フレイルとは

フレイルとは、年齢のために体力や認知が低下し、介護になる一歩手前となった状態のことです。
一見元気に自立して生活していますが、少しのきっかけで介護や死亡となるリスクがあります。
早く対処することで健康な状態に近づくことができるため、その予防と早期発見が高齢化社会の大きな課題です。
フレイルとはどのような状態か
フレイルは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す「frailty」から取った用語です。
日本老年医学会から2014年に提唱されて以来、高齢化の進む日本において取り組むべき課題として、広く認知されるようになりました。
まずはフレイルとはどのような状態を表すのか、フレイルの種類、診断基準、そして似た用語である「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」について解説していきます。
フレイルの種類
フレイルとなる原因には、大きく分けて3種類の要素があります。
身体的フレイル

3種類の要素の中でも、フレイルの原因として中心的となるもので、「体が弱くなること」を指します。
筋力が低下し移動速度が遅くなること、安定性が落ちるために転倒のリスクが高くなること、骨が弱くなり骨折しやすくなること、やせて体力がなくなること、全て身体的フレイルです。
多くの要因が関わり身体的フレイルとなりますが、重要なのは筋力が落ちることと、栄養が十分にとれないことです。
認知的フレイル

認知的フレイルは、認知機能の低下があるものの、認知症とまでは診断されない状態です。
認知的フレイルの状態であると身体的フレイルとなりやすく、身体的フレイルがあると認知機能の低下が起きやすいため、両者は合併していることがほとんどです。
認知的フレイルは認知症に移行しやすく、日常生活を上手に過ごせず問題が起きやすいこと、食事をとろうという意志が低下したり、準備がままならなくなったりするなどして、低栄養となることが問題視されています。
社会的フレイル

はっきりした定義はありませんが、社会との関わりが少なくなったために助けを得ることができず、リスクが高まった状態のことです。
「外出頻度が1日1回未満の閉じこもり状態」「同居家族以外との交流が週1回未満の社会的孤立状態」などの具体例が挙げられています。
これらの用語は必ずしも統一された基準が定められているわけではないため、場合により様々な言葉が用いられています。
例を挙げると、精神・心理的フレイル、これは認知的フレイルとほぼ同じ意味です。
他にも身体的フレイルの一つである低栄養の入り口として、歯や飲み込みの機能に注目した言葉であるオーラルフレイル、排泄の障害が健康障害のリスクとなる排泄のフレイル、などの用語があります。
フレイルの診断基準
フレイルには、はっきりと統一された診断基準があるわけではありませんが、ここではおもに使用されているJ-CHS基準を紹介します。
次の5項目のうち、1項目でも満たせばプレフレイル(フレイル手前)、3項目以上はフレイルと診断されます。
体重減少 | 「6ヵ月間で2-3kg以上の(意図しない)体重減少がありましたか?」に「はい」と回答した場合 |
---|---|
倦怠感 | 「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」に「はい」と回答した場合 |
活動量 | 「軽い運動、体操(農作業を含む)を1週間に何日くらいしていますか?」および「定期的な運動、スポーツ(農作業を含む)を1週間に何日くらいしていますか?」の2つの問いにのいずれにも「運動、体操はしていない」と回答した場合 |
握力 | 利き手の測定で男性26kg未満、女性18kg未満の場合 |
通常歩行速度 | (測定区間の前後に1mの助走路を設け、測定区間5mの時間を計測する)1m/秒未満の場合 |
倦怠感や活動量の項目は、わりと該当する人は多いような気がしますよね。
ちなみに、秒速1mとは時速3.6kmです。
1kmを16-17分くらいで歩く速さです。
結構ゆっくりということが分かると思います。
- 体重が減少してきている
- 握力が低下してきている
- ゆっくりとしか歩けなくなった
という方はフレイルと診断される可能性があります。
フレイルの症状
フレイルは、診断基準からも分かる通り、痛みなどの明らかな体の不調を必ずしも伴いません。
少しやせたかな、疲れやすいかな、くらいでは病院に行きませんよね。
そのため発見が遅れ、介護状態になってしまう可能性が高くなります。
そこで、潜在的に介護リスクが高い人、つまりフレイル状態にいる人を早く発見するための事業が2020年4月に開始されました。
それが、「フレイル健診」です。
症状が乏しい状態であるため、健診で拾い上げていく必要があります。
フレイルとサルコペニアの違い

