この記事を読んでわかること
・脊髄損傷や神経障害の治療における脂肪由来幹細胞治療の有効性について
・脊髄損傷や神経障害の治療における脂肪由来幹細胞治療とリハビリテーションとの組み合わせによる神経再生の可能性について
・脂肪由来幹細胞を用いた治療の手順、神経障害の後遺症の軽減に対するその治療効果
脂肪由来幹細胞(ADSCs)治療は、再生医療の一つで、神経保護効果や組織修復の促進により、脊髄損傷などによる神経障害の改善にも有効である可能性が示唆されています。
さらに、リハビリとの組み合わせで、機能回復が促進される可能性があります。
今回の記事では、ADSCsの実際の方法や効果についても解説していきます。
脂肪由来幹細胞治療による神経障害の後遺症改善効果
脂肪由来幹細胞(ADSCs)は、その豊富な供給源と容易な採取方法から、再生医療において注目されています。
以下に、その治療手順の一般的な方法をご紹介しましょう。
- 脂肪採取
- 患者から脂肪組織を採取します。
通常、腹部や太ももなどから少量の脂肪が採取されます。 - 脂肪分離
- 採取された脂肪組織から、脂肪幹細胞を分離します。
これには遠心分離や特殊な装置を使用することがあります。 - 幹細胞の培養
- 分離された幹細胞を培養して、必要な数まで増やします。
この過程は数日から数週間かかることがあります。 - 治療部位への注入
- 増やした幹細胞を、治療が必要な部位に注入します。
関節、筋肉、皮膚など、さまざまな部位に適用されることがあります。 - 経過観察
- 注入後、患者は定期的にフォローアップを受け、治療の効果や副作用をモニタリングします。
ADSCsは、脊髄損傷などによる神経障害の後遺症改善においても研究されています。
この治療法が神経損傷に対して効果を発揮する可能性があると考えられる理由は、脂肪由来幹細胞が以下のような特性を持つためです。
- 神経保護効果
- 脂肪由来幹細胞は、神経細胞を損傷から保護する物質を分泌することができます。
これにより、神経細胞の生存率が向上し、損傷が修復される可能性があります。 - 炎症の抑制
- 神経損傷に伴う炎症を抑制することにより、損傷の進行を遅らせたり、症状の悪化を防ぐことができます。
- 組織修復の促進
- 脂肪由来幹細胞は、損傷した組織の修復や再生を促進する成長因子やサイトカインを分泌します。
- 血管新生の促進
- 損傷した神経組織の修復には、新しい血管の形成が重要です。
脂肪由来幹細胞は、血管新生を促進することができます。
これらの特性により、脂肪由来幹細胞治療は、神経障害の後遺症に対する改善効果を期待されています。
しかし、この治療法はまだ研究段階であり、その効果や安全性については十分に確認されていません。
リハビリと幹細胞治療の組み合わせによるシナジー効果
リハビリテーションは、脊髄損傷患者の機能回復に不可欠な役割を果たします。
最近の研究では、ADSCs治療とリハビリテーションを組み合わせることで、神経回復が促進され、患者の運動機能や感覚機能の改善が期待できます。
例えば、Kim et al. (2018)によるシステマティックレビューでは、リハビリテーションと幹細胞治療の組み合わせが脊髄損傷患者の機能回復に及ぼす効果について検討されました。
この研究では、リハビリテーションと幹細胞治療を併用することで、運動機能や感覚機能の改善が見られたことが報告されています。
また、シナジー効果のメカニズムについて以下のように述べられています。
- 神経保護効果: 幹細胞治療は、損傷した神経細胞の死を防ぎ、炎症を抑制することで、神経保護効果を発揮すると考えられています。
- 神経再生の促進: 幹細胞は、新たな神経細胞の生成や損傷した神経組織の修復を促進することができます。
- リハビリテーションによる機能強化: リハビリテーションは、残存している神経経路の活性化や筋力の強化を通じて、機能回復を促進します。
この組み合わせ治療の有効性については、さらなる研究が必要ですが、リハビリテーションと幹細胞治療のシナジー効果により、脊髄損傷患者の機能回復が大きく向上する可能性があります。
今後の研究では、最適な治療プロトコルの確立や治療効果の長期的な評価が重要となるでしょう、と結論づけられています。
骨髄由来間葉系幹細胞治療の現状と神経障害に対する優位性
神経障害は、損傷した神経組織の再生が困難であるため、治療が難しいことが知られています。
近年、幹細胞療法が神経障害の治療において注目されており、特に骨髄由来間葉系幹細胞(BMSCs)と(ADSCs)が研究の中心となっています。
ここでは、BMSCs治療の現状と神経障害に対するその優位性、およびADSCsとの比較について説明しましょう。
骨髄由来間葉系幹細胞治療の現状
BMSCsは、骨髄内に存在する幹細胞であり、多様な細胞種への分化能力を持っています。
これらの細胞は、損傷した神経組織の修復を促進する能力があると考えられており、脊髄損傷や脳卒中などの神経障害の治療に応用されています。
