この記事を読んでわかること
若年でSLEを発症した場合に直面しやすいキャリア・ライフイベント上の課題がわかる。
就労・妊娠・出産・結婚などのライフプランへの影響と工夫がわかる。
病気と共に生きながら将来を前向きに設計するための考え方がわかる。
SLE(全身性エリテマトーデス)は、思春期から20代の女性に多くみられる自己免疫疾患です。
病気のコントロールが難しい時期でも、キャリアや妊娠・出産などのライフイベントを前向きに考えることは可能です。
この記事では、若年発症SLEの特徴と生活上の工夫、再生医療の新たな可能性について解説します。
若年発症SLEとは?

全身性エリテマトーデス(SLE)は10〜40代の女性に多く発症し、特に20代前後の若年層での発症が目立つ病気です。
女性ホルモン(エストロゲン)の影響や、遺伝的な体質、紫外線、ストレス、感染などの環境要因が関与すると考えられていますが、正確な発症の仕組みはまだ完全には解明されていません。
なお、医学用語で「若年発症」とは、小児期や思春期、青年期などの世代に症状が初めて現れるようなケースを指します。
厳密な定義は疾患によって異なりますが、SLEの場合には、16歳、または18歳未満の方に発症するものを小児発症SLE(childhood-onset SLE;cSLE)と呼んでいます。
今回の記事では、このcSLEを含め、思春期から若年成人にかけて発症する全身性エリテマトーデス(SLE)を対象に、病気がキャリア形成やライフプランに与える影響、そして前向きに生活を続けるための工夫について解説します。
キャリア形成への影響と工夫

全身性エリテマトーデス(SLE)を発症した方であっても、仕事をし続け、キャリアを形成することは可能です。
ただし、仕事を選ぶ際には注意点があります。
例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんのなかには、日光の紫外線に対して皮膚が過敏に反応する日光過敏症がみられる方がいます。
また、過労などがきっかけで湿疹や口内炎などのほか、腎臓や心臓、肺などの臓器の障害、関節炎や筋肉炎が多発することがあります。
さらに、全身性エリテマトーデス(SLE)は寒冷刺激によって、手の指が白く、冷たくなるレイノー現象やしもやけのような赤い斑点が皮膚に現れます。
これらの症状が現れたり、悪くなったりすることを予防するため、直射日光を浴びることや寒冷の環境、過労を避けることが大切です。
また、荷物の運搬などの肉体労働は、筋肉痛や関節痛を引き起こすおそれがあるため、できるだけ負担の少ない業務を選ぶことが望ましいです。
では、実際に難病がある人は、どのような職種に就いているのでしょうか。
その点について調べた研究があります。
研究データによると、比較的柔軟に休憩が取りやすい専門や技術職、デスクワークの事務職が多くなっていることが明らかになっています。
具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 専門・技術職(製品開発、実験助手)
- 一般事務職(総務、医療事務、顧客情報管理)
- 一般医事務以外のさまざまな事務職(経理事務、入出荷事務)
- パソコンを使った事務職(データ入力や書類作成など)
- 一般事務職(総務事務、OA操作(パソコンを使った文書作成などの事務業務))
- その他、看護師(准看護師を含む)、社会福祉専門職(保育士、ケアマネージャーなど)
一方、生産工程の仕事や販売職に就いている方は少ないという傾向がみられます。
妊娠・出産・結婚への影響は?妊娠・出産を見据えたライフプラン
SLEは女性に多いため、妊娠や出産に影響を与えることがあります。
そのため、妊娠前や妊娠中にはいくつか気をつけるべき点があります。
まず前提として、全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんでも妊娠は可能です。
ただし、病状が寛解状態にあること、つまり症状が落ち着いている時期に妊娠を計画することが大切です。
近年は医療体制の整備により、主治医と連携した計画妊娠であれば安全に出産できるケースも増えています。
一般的には、以下を満たすことができれば妊娠は可能です。
- 重い肺高血圧や進行した心不全がないこと
- 妊娠中に使える薬のみで症状が安定しており、その状態が6ヶ月以上持続している
ただし、腎炎や腎機能障害がある場合には、妊娠高血圧腎症や早産のリスクが高まり、赤ちゃんの発育不良の懸念があります。
そのため、主治医に相談する必要があります。
治療薬のなかには、妊娠中や授乳中は中止すべきものと継続可能なものがあります。
例えば、免疫抑制剤であるメトトレキサート(MTX)や血圧を下げる働きのあるアンギオテンシン(ARB)・アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)などは、妊娠中は禁忌とされています。
