この記事を読んでわかること
- 再生医療の基本的なメカニズムが理解できる
- 脳梗塞に対する再生医療の効果がわかる
- 再生医療の今後の展望がわかる
多くの患者やその家族を困らせてきた脳梗塞をはじめとする神経疾患。
これまでその後遺症を治す術はなく、リハビリで機能を維持・改善するのが基本的な治療でした。
しかし、近年再生医療の進歩は目覚ましく、新たな治療法として期待が高まっています。
この記事では、これからの神経再生医療の進歩と希望について解説します。
脳梗塞患者が享受できる幹細胞治療の効果とは
脳梗塞によって脳細胞が虚血・壊死に陥ると、基本的に脳細胞は自己複製能が乏しいため、再生が見込めません。
そのため、一度損傷した脳細胞は再生することなく、脳梗塞後の後遺症として麻痺やしびれが残ってしまいます。
脳梗塞後の後遺症に対してはリハビリテーションを中心とした理学療法がメインであり、反復運動を行うことで神経系の再構築を促し、機能の維持・改善を目指しますが、その効果には限界があります。
しかし、最近では新たな治療法として幹細胞治療が登場し、今非常に注目を浴びている治療です。
一般的に、幹細胞治療では下記2つの能力を有する幹細胞を体内に投与することで、損傷した臓器や組織の再生を目指します。
- 分化能
- 自己複製能
分化能とは、血管や神経、臓器や筋肉など、さまざまな細胞に枝分かれして進化する能力のことであり、より分化能が高い細胞の方が、損傷した臓器を補う細胞に姿形を変えられるため、再生医療には有用です。
次に、自己複製能とは自分自身と全く同じ細胞をコピーして生み出す能力のことです。
仮に分化できても、自己複製できなければ組織を再生することはできないため、再生医療に使う幹細胞には分化能と自己複製能はどちらも必要不可欠と言えます。
理論上は、体内に投与された幹細胞が脳梗塞によって損傷した神経細胞へと分化し、その後自己複製によって大量に神経細胞が発生して、障害された機能や形態を代償するわけです。
しかし、実際には幹細胞治療で完全に破壊された神経細胞が再生するわけではありません。
現状認められている、幹細胞治療による脳への主な効果は下記の通りです。
- 血管内皮増殖因子による血管新生や炎症抑制、またそれに伴う行動機能回復
- 樹状突起構築や軸索伸長
- 脳血液関門の修復
- 反対側の脳の活性化
- 神経細胞そのものの再生
神経細胞そのものが再生すればそれに越したことはありませんが、実際には後遺症が綺麗さっぱり改善するほど神経細胞が再生する効果は得られず、むしろ幹細胞から分泌される血管内皮増殖因子による副次的な効果が大きいです。
血管内皮増殖因子によって損傷した神経細胞周囲の血管新生や炎症抑制が起こり、神経ネットワークの再構築が促進されます。
また、血液中の菌や異物が容易に脳に侵入しないための脳血液関門も脳梗塞によって破壊されますが、幹細胞によって修復が期待できます。
現在、北海道大学や広島大学などで脳梗塞に対する再生医療の治験が進んでおり、今後さらなる知見や臨床への普及が期待されます。
骨髄由来幹細胞が持つ治療効果とは
では、脳梗塞患者に投与する幹細胞はどこから採取するのでしょうか?
現状、脳梗塞患者に投与する幹細胞は主に下記の2つです。
- 骨髄由来幹細胞:自身の腸骨などから採取する
- 脂肪由来幹細胞:自身の脂肪組織から採取する
脳梗塞などの中枢神経系疾患の治療においては、脂肪由来幹細胞よりも骨髄由来幹細胞による治療の方が有利と言われています。
主な理由は下記の通りです。
- 血管内皮増殖因子などの放出量が脂肪由来幹細胞よりも多い
- 抗炎症作用が高い
- 神経細胞への分化能が高い
- 歴史的にもデータが豊富
特に、骨髄由来幹細胞では神経細胞への分化能が高い点で脂肪由来幹細胞よりも中枢神経系疾患の治療には有用です。
また脳梗塞や脳出血では発症とともに炎症・浮腫が生じるため、抗炎症作用が高い点でも有利に働きます。
2007年に実施された、脳梗塞患者に対する骨髄由来幹細胞を用いた再生医療では、神経運動機能の回復スピードが統計学的に有意に加速することが判明しています。
ただし、脂肪細胞から採取するのと比較して、自身の腸骨などから採取する骨髄由来幹細胞は、採取の侵襲が大きいため、特に脳梗塞を発症するリスクの高い高齢者には負担が大きい点は理解しておくべきでしょう。
再生医療の将来展望と患者への影響
日本を含め、世界中で再生医療に対する研究が日々進んでいます。
こと日本においては、人工的に作られた幹細胞、いわゆるiPS細胞を樹立した山中教授を始めとする、優秀な科学者が日々研究に勤しんでいます。
一方で、これからさらに世界を牽引するためには、いかに産業化できるかが課題です。
多くの人にとって当たり前の治療に進化させるためには、採取した幹細胞は大量に培養する必要があり、製造体制や技術の普及が現場レベルでまだまだ不十分です。
また、保険診療で受けることのできる対象疾患も少なく、多くの難治性疾患に困っている患者を救うには至っていません。
適応拡大は多くの患者を救えるようになる一方で、その医療費は財政を圧迫するため、脳梗塞のように患者数の多い疾患への適応は容易ではありません。
とはいえ、多くの患者が後遺症に苦しむ病気であるため、その普及が待たれるばかりです。
まとめ
今回の記事では、これからの神経再生医療の進歩と希望について詳しく解説しました。
中枢神経系疾患では、一度障害されると再生しにくい脳や脊髄の神経細胞が障害されるため、なんらかの後遺症を残す可能性が高いです。
現状ではリハビリテーションによって機能の維持を目指す治療が主であり、失われた機能を元に戻すような治療は未だに確立されていません。
一方で、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
ニューロテックメディカルでは、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、今まで難治であった多くの神経疾患の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 再生医療業界は今後どうなりますか?
- 再生医療業界は世界的に見ても多くの資金がその市場に流入しており、今後のさらなる発展が期待されます。
また、医学的に見てもこれまで改善の困難であった難治性疾患に対する新たな治療として注目度は増しています。 - 再生医療は先進医療になりますか?
- 先進医療とは、大学病院や研究機関などで研究・開発された、公的医療保険を適用するか検討中の最先端の医療技術です。
変形性膝関節症に対する自己軟骨細胞シートによる軟骨の再生医療はすでに厚生労働省によって先進医療に含まれています。
<参照元>
・長崎大学脳神経外科:https://www.nagasaki-nouge.jp/katsudou/katsudou11.html
・生理学研究所:https://www.nips.ac.jp/release/2018/12/post_381.html
・日本医師会:https://www.med.or.jp/dl-med/nichiionline/gakusui_r0405.pdf
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