この記事を読んでわかること
幹細胞の種類や特徴がわかる
神経再生に有用な幹細胞がわかる
幹細胞治療の最新の知見がわかる
幹細胞にはES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞などさまざまな種類があり、その種類によって分化能や自己複製能は異なります。
現状では、その採取のしやすさやコスト面から、間葉系幹細胞が広く使用されており、採取部位によって骨髄、脂肪、歯髄由来と分類されます。
この記事では、それぞれの比較について、神経再生の観点から解説します。
神経細胞への分化能力の比較
脳血管障害や脊髄損傷、拡張型心筋症による心不全など、これまで治療困難であった病気に対する新たな治療法として、幹細胞を用いた再生医療が大変注目されています。
これは、幹細胞と呼ばれる細胞を体内に投与し、その幹細胞が障害された細胞(例えば神経細胞や心筋細胞)に分化し、自己複製によって大量にコピー細胞を作り出すことで、障害された臓器や組織の機能・構造を代償する治療法です。
この夢のような治療法の実現のためには、理想的な幹細胞の発見・開発が必要不可欠であり、これまでにES細胞やiPS細胞など、さまざまな幹細胞の開発が取り組まれてきました。
しかし、ヒトの胚細胞(受精卵)から採取するES細胞には倫理的課題が、人工的にES細胞のような細胞を作り出すiPS細胞にはコスト的な課題があり、現在に至るまで臨床で広く利用されているわけではありません。
一方で、成人の体内に多く存在する間葉系幹細胞は、比較的容易に採取可能で、また自身の細胞であるため、アレルギー反応や免疫反応、倫理的問題もなく、近年再生医療の要として広く治験が行われています。
特に、よく用いられる間葉系幹細胞は下記の3つです。
- 骨髄由来間葉系幹細胞:腸骨などから採取
- 脂肪由来間葉系幹細胞;腹部や大腿の脂肪組織から採取
- 歯髄由来間葉系幹細胞:抜歯した歯などから採取
これらの間葉系幹細胞はそれぞれ特徴や短所が異なりますが、より神経細胞への分化能が高いのは、骨髄由来間葉系幹細胞と歯髄由来間葉系幹細胞です。
両者は共に神経細胞への分化能が高く、つまり体内で神経細胞に姿形を変えて、神経細胞として機能できます。
一方で、骨髄由来間葉系幹細胞は自己複製能に乏しく、せっかく神経細胞に分化できても大量の細胞を作り出すことができません。
それに対し、神経細胞への分化能が低い脂肪由来間葉系幹細胞は自己複製能が豊富であり、また骨髄由来間葉系幹細胞よりも比較的容易・安全に採取できるため、メリットも少なくありません。
また、歯髄由来間葉系幹細胞は骨髄由来間葉系幹細胞と同等の分化能を有し、かつ骨髄由来間葉系幹細胞を有意に上回る自己複製能を持つ細胞として知られています。
以上のことから、歯髄由来間葉系幹細胞が最適な幹細胞のように思えますが、現状ではほとんどの臨床現場で脂肪、もしくは骨髄由来間葉系幹細胞が扱われており、歯髄由来間葉系幹細胞を扱う医療機関が少ないというデメリットも挙げられます。
今後、歯髄由来間葉系幹細胞を取り扱う医療機関が増えてくれば、更なる臨床適応が進む可能性が高いです。
脳卒中や脊髄損傷への応用事例
では、実際に幹細胞を用いた再生医療が脳卒中や脊髄損傷に応用された事例を幾つか紹介します。
代表的な事例としては外傷性脊髄損傷に対する「ステミラック注」が挙げられます。
ステミラックは自身の骨組織から採取した骨髄由来間葉系幹細胞を培養・増殖し、受傷後 40±14日以内に単回静脈内投与する治療法です。
国内第Ⅱ相試験では13例を対象に治療が実施され、そのうち12例でASIA機能障害尺度(神経機能をA〜Eの5段階で評価)の1段階以上の改善を認めています。
さらに、3例はASIA機能障害尺度で2段階の改善を認め、高い有効性が確認されています。
治療上、因果関係を認めるような合併症・副作用も認めず、現在では多くの医療現場でも実施されている治療です。
次に、北海道大学病院脳神経外科では、脳梗塞後の重度の麻痺患者に対して、自身の骨髄から採取した幹細胞を脳内に直接移植する治療の治験を行なっています。
直接移植から1年経過後も重篤な合併症は認めず、また自力での歩行の回復や画像所見上で神経細胞の活性化を認めており、一定の有効性も推定されています。
脳梗塞に対する標準治療として確立される可能性もあるため、今後の更なる知見が待たれるところです。
今後の研究動向と期待される成果
冒頭でも触れた通り、人工的に作るiPS細胞は京都大学の山中教授が開発した画期的な幹細胞でしたが、開発当初はコスト的課題が大きく、臨床への応用は困難でした。
しかし、近年ではiPS細胞の更なる開発や、再生医療領域の市場拡大に伴い、徐々にさまざまな疾患への治験も進んでいます。
また、患者から作製したiPS細胞はどんな細胞にも分化できる可能性があり、つまりは患者の身体を擬似的に再現できる可能性があります。
これを利用することで、病気の仕組みを生体外で調査・研究することができ、新たな薬への研究材料としても応用可能です。
このように、再生医療分野は今後更なる広がりが期待されます。
まとめ
今回の記事では、神経再生に最適な幹細胞について詳しく解説しました。
幹細胞は採取する部位によって分化能や自己複製能に差があり、特に骨髄由来間葉系幹細胞や歯髄由来間葉系幹細胞は神経細胞への分化能が高いことが知られています。
一方で、近年では人工幹細胞であるiPS細胞の研究も進んでおり、さまざまな疾患に対する治験も進んでいます。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であった神経疾患の後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 歯髄由来のエクソソームの効果は何ですか?
- 歯髄幹細胞から分泌されるエクソソームにはさまざまなタンパク質・RNA・成長因子が含まれ、組織の再生・修復を促す効果や、抗炎症作用、血管新生作用などを有しています。
- 乳歯幹細胞の効果は何ですか?
- 乳歯幹細胞は、幼児の脱落した乳歯から得られる幹細胞で、成人の永久歯の歯髄幹細胞と比較してより自己複製能が高いという報告があります。
また、他組織への分化能も高く、損傷した臓器の修復効果が期待されます。
<参照元>
(1):再生医療の今とこれから|日本歯科医師会:https://www.jda.or.jp/park/lose/regenerative02.html
(2):最適使用推進ガイドライン(案)ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞(販売名:ステミラック注) ~脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善~|厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000481004.pdf
(3):脳梗塞に対する再生医療等製品の研究開発―医師主導治験 RAINBOW研究の結果報告―|日本医療研究開発機構:https://www.amed.go.jp/news/release_20210806-03.html
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