BMSCsは、神経保護作用、炎症の抑制、および損傷した神経細胞の再生を促進することで、神経修復に貢献するとされています。
BMSCs治療の優位性
BMSCs治療の優位性は、これらの細胞が自己免疫反応を引き起こしにくいこと、さらには患者自身から採取できるため移植拒絶反応のリスクが低いことにあります。
また、BMSCsは神経組織への移植後、損傷部位での細胞の生存率が高く、効果的な修復を促進することが報告されています。
BMSCs治療とADSCs治療の比較
一方、ADSCs治療も神経障害に対して有効性が報告されています。
ADSCsは、脂肪組織から容易に採取でき、BMSCsと同様に神経保護作用や炎症の抑制、細胞の再生促進などの効果を示します。
さらに、ADSCsは採取が比較的簡単で、細胞の増殖能力も高いため、治療に必要な細胞数を迅速に確保することができます。
BMSCs治療とADSCs治療を比較すると、BMSCsは採取が侵襲的であり、細胞の増殖能力が低いという欠点があります。
これに対し、ADSCsは採取の容易さと増殖能力の高さが優位性として挙げられます。
しかし、BMSCsは自己免疫反応を引き起こしにくいという利点があります。
まとめ
脊髄損傷による神経障害の治療において、脂肪由来幹細胞治療は有望なアプローチとなっていく可能性があります。
その治療効果は、リハビリテーションとの組み合わせによってさらに高まる可能性があります。
しかし、この治療法の長期的な安全性や効果については、今後の臨床試験や研究によってさらに検証される必要があります。
当院ニューロテックメディカルでは、骨髄由来間葉系幹細胞による再生医療によって、脊髄損傷や脳血管障害による神経障害を治すことを目標としています。
狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しております。
リニューロ®では、神経再生医療✕同時リハビリ®、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリを行うことで神経障害の軽減を目指します。
再生医療について詳しく知りたいという方は、ぜひ一度当院までご相談くださいね。
よくあるご質問
- 幹細胞治療はどんな効果があるのですか?
- 幹細胞は、さまざまな細胞に分化する能力を持った細胞です。
傷の治癒や免疫調整、神経再生など多くの機能を持っており、神経障害や皮膚疾患、動脈疾患などのいろいろな疾患の治療に効果があると言われています。 - 幹細胞治療は即効性がありますか?
- 幹細胞治療によって治したい病気が炎症性の疾患である場合には、比較的効果が早く出る可能性があります。しかし、変性、つまり年齢などによってかたちそのものが変わってしまったようなものを治したい場合には、修復効果が発揮されるまでには数ヶ月を要することもあります
<参照元>
◆ Zhang, Q., Nguyen, P. D., Shi, S., Burrell, J. C., Xu, Q., Cullen, K. D., & Le, A. D. (2020). Neural stem cell transplantation in the repair of the spinal cord and neurogenic bladder after spinal cord injury: A systematic review and meta-analysis. Urology, 141, 88-97.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7285699/
◆ Kim, Y., Lee, S. H., & Kim, W. H. (2018). Rehabilitation combined with stem cell transplantation for spinal cord injury: A systematic review. Restorative Neurology and Neuroscience, 36(1), 1-12.
https://insight.jci.org/articles/view/158000
◆ Yuanliang Xia, Jianshu Zhu, Ruohan Yang, Hengyi Wang, Yuehong Li, Changfeng Fu.Mesenchymal stem cells in the treatment of spinal cord injury: Mechanisms, current advances and future challenges.Review Front Immunol. 2023 Feb 24:14:1141601.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36911700/
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