一方で、抗TNF-α抗体製剤など、投与が許容されているものもあります。
全身性エリテマトーデス(SLE)の治療には、ステロイド薬や免疫抑制薬など、さまざまな種類の薬が使われます。
そして、これらの薬剤は医師をはじめとする医療スタッフによって慎重に調整されます。
結果として、母体と胎児の安全を守りながら治療を続けることができます。
また、全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠の方は、一般の妊婦と比べると、腎機能障害や、早産や流産などのリスクが高まる可能性が指摘されています。
そのため、産婦人科と小児科の連携が取れるような、高次医療機関での管理が勧められています。
高次医療機関とは、重症患者や特殊な疾患を持つ患者に対して、24時間体制で高度で集約的な医療を提供できる病院のことです。
また、出産後はホルモン変動による再燃リスクが高まるため、サポート体制の確保が欠かせません。
このように、注意点を理解し、主治医と相談しながらであれば、全身性エリテマトーデス(SLE)の方であっても妊娠や出産を見据えたライフプランを立てることができます。
将来の生活設計と再生医療の可能性
全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性的な免疫異常を伴いますが、近年では免疫の過剰反応を抑え、損傷した臓器を守る再生医療の研究も進んでいます。
たとえば、間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療は、炎症を抑制し組織修復を促す可能性が示されています。
ニューロテック、脳梗塞・脊髄損傷クリニックなどで行われているリニューロ®(同時刺激×神経再生医療®)も、“治る力を高める”という理念を持ち、慢性疾患の回復支援に通じる発想です。
未来を見据え、全身性エリテマトーデス(SLE)と共に生きる方々の生活の質を高める取り組みが期待されています。
まとめ
若年でSLEを発症しても、キャリアやライフプランを諦める必要はありません。
体調と向き合いながら、自分に合った仕事や働き方を選ぶことで、自分の理想とする人生を築くこともできるでしょう。
近年は医療の進歩によって治療の選択肢が広がり、病気とともに生きながらも前向きな生活を送ることが可能になっています。
医療や社会の支援を受けながら、自分らしい未来を描ける時代が少しずつ近づいています。
よくあるご質問
- SLEを持ちながら働き続けるために大切なことは?
- 過労や紫外線、寒冷刺激を避け、体調に合わせて休憩を取りながら働くことが大切です。
職場と相談し、柔軟な勤務や在宅勤務を取り入れることで長く働き続けられる環境を整えましょう。 - SLEの人は妊娠や出産は難しいですか?
- SLEの治療中であっても、症状が落ち着いた状態であれば妊娠は可能です。
主治医と計画的に進めることで、母体と赤ちゃんの安全を確保できます。
薬の調整や高次医療機関での連携管理が重要です。
<参照元>
(1)全身性エリテマトーデス(SLE)-慶應義塾大学病院|KOMPAS:https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000027/
(2)小児発症全身性エリテマトーデス – 東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター:https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/jia/jia/ped-sle.html
(3)全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49):https://www.nanbyou.or.jp/entry/53
(4)難病のある人の雇用管理マニュアル:https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000517555.pdf
(5)膠原病と類縁疾患-皮膚科Q&A:https://qa.dermatol.or.jp/qa7/s2_q01.html
(6)PDF:全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針:https://ra-ibd-sle-pregnancy.org/data/sisin201803.pdf
(7)全身性エリテマトーデスマウスに対する間葉系幹細胞治療~3次元ファイバー基材で培養した細胞で骨髄の自律神経障害と多臓器障害を改善~(リハビリテーション科学分野 千見寺貴子教授)-北海道大学:https://www.hs.hokudai.ac.jp/archives/35175
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