この記事を読んでわかること
脊髄損傷における再生医療の考え方
現在保険適用になっているステミラック注の概要
保険外の自由診療を受ける際のチェックリストとその他の選択肢
脊髄損傷の急性期における治療は手術で骨折した骨を固定することが中心でしたが、近年は再生医療が行えるようになりました。
しかし、適応範囲が狭く、使うことが難しいケースも多くあります。この記事では脊髄損傷の再生医療について、保険適用薬の使用条件や自由診療を受ける際の注意点について解説します。
脊髄損傷における再生医療とは?
脊髄損傷は交通事故や転倒、スポーツでの事故などによって背骨の中を通る神経がダメージを受けることによって発症します。
急性期の治療方法は骨折して不安定な背骨を固定する手術が中心で、一度傷ついた脊髄は治らないということが一般的です。
しかし、近年の再生医療の発展によって損傷してしまった脊髄が修復・再生できるかもしれないことが分かってきました。
傷ついた脊髄のネットワークを再構築する治療の仕組み
脊髄損傷における再生医療は骨髄由来間葉系幹細胞を使用した治療方法が中心です。
骨髄由来間葉系幹細胞とは、骨髄や脂肪に存在し、神経や血管などの様々な組織に変わることができる細胞です。
再生医療では、骨髄から取り出した骨髄由来間葉系幹細胞を体外で培養・増殖させ、再度点滴を使用して体内に戻します。
投与後は脊髄損傷した部位に幹細胞が集まり、神経を保護するとともに神経細胞に変わることで、脊髄の二次的な損傷を防ぎ、脊髄損傷の神経症状を改善する効果があります。
これが再生医療で脊髄のネットワークを再構築する治療の仕組みになります。
知っておきたい治療で期待される効果と限界
現在保険適用されている脊髄損傷の再生医療は発症してからすぐの時期のみです。
発症してから早期に投与することで、脊髄損傷の重症度を5段階で表すASIA Impairment Scale(AIS)が1−2段階改善する可能性があります。
しかし、AISでA(最重症、臀部の運動ができず、肛門周囲の感覚が分からない)から(障害レベル以下は動くが不十分)まで改善しても、一人で歩けるようにならないケースも多くあります。
そのため、現段階の再生医療は重症の脊髄損傷の症状を少し改善する可能性があるくらいに考えることが現実的です。
現在保険適用となっている再生医療

脊髄損傷における再生医療で現在保険適用となっているものがステミラック注です。
発症してすぐの急性期で使用されており、脊髄損傷の新しい治療薬として注目を浴びています。
医療保険で受けられる幹細胞治療ステミラック注とは?
ステミラック注とは、上述した骨髄由来間葉系幹細胞を使用した再生医療用の治療薬です。
脊髄はダメージを受けると出血やむくみの影響を受けて機能が低下します。
その後、炎症反応が進むことで神経細胞のダメージが確実なものとなり、後遺症として運動麻痺などの症状が残ります。
急性期にステミラック注を点滴投与することで、損傷した脊髄に幹細胞が集まり、神経の再生を促します。
さらに、神経の保護や修復を行う神経栄養因子を放出して損傷した組織の修復を行い、治療後すぐに運動機能の回復を促します。
ステミラック注は骨を固定して症状の悪化を防ぐ治療が一般的だった脊髄損傷の新しい治療薬として期待されています。
受傷から31日以内?ステミラック注の厳しい適応条件
新しい脊髄損傷の治療方法として注目されているステミラック注ですが、様々な注意点があります。
特に使えるタイミングや脊髄損傷のステージなどが決まっています。
ステミラック注を使用する際は骨髄液を採取して、培養した後に点滴を行う必要があります。
この採取を行う期間に制限があり、31日以内に骨髄の採取を行い製品が製造され次第、可能な限り速やかに投与する必要があります。
また、適応となる疾患は事故や転倒などが原因の外傷性脊髄損傷で、脊髄梗塞などの内科的な原因の脊髄損傷には使用できません。
さらに、使用できる症状も決まっており、以下のAISのステージが適応になります。
- A:肛門周囲の感覚を感じない。
- B:運動ができないが肛門周囲の感覚は残存
- C:障害された部位以下の運動機能はあるが不十分
そのため、筋力がある程度保たれているステージDは適応外となるため、注意が必要です。
