、幹細胞の分化誘導を促進したりするなどの効果があります。
また、それらの液性因子の投与タイミングに合わせ、狙った神経回路を同時に刺激することで、その神経回路の伝導性を改善し軸索伸長を促したり、神経回路を再構築することが期待できます。こうして脳の可塑性を高めることが神経再生医療において大きな役割を果たします。 - ◆特定の治療分野での優位性
- 骨髄由来幹細胞は、特に神経障害の治療において優れた効果を示します。
骨髄由来幹細胞は神経細胞への分化能が高く、損傷した神経組織の修復や再生を促進することができます。
また、炎症を抑制し、免疫系を調節する能力も持っているため、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患の治療にも有効です。 - ◆臨床試験と実績
- 骨髄由来幹細胞は、これまで長い間研究されてきました。そして、多くの臨床試験でその効果が確認されています。
これに対して、脂肪由来幹細胞の研究は比較的新しく、同じレベルの臨床データや実績がまだ存在しない場合があります。 - ◆治療の適応範囲
- 骨髄由来幹細胞は、血液疾患や免疫系の疾患など、より広範囲の疾患に対して効果を示す可能性があります。
これは、骨髄由来幹細胞が血液細胞の生成に関与する幹細胞を含んでいるためです。 - ◆安全性と有効性のバランス
- 骨髄由来幹細胞は、長期にわたる研究と臨床試験を通じて、その安全性と有効性が確立されています。
脂肪由来幹細胞も有望な治療法ですが、一部の状況では骨髄由来幹細胞の方が適切な選択となる場合があります。
これらの理由により、骨髄由来の幹細胞治療は特定の分野において脂肪由来の追随を許さないと考えられます。
ただし、脂肪由来幹細胞もその独自の特性と利点を持っており、多くの治療分野で有効な選択肢となり得ます。
脂肪由来幹細胞治療の多様な治療可能性
脂肪由来間葉系幹細胞(ADSCs)は、脂肪組織から容易に採取でき、大量に得られることが大きな利点です。
これらの幹細胞は、細胞増殖力が高く、多様な細胞タイプへの分化能力を持っています。
そのため、軟部組織の再生、創傷治療、美容医療など、幅広い分野での応用が期待されています。
例えば、毛髪再生治療においては、脂肪由来の幹細胞が毛包幹細胞を活性化させ、休眠状態からヘアサイクルの成長期へと促します。
脂肪由来幹細胞の特性と治療効果が得られやすいケース
脂肪由来幹細胞は細胞分化能が広く、様々な組織への分化が可能です。
これにより、脂肪由来幹細胞は皮膚の再生、軟骨の再生、神経組織の修復など、多岐にわたる治療に応用されています。
また、これらの細胞は増殖力も高いため、短期間で治療に必要な細胞数を培養することが可能です。
脂肪由来幹細胞は、体への負担が少なく、採取が容易であるため、患者さんにとっては魅力的な選択肢となります。
また、これらの幹細胞は免疫調節作用を持つことが知られており、炎症を抑制し、組織の修復を促進する効果が期待されています。
そのため、関節炎や軟部組織損傷など、炎症が関与する疾患の治療に効果が得られやすいと考えられています。
神経障害治療に適切とされる骨髄由来幹細胞の優位性
一方、骨髄由来幹細胞(BMSCs)は、神経障害治療において特に有効とされています。
これらの幹細胞は、神経細胞への分化能力が高く、神経保護作用や神経再生促進作用を持つことが示されています。
そのため、脳卒中、脊髄損傷、パーキンソン病などの神経系疾患の治療において、骨髄由来幹細胞は重要な役割を果たしています。
さらに、骨髄由来幹細胞は炎症を抑制し、免疫系を調節する能力も持っているため、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患の治療にも有効です。
まとめ
脂肪由来幹細胞治療と骨髄由来幹細胞治療は、それぞれ異なる特性と治療可能性を持っています。
脂肪由来幹細胞は、その採取の容易さと多様な治療応用により、再生医療の分野で注目されています。
一方、骨髄由来幹細胞は、特に神経障害治療においてその優位性を示しています。
これらの幹細胞治療の適切な選択と組み合わせにより、様々な疾患の治療において大きな可能性が開かれています。
そして、当院では『神経障害は治るのを当たり前にする取り組み』を、ニューロテック®と定義しました。
そして、脳卒中や脊髄損傷、神経障害の患者さんに対する『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』を、リニューロ®と定義しました。
リニューロ®は、同時刺激×神経再生医療、骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリにて『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』です。
今回の記事でご説明したように、骨髄由来間葉系幹細胞は、他由来間葉系幹細胞より神経系幹細胞や血管系幹細胞に分化することが多く報告されています。
そして、最も研究された歴史が長い間葉系幹細胞です。
当院では、それらの幹細胞を特殊な培養方法により機能強化した幹細胞を治療に使用しています。
再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
- 臍帯由来と脂肪由来の培養上清液の違いは何ですか?
- 臍帯由来と脂肪由来の上清液は、含まれる成長因子やサイトカインの種類や量に違いがあります。例えば、臍帯由来の上清液は、神経成長因子や血管新生因子などの成長因子が豊富に含まれていることが知られています。一方、脂肪由来の上清液は、炎症反応を抑制するサイトカインや組織修復を促進する成分が豊富です。
- 脂肪由来幹細胞療法とは何ですか?
- 脂肪由来幹細胞療法は、脂肪組織から分離した脂肪由来幹細胞を使用した再生医療の一形態です。脂肪由来幹細胞は、自己脂肪組織から容易に大量に採取でき、分化能力が高く、自己脂肪組織から容易に大量に採取でき、分化能力が高く、免疫調節作用も持つことから、様々な疾患や損傷の治療に応用されています。
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