サルコペニアとは、「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」のことです。
つまり、加齢の影響により筋力が低下し、歩くのが遅くなることです。
フレイルの中でも、身体的フレイルの一症状を指しているといえます。
サルコペニアの診断基準は、歩行速度、握力、筋肉量の測定からなります。
診断基準の違いからも、サルコペニアはフレイルの一部である、というとらえ方ができることが分かりますね。
フレイルとロコモティブシンドロームの違い
ロコモティブシンドロームは、2007年に日本整形外科学会から提唱された概念で、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」のことです。
運動器の障害には、体力の低下、筋力の低下によるものがあるため、フレイルの一症状であると捉えることができます。
ただしロコモティブシンドロームでは、骨折や腰痛、関節の変形などによる運動器の障害も含むため、フレイルやサルコペニアとは言い切れない部分もカバーする考え方です。
フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、いずれも比較的新しい用語です。
高齢化が進む日本において、健康寿命を長くするための意識付けとして、提唱されてきた言葉です。
潜在的なリスクを抱えた方を早期に発見し、健康寿命を長くする行動へつなげていくために、より広まっていく必要のある考え方です。
フレイルを早めに発見しよう!簡単なチェックの方法
フレイルの考えは分かったけど、自分はフレイルなの?
高齢の方はまずそのように感じるでしょう。
そのような方がみな健診等に参加してくれれば良いのですが、移動が難しくなっていて社会的なサポートが乏しい方は、そもそも外出しませんよね。
まさにそういう方を拾い上げなければいけないにも関わらず、です。
そこで、フレイルには簡単にチェックすることのできる方法が考案されています。
ここでは、「簡易フレイル・インデックス」と、ふくらはぎをチェックする「指輪っかテスト」を紹介します。
簡易フレイル・インデックス
J-CHS基準を簡易的、質問形式にしたもので、認知に関する質問が追加されています。
質問 | はい | いいえ |
---|---|---|
6ヵ月で2-3kgの体重減少がありましたか? | 1点 | 0点 |
以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? | 1点 | 0点 |
ウオーキングなどの運動を週に1回以上していますか? | 0点 | 1点 |
5分前のことが思い出せますか? | 0点 | 1点 |
(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする。 | 1点 | 0点 |
3点以上→フレイル、1-2点→プレフレイル
ふくらはぎをチェックする「指輪っかテスト」
東京大学の飯島勝矢先生が考案された、非常に簡単な筋肉量のチェック方法です。
まず両手の親指と人差し指で輪をつくります。
椅子に座って前かがみになり、ひざが90度になる状態で、ふくらはぎの一番太いところを、力を入れずに囲みます。
囲めない場合はフレイルの危険性は低い(筋肉量が多い)、囲めて隙間ができてしまう場合フレイルの危険性が高い(筋肉量が少ない)、ということになります。
簡易チェックで該当する方は、健診を受診するなどして、次の具体的な行動へつなげていくことが重要です。
フレイルを予防する方法
厚生労働省は、高齢者のフレイル予防事業として、「食べて元気にフレイル予防」というパンフレットを作成しています。
このタイトルからも分かる通り、フレイル予防の中心になるのは、低栄養の予防、改善です。
それに加えて、身体活動(運動)、社会参加を促す内容となっています。
フレイル予防のための食事、運動、社会参加について解説していきます。
フレイル予防の食事、栄養
日本では、フレイルの大きな原因となるのが、低栄養によるやせ、筋力低下です。
海外では、肥満で筋力が少ない「サルコペニア肥満」の方が多いため、食事療法にはカロリーのコントロール、ダイエットが入ってきます。
しかし国内にはサルコペニア肥満の方は非常に少なく、いかに低栄養を避けるために食事を(多く)とるかという点が主な課題となっています。

