この記事を読んでわかること
脳梗塞後に起こりやすい嗅覚・味覚の変化と、その背景がわかる。
気づきにくい感覚障害のサインと生活への影響がわかる。
回復を促すために取り入れたい食事・生活の工夫がわかる。
脳梗塞後には、手足の麻痺だけでなく匂いや味の感じ方が変わることがあります。
食事の味が薄くなる、不自然に感じるなどの変化は生活の質に影響することもあります。
この記事では、最新の研究の知見も交えながら、味覚・嗅覚障害の特徴と、日常でできる工夫や回復のヒントについて解説します。
脳梗塞後に起こる匂いと味の変化とは
脳梗塞を含む脳卒中後には、嗅覚機能の障害が現れる可能性が高くなります。
脳卒中のあとには、38%の方が味覚障害を、12%の方が嗅覚障害を発症していたという報告もあります。
まずは、脳梗塞になってしまった後に起こりうる匂いと味の変化について解説します。
嗅覚障害は、年齢や脳卒中発症時の神経学的な重症度とも関連しているとも報告されています。
さらに、嗅覚障害の方は、正常の方に比べると匂いを不快に感じるという特徴もあります。
つまり、完全に嗅覚を失うわけではない場合も多いです。
しかしながら、匂い刺激に対する知覚の質の変化が食生活の変化ももたらし、最終的には体重減少につながるというリスクもあります。
次に、味覚障害について説明します。
味覚障害は、味を感じる情報を処理している脳のいくつかの部分が傷つくことで起こる可能性があります。
例えば、情報の通り道である橋や、味の情報処理を担う脳領域である島皮質、感覚情報の中継地点である視床などの領域に異常が生じると、味を正しく感じる働きがうまく機能しなくなります。
特に、島皮質は味の強さやおいしさを感じ取るために重要な情報処理をしています。
このため、島皮質が障害されると味の感じ方が大きく変わってしまうことがあります。
味覚障害では味を感じなくなりますが、味を感じる機能が下がってしまう味覚低下、本来の味と違う味に感じてしまう味覚異常などがあることも報告されています。
脳梗塞を含む脳卒中後に味覚や嗅覚障害が起こった方では、生活の質が下がってしまうことが多くの研究で実証されています。
例えば、食べ物の好みが変化したり、特定の食品の味が悪いと感じることで、自分では意識していないにも関わらず摂取エネルギーが減ってしまう、体重減少につながることがあります。
それだけではなく、脳梗塞になる前と味の感じ方が変わった結果、外食や食にまつわるグループ活動などに対する活動を避けるようになることもあります。
加えて、脳卒中後に味覚が低下した方が、味を調整しようとして塩分の摂取量が劇的に増加してしまい、治療が難しい高血圧を発症したというケースもみられます。
気づきにくい嗅覚と味覚の障害サイン

脳梗塞が起こったあとは、手足の筋力低下や言語障害などの対応が必要となる場合も多いかと考えられます。
そのため、実は嗅覚低下や味覚障害が起こっていることに気づかないというケースもあります。
実際に、以下のようなエピソードが報告されています。
不整脈に対してペースメーカーを留置した70歳代の女性が、脳梗塞を発症しました。
脳梗塞の治療を終え、会話や理解は徐々に改善していきましたが、言い間違いや書字の誤りが続きました。
複雑な作業や長い文章の理解が難しくなり、好きだった音楽が不快に聞こえるなど、感覚が変化する様子もみられました。
特に、味の変化に困る場面もみられました。
入院中は「味が薄い」程度でしたが、退院後に普段の食事へ戻ると、多くの食品が「土のような味」「不自然な味」に感じられるようになりました。
鶏肉、野菜、コーヒーなどの味が大きく変わり、食事量が減って体重も落ちてしまいました。
食事を楽しめないことで、人との食事の場が負担となり、孤立感につながることもありました。
一方で、リハビリや時間の経過によって少しずつ改善もみられました。
読み物のレベルが上がり、音楽も再び楽しめるようになり、発症後9か月頃には「おいしい」と感じられる食品が増えました。
トマトソースのパスタや牛肉料理、甘いものは比較的味わいやすく、チョコレートも楽しめました。
ただし、味の回復には個人差があり、1年経っても一部の食品は「木くずのように感じる」など、完全に元に戻っていないものもありました。
嗅覚や味覚の回復を促すトレーニングと生活の工夫

嗅覚や味覚に変化が起きたとき、感覚を取り戻すためには「感じたい」という意識を持って日々の食事や生活に工夫を加えることが有効です。
まず、軽い運動を毎日30分ほど取り入れて体を動かすことで食欲や味覚機能の回復を助けます。
食事の際には「見た目」や「食感」も味わいの一部です。
料理を美しく盛りつけ色鮮やかにする、小皿で少量ずつ楽しむなど「食べる時間を演出」することが効果的です。
また、口の中を潤しておくことも大切です。
乾いた口では味が広がりにくいため、レモン汁を一滴かける、少しゆっくり噛む、水分をこまめにとるなどで唾液を促し味覚を活性化します。
従来好んでいた味が変わってしまった場合は、スパイスやハーブ、酸味・辛味の効いた調味料を使って刺激を加えると、味を感じる回路を刺激できます。
食感も重要で、シャキシャキ・パリパリ・もっちりといった異なる食感の食品を組み合わせることで、味以外の感覚もワクワクさせ、食事の満足感を高めることができるでしょう。
肉類などの金属的な味を感じるときは、鶏肉・魚・豆製品などを代替にするのも有効です。
温度変化も活用できます。
冷たい食品や料理は味が感じやすい人も多いため、温かいスープから冷製ゼリーやヨーグルトへ切り替えてみることも検討できます。
味覚・嗅覚はすぐ元通りになるとは限りません。
数週間、数か月、またはそれ以上かかることがあります。
だからこそ食べることをあきらめず、少しずつ新しい味や食材を試す姿勢が重要です。
日々の工夫とトレーニングを継続することで、感覚の回復や食事を楽しむ力を取り戻す可能性が高まるでしょう。
まