この記事を読んでわかること
・進行性核上性麻痺とは
・パーキンソン病と進行性核上性麻痺の違い
・進行性核上性麻痺の早期診断と予防の可能性
進行性核上性麻痺(PSP)とは、大脳基底核・脳幹・小脳などに進行性の変性が生じ、神経細胞が萎縮していく病気です。
急速な経過を辿り、現状では症状の進行を止める治療法もありませんが、近年では進行性核上性麻痺に対する再生医療が新たな治療法として注目を増しています。
そこでこの記事では、進行性核上性麻痺と再生医療について解説します。
進行性核上性麻痺とは?進行性核上性麻痺の病態メカニズム
進行性核上性麻痺(PSP)とは、タウ蛋白というタンパク質が大脳基底核(黒質、淡蒼球、視床下核など)や中脳、小脳歯状核などの神経細胞内に異常蓄積する病気です。
中枢神経系の変性疾患であり、脳の特定の部位が萎縮することによって運動や認知機能に障害が生じます。
人口10万人あたり約10〜20人が発症すると報告されている稀な疾患で、発症以降急速な経過を辿る点で特徴的です。
なぜタウ蛋白が神経細胞内に蓄積してしまうのか、その原因については現在に至るまで解明されていません。
タウ蛋白が異常蓄積することで神経細胞は障害され、その部位に応じてさまざまな神経症状をきたします。
- 大脳基底核:スムーズな運動を行えるようにコントロールしている部位
- 中脳:眼球の運動を調節している部位
- 小脳歯状核:スムーズな運動を行えるようにコントロールしている部位
これらの部位が障害されることで、眼球運動障害・嚥下障害や構音障害・歩行障害・動作緩慢・認知機能障害など多彩な症状が出現します。
特に眼球運動障害は代表的な症状であり、中脳に位置する動眼神経や外転神経の中枢(これを核上と表現します)が変性して障害されることで生じます。
進行性核上性麻痺に伴う眼球運動障害では、眼球の垂直方向の運動が障害され、意識的に下を向くことが困難となります。
眼球運動障害は症状が進行した2〜3年で発見されることが多く、初期にはなかなか出現しません。
しかし、進行すると垂直方向だけでなく意識的な眼球運動が全て困難となり、最終的には正中位で固定されてしまいます。
また、一般的な初期症状として歩行障害や姿勢異常があり、転倒しやすくなることが特徴です。
時間の経過とともに、認知障害や嚥下困難、構音障害が現れることもあります。
治療法は確立していませんが、リハビリテーションや再生医療の研究が進められており、症状の進行を抑えるための対策が期待されています。
パーキンソン病と進行性核上性麻痺(PSP)の症状の違い
パーキンソン病と進行性核上性麻痺の違いは、結論から言えば症状の進行する速度です。
パーキンソン病も、進行性核上性麻痺と同様に大脳基底核の黒質という部位の脳細胞が変性してしまう病気です。
黒質の変性に伴い、脳内での情報伝達に重要なドパミンと呼ばれる神経伝達物質が枯渇し、スムーズな運動が失われる病気です。
主に、歩行障害・動作緩慢・姿勢反射障害・筋固縮などの症状が出現し、その点では進行性核上性麻痺と症状が似てます。
しかし、進行性核上性麻痺は発症してから寝たきりになるまでの期間は約4〜5年、平均余命は発症から約5〜9年と報告されており、発症後の症状の進行速度はパーキンソン病とは全く異なります。
また、パーキンソン病の治療に用いられるドパミン作動薬などは、パーキンソン病には一定の効果を発揮しますが、進行性核上性麻痺に対しては非常に限定的な効果しかないと言われています。
以上のことからも、進行性核上性麻痺がいかに厄介な病気かが分かります。
進行性核上性麻痺の早期診断と予防の可能性
進行性核上性麻痺を発症すると、初期症状として転倒しやすくなります。
転倒して頭部外傷を負えばさらに脳に負担もかかるため、中年以降に急に転倒が続くような場合は専門の医療機関を受診しましょう。
また初期症状の1つに、前述した垂直方向の眼球運動障害も挙げられます。
これらの症状を認めた場合、現状では鑑別のために頭部MRI検査や心筋シンチグラフィーなどの検査を行います。
頭部MRI検査では中脳被蓋という部分が萎縮してハチドリのくちばしの形に見えるハミングバード徴候や、第三脳室が拡大するという特徴があります。
これらの専門的な検査を必要とするため、早期診断のためには早期受診が必要となります。
また、原因が解明されていないため、発症を未然に防ぐ予防策はないと言えます。
現状、根治する術もないため、発症してからいかに早期発見し、症状と向き合っていくかが重要な疾患です。
とは言え、世界中の多くの研究機関で進行性核上性麻痺の病態解明と、新たなる治療法の模索が進んでおり、その1つが再生医療です。
再生医療では、投与した幹細胞が損傷した神経細胞に分化し、元の機能を再生するように機能修復を促す治療法です。
実際に、類似疾患であるパーキンソン病に対して再生医療の効果を認める知見は存在しており、今後更なる研究が進めば、進行性核上性麻痺に対する再生医療の効果もより明らかとなるでしょう。
進行性核上性麻痺に対する再生医療の可能性のまとめ
今回の記事では、進行性核上性麻痺の病態や再生医療との関連について解説しました。
アルツハイマー型認知症・パーキンソン病・進行性核上性麻痺などの神経変性疾患は、これまで多くの研究が行われてきましたが、その原因となる神経細胞の変性を止める方法は見つかっていません。
特に、進行性核上性麻痺は他の疾患よりも急速に症状が進行することが知られているため、早期発見・早期介入が重要です。
発症者の多くは、発症から10年以内には誤嚥に伴う肺炎で命を落とすため、延命のためには早期からのリハビリが大切です。
また、近年では再生医療の発達も目覚ましく、変性した神経細胞が再生すれば失われた機能が回復・維持される効果が期待されます。
早期から再生医療を取り入れることで、症状の進行を遅らせることができれば、今以上に発症者の健康的な生活を守ることもできる可能性があり、今後更なる知見が待たれるところです。
よくあるご質問
進行性核上性麻痺の初期症状は?
進行性核上性麻痺の初期症状として、繰り返す転倒が挙げられます。
半数以上の方は発症して1年以内に繰り返す転倒を経験します。
転倒によって頭部を損傷するとさらに病状が悪化する可能性もあるため、注意が必要です。
進行性核上性麻痺の治療薬は?
進行性核上性麻痺の治療薬は、パーキンソン病治療薬や抗うつ剤が挙げられます。
しかし、パーキンソン病と比較するとこれらの治療薬の効果は限定的または一時的であり、長期的に症状を緩和するためにはリハビリが重要です。
<参照元>
・難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/4114
・兵庫医科大学病院:https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/114
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