この記事を読んでわかること
・脳室内穿破とは
・脳室内穿破後の長期的な影響
・脳室内穿破と急性水頭症の関係
脳室内穿破(のうしつないせんぱ)とは、脳を栄養する血管が破綻して形成された血腫が増大し、近接する脳室内へ穿破した状態です。
脳室内穿破は通常の脳出血よりも重症化しやすく、急速な意識障害を引き起こす水頭症などのさまざまな合併症の原因となります。
そこでこの記事では、脳室内穿破の長期的な影響や水頭症との関連・後遺症などについて解説します。
脳室内穿破後の長期的な影響
皆さんは「脳室内穿破」という病気をご存知でしょうか?
脳内部を走行する血管が破綻し出血を引き起こすと、脳実質内に血腫が形成されます。
脳は頭蓋骨という一定容積の硬い器の中に存在しているため、微小な出血であれば内圧が上昇するとともに出血は収まります。
しかし、勢いよく出血した場合は血腫が増大し、近接する脳室内にまで血腫が穿破してしまい、これを脳室内穿破と呼びます。
脳室とは、その名の通り脳内部に存在する部屋のようなスペースであり、脳周囲を囲む脳脊髄液を産生している部位です。
脳室は部位別に3つに分類されます。
- 側脳室:左右一対のスペースで、内部で脳脊髄液が産生される。
- 第三脳室:側脳室で産生された脳脊髄液がモンロー孔を通じて第三脳室に流れ込む
- 第四脳室:中脳水道を経由して脳脊髄液が第三脳室から第四脳室に流れ込む
側脳室で産生された脳脊髄液は、モンロー孔→第三脳室→中脳水道→第四脳室と流れ、最終的にクモ膜下腔を流れて脳や脊髄の外部を保護しています。
どの脳室も脳内部に位置しているため、脳室内穿破をきたすような脳出血は血腫も大きく、脳深部で出血を引き起こしている可能性が高いです。
実際に、脳室内穿破をきたしやすい脳出血として視床出血・被殻出血・小脳出血などが挙げられます。
このように、脳の中でも重要な機能を担う部位に派手な出血を引き起こすことで生じるため、脳室内穿破をきたす脳出血では意識障害を起こしやすいです。
更に、急速な出血に伴う頭蓋内圧の上昇で脳実質は圧迫され、破壊されるため、出血にコントロールがついても重い後遺症が残る可能性も少なくありません。
具体的には、意識障害・高次脳機能障害・麻痺などの運動障害・しびれなどの感覚障害などが挙げられます。
脳室内穿破をきたしたからといって必ずしも重篤なわけではなく、そもそもの原因となる脳出血がどれほど脳細胞を破壊しているかが重要です。
また、神経学的予後は患者の年齢や病歴などによっても変化し、若年者よりも高齢者で予後が悪いことが知られています。
脳室内穿破によって急性水頭症を併発している場合は予後が悪化するため、早急に対処する必要があります。
脳室内穿破と急性水頭症の関係
多量の血液が脳室内に穿破した場合、血液内に含まれる凝固因子によって血液が脳室内で凝固してしまいます。
前述したように、脳室内では脳脊髄液が流れているため、凝固した血液が邪魔となって脳室内に脳脊髄液が充満してしまいます。
結果的に脳室が脳脊髄液によって拡大し、周辺の脳組織を圧迫する状態を急性水頭症と呼びます。
急性水頭症に陥ると比較的急速に意識障害が進行し、場合によっては数時間で生命に関わる事態に発展する可能性もあるため、注意が必要です。
脳室内穿破や水頭症の診断には頭部CT検査が非常に有用であり、その結果によって治療方針も変わります。
例えば、脳の比較的表面の出血であれば基本的に手術適応となりますが、脳深部の脳幹や視床での出血の場合は出血部位があまりに脳深部であるため、手術操作そのもので脳を損傷する可能性も高く、手術適応となりません。
しかし、急性水頭症を併発している場合は、拡大した脳室によって周辺の脳細胞が損傷を受けることを防ぐために、手術で脳室内にドレーンを留置する脳室ドレナージ術が行われます。
脳室内の圧が解除されれば脳細胞への圧迫が軽減するため効果的ですが、落ち着くまではドレーンが留置されたままのため、脳内部と外部が交通した状態が続きます。
そのため、髄膜炎などの感染症に罹患する可能性もあり、管理には注意が必要です。
脳室内穿破による後遺症とリハビリテーション
脳室内穿破に陥ると意識障害が強く出現し、術後の離床や歩行が遅れる傾向にあります。
また血腫量が多いほど予後も悪く、重症化しやすいことが知られています。
脳室内穿破による主な後遺症としては、意識障害・高次脳機能障害・麻痺などの運動障害・しびれなどの感覚障害・排泄障害・嚥下障害などが挙げられます。
特に、嚥下障害は誤嚥性肺炎の、排泄障害は尿路感染症の原因となり、生命予後を左右するため注意が必要となる後遺症です。
後遺症に対しては、歩行訓練や機能訓練、日常動作の自立、嚥下訓練などの理学療法が実施されます。
また、注意障害や遂行機能障害、半側空間無視、失行、失認などの高次脳機能障害が後遺症となることもあり、行動療法などのリハビリが必要となります。
まとめ
今回の記事では、脳室内穿破の機序や治療について解説しました。
脳出血の出血量が多いと、特に視床や被殻・小脳などの脳深部では脳室内穿破を起こしやすく、脳細胞が圧迫されるリスクが高いです。
脳室内に血腫が流入すると脳室内で凝固し、脳脊髄液の流れが滞ることで脳室が拡大し、周辺の脳細胞を圧迫します。
脳出血そのものによる脳細胞の障害はもちろんのこと、急性水頭症でも脳細胞が圧迫されるため、意識障害に陥りやすくなります。
現状、強く障害を受けた脳細胞を回復する術はなく、急性期には手術を、麻痺やしびれ、高次脳機能障害などの重い後遺症に対しては理学療法が行われているのが現状です。
しかし、近年では再生医療の発達が目覚ましく、破壊された脳細胞が再生する可能性もあります。
予後の悪い脳室内穿破によって破壊された脳細胞が回復すれば、さまざまな神経障害や後遺症が改善する可能性もあります。
現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脳室穿破で発熱するのはなぜ?
脳内部の視床下部と呼ばれる部位には体温を調節する体温中枢があるため、脳室穿破を引き起こすような多量の出血や浮腫で視床下部が障害されると、発熱をきたすことがあります。
脳室内出血の死亡率は?
脳室内は非常に予後不良であり、死亡率は50%以上と報告されています。
さらに、運よく生き残ったとしても機能転機が良好な方はわずか20%足らずと、非常に予後不良な疾患です。
<参照元>
・高血圧性脳出血ー脳室穿破例の検討ー:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/4/2/4_2_85/_pdf
・脳室穿破を伴った左視床出血の長期経過:https://crs.smoosy.atlas.jp/files/1471
・Care Net:https://www.carenet.com/news/journal/carenet/43302#:~:text=脳室内出血は、死亡,が示唆されていた%E3%80%82
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