ステミラック注は脊髄損傷治療の可能性を広げてくれる治療薬ですが、適応範囲が狭く誰にでも使える万能薬ではない事を知っておく必要があります。
保険適用以外の再生医療と他の選択肢
現在保険適用の脊髄損傷に対する再生医療は急性期で行えるステミラック注のみです。
そのため、急性期を過ぎてしまった慢性期の方が治療を希望する場合は自由診療などが治療手段に挙げられます。
ネットでよく見る自由診療を見極めるポイント
ネットで再生医療と検索すると、非常に多くの施設が自由診療で再生医療の広告を出しています。
ご本人が自由診療のクリニックを選択する際は、ご家族で以下の項目を確認しましょう。
- 費用設定に透明性があるか
- リスクや副作用の説明がなされているか
- 治療実績や科学的根拠を示しているか
- 治療後のリハビリテーションの体制が整っているか
これらの条件を満たしたクリニックで、しっかりと相談した上で自由診療を受けるか検討しましょう。
再生医療以外に治療を行う選択肢
再生医療は自由診療で行うとかなり高額になることが多いです。
そのため、他の選択肢を検討してから行うことをおすすめします。
再生医療以外の選択肢として、医療保険や介護保険でのリハビリテーションやボツリヌス療法などがあります。
保険下のリハビリテーションは自由診療と比較すると安価で、身体機能の改善や生活能力の向上が期待できます。
ボツリヌス療法とは神経の異常で固くなってしまった筋肉を柔らかくする治療で、医療機関によっては外来診療で受けることができます。
これらの治療方法もしっかり検討した上で、自由診療での再生医療を受けるか考えましょう。
まとめ
この記事では、脊髄損傷の再生医療の保険適用薬と自由診療について解説しました。
脊髄損傷における再生医療は骨髄から取り出した間葉系幹細胞を使用します。
ステミラック注は使用できる期間が短く、外傷での受傷のみ適応となります。
自由診療での再生医療を受ける際は、事前に他の治療手段も調べた上で検討を行うことが重要です。
インターネットの情報だけで判断せず、現在のかかりつけ医や専門職と相談しながら、ご家族全員が納得できる治療方針を決めましょう。
よくあるご質問
- iPS細胞による脊髄損傷の治療は、もう受けられるのですか?
- 現在iPS細胞を用いた脊髄損傷の治療は、大学病院などの限られた機関で臨床試験(治験)として安全性を確認している段階であり、一般の病院や自由診療のクリニックでお金を払って受けられる状態にはありません。
- 運動麻痺ではなく、神経の痛み(神経障害性疼痛)やしびれも再生医療で治りますか?
- 完全に痛みが消えることを保証するものではありませんが、幹細胞が放出する抗炎症物質の働きにより、脊髄損傷特有の強い痛みやしびれが和らぐケースがあります。痛みの軽減を主目的として自由診療を検討される方もいらっしゃいます。
<参照元>
(1)脊髄損傷に対する再生医療とリハビリテーションの重要|J -stage 名越慈人 Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 9 2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/9/56_56.706/_pdf
(2)最適使用推進ガイドライン(案)ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞|中医協資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000481004.pdf
(3)ステミラック注 治療の流れについて|ニプロ株式会社HP
https://med.nipro.co.jp/media?u=https://d5g00000kdtrvead.my.salesforce.com/sfc/p/5g00000KDtrv/a/5g000003LCFA/17hDLy86VZpi2QdEfrKRH7sMYpjf5F2wIPMw6XlO0b0













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