この記事を読んでわかること
・脊髄損傷の症状は損傷の部位によって異なること
・脊髄損傷に対する再生医療の治験について
・脊髄損傷に与える幹細胞治療の効果について
脊髄損傷の後遺症は、損傷を受けた脊髄のレベルによって異なります。
症状に合わせたリハビリテーションが行われますが、根本的な脊髄神経の回復は難しいとされています。
再生医療による幹細胞治療を行うことで、脊髄損傷後の麻痺などの症状を改善する効果が期待できます。
この記事では、再生医療による幹細胞治療と脊髄損傷について述べていきます。
脊髄損傷後遺症の種類とその影響について
脊髄損傷は、ほとんどは自動車事故、転倒や転落、暴行、スポーツ外傷が原因で起こります。
高齢者で最も多い原因は転倒となっており、高齢者には元々骨粗鬆症や頸椎症などの変形性関節疾患もみられるため、重症な脊椎損傷のリスクも高くなります。
脊髄は上から順に頸髄・胸髄・腰髄・仙髄に区分され、損傷するレベルによって出現する症状は異なります。
頸髄損傷の後遺症
頸髄損傷の場合は、四肢の麻痺が生じます。
頸髄損傷のわずかなレベルの違いによって、麻痺の症状に大きな影響が生じます。
特に、高位(頸髄の中でも、より高い位置のこと)で損傷すると手指だけでなく呼吸筋まで麻痺するので、時には人工呼吸器が必要になります。
胸・腰髄損傷の後遺症
胸・腰髄損傷の場合は、第6胸髄までの場合(高位胸損)は腹筋も背筋も効かないので体幹の保持が困難となります。
第7胸髄から下、第2腰髄までの損傷(低位胸・腰損)と大きな差があります。
また、自律神経経過反射が大きく現れ、胸郭つまり胸の動きなどへの影響も現れます。
仙髄損傷の後遺症
仙髄損傷の場合、より下の方の損傷では膀胱や腸の制御機能が消失します。
いずれの場合においても、損傷位置が同じでもともと身体のさまざま機能には個人差があるので、症状やマヒや障害の状態がそれぞれに異なって現われます。
また、脊髄神経を傷つけた程度によって完全損傷(完全麻痺)と不完全損傷(不全麻痺)に分かれます。
幹細胞治療による脊髄損傷後遺症はどこまで良くなるのか
脊髄損傷の後遺症に対して行われるリハビリテーションや、幹細胞治療が脊髄損傷の後遺症に与える効果について解説します。
脊髄損傷後のリハビリテーション技術
脊髄損傷後のリハビリテーションプログラムは、運動機能の改善や感覚機能の改善、また排泄機能回復など、目的に応じて組み立てられます。
運動麻痺に対しては、残された運動機能を徹底的に鍛えるということや、柔軟性を高めていくということが目標となります。
感覚障害や痛みに対しては、痛み止めのお薬を使いながらリハビリを行っていきます。
排尿機能回復のためには、お腹を手で抑える腹壁徒手圧迫法や、反射誘発の手段などの膀胱訓練を行います。
また、無菌的間欠導尿による自己導尿法を指導します。
薬物療法が併用されることもあります。
幹細胞と脊髄損傷再生医療
脊髄を構成する神経細胞は一度損傷すると自己修復は困難であり、失われた機能は基本的に再生しません。
現状はリハビリテーションでの機能維持が治療の中心です。
しかし、近年では再生医療の発達も目覚ましく、損傷した神経細胞の再生によって機能回復が期待されます。
例えば、2013年に札幌医科大学医学部が行った、頸髄損傷症例の方たちに対する骨髄間葉系幹細胞を用いた医師主導治験では、13例の患者さんに幹細胞を投与した結果、90%以上の方に四肢の動きの改善を確認することができたということです。
自家骨髄間葉系幹細胞は患者さんの腸骨から採取した骨髄液を培養し、用いて、神経栄養因子を介した神経保護作用や、抗炎症作用、血管新生作用や神経再生作用が期待できるのです。
幹細胞が脊髄損傷後遺症にもたらす影響と将来的な希望
幹細胞治療は脊髄損傷の後遺症に対しても、根本的な治療法となり得るものです。
先ほどの札幌医科大学の例では、結果を踏まえて、2018年に厚生労働省より本治療が「ステミラック」という商品名の下、保険収載下で行われる一般の診療として製造販売を承認され、市販される運びとなりました。
現在は更に大規模に患者さんに細胞投与を行い、その効果を調査しています。
治療開始から2021年8月までに全国から紹介された60例以上の患者さんの転院を受け入れ、再生医療を行い、良好な成績を得ているとのことです。
その他の医療機関でも、今後ますます幹細胞治療が脊髄損傷後遺症に悩む患者さんにとって役立つ治療法となっていくことが期待されます。
まとめ
今回の記事では、脊髄損傷がどのようなものか、再生医療による幹細胞治療が脊髄損傷の後遺症に与える効果についてなど解説しました。
当院では、再生医療に独自のリハビリテーションを合わせた治療法を行っており、「ニューロテック®」として脳卒中や脊髄損傷、神経障害などに対する治療に取り組んでいます。
ご興味のある方は、ぜひ一度お問い合わせください。
<参照元>
J-Stage 脊髄損傷者に対するリハビリテーション:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/30/1/30_58/_pdf
J-Stage 脊髄・脊椎損傷の急性期治療:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/25/1/25_50/_pdf
よくあるご質問
脊髄損傷のリハビリはいつから?
脊髄損傷のリハビリテーションは、発症直後から可能な範囲で行っていきます。発症直後の急性期では、リハビリテーション治療として頻繁な体位変換や呼吸の訓練、関節が固まらないように関節可動域訓練などを行います。全身状態が安定すればより積極的なリハビリテーション治療に移っていくことになります。
脊髄損傷の慢性期の症状は?
受傷後3〜4ヶ月を過ぎればほぼ慢性期になります。すると、動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、けいれん(痙攣)を起こすことがあります(痙性)。 麻痺の程度によっては、手ではハシを使うことや字を書くことが困難、あるいはできなくなり、特殊な道具が必要となります。
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