特に摂取量を確保するべきなのが、肉や魚、豆などに含まれるたんぱく質です。
「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」では、1日に体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質摂取がサルコペニア発症の予防に有効である可能性があると記載されています。
体重50kgの方であれば1日にたんぱく質50g、これは鶏肉でいうと約200g、豚肉でいうと250g程度の量になります。
厚生労働省のフレイル予防事業では、体重1kgあたり1.2-2g程度のたんぱく質摂取が推奨されています。
そしてたんぱく質を筋肉に変えるために重要なのが、3食ともたんぱく質を取り入れることです。
1食でまとめてたんぱく質50g分の食事をとっても、血液中のアミノ酸が減る時間帯になると、筋肉が分解され減ってしまうからです。

他にもビタミンDや、不飽和脂肪酸がフレイル予防に重要であることが分かっています。
食事のスタイルでいうと、地中海食(果物や野菜を多く使用する、乳製品や肉よりも魚を多く使う、オリーブオイル、豆類など穀物をよく使う)が適しているとされています。
また、食事をとるための、歯や舌など口腔の機能の重要性が指摘されています。
歯が少ない、飲み込みが悪いなどが原因で食事が少なくなる状態を、オーラルフレイルと呼びます。
健康な歯を残すために早くから治療することや、口腔機能の低下に早くから気付くことが重要です。
フレイル予防のための運動療法
栄養をしっかり確保した上で、運動を行うことでフレイルを予防することができます。
栄養と運動は、フレイルやサルコペニアの予防、治療の中核と位置づけられています。
「サルコペニア診療ガイドライン2017年版」では、運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニアの発症を予防する可能性があると記載されています。
運動の内容としては、レジスタンス運動(ダンベルやスクワットなど、筋肉に抵抗をかける運動)が効果的と考えられています。
ガイドライン作成の根拠となった研究では、ご高齢の方に1日60分・週2回・3ヵ月間の運動療法を行うことで、筋肉量・筋力・歩行速度が改善したという結果が得られています。
ただ、日頃の活動性が低く運動習慣がない方にとって、レジスタンス運動はややハードルが高い方法です。
歩行が不安定な方などは、転倒してケガしてしまうリスクもあります。
運動を取り入れていく際には、徐々に量を増やす、徐々に抵抗を増やしていく、といった計画的な実施が必要です。
日頃運動習慣が少ない人は、軽い運動でも効果が出やすいことが分かっています。
まずは運動を始める事、そして始めた運動を継続することが重要です。
周囲の人はそのためのきっかけ作り、習慣を支えるためのサポートをしてあげられると、フレイル予防に効果的と考えられます。
社会参加活動
高齢になり外出の機会が減ると、社会との関わりが少なくなってきます。
会話の機会が減り、生活への意欲が低下しがちです。
気付くと1日中家の中にいる、そんな生活は社会的フレイルの危険性があります。

内閣府による「高齢者の社会参加活動」調査では、60歳以上の高齢者のうち61%が何らかのグループ活動に参加したことがあると回答されており、20年前と比較すると18.7ポイント増加していたそうです。
参加者は「生活に充実感ができた」「人生がより豊かになった」などの実感を得ることができています。
一方で、残り39%の方はそういう機会に触れることができていません。
グループ活動や知らない人とのコミュニケーションが苦手な方などは、積極的に参加していくことが難しい場合も少なくありません。
全体的な傾向として、男性よりも女性の方が、積極的にコミュニケーションをとろうとします。
男性の方も、共通の趣味などを通じて、社会参加できると良いですね。
対策として、地方自治体等により高齢の方が交流する機会を提供する、また高齢の方が参加しやすくなるための交通機関の整備など、が重要と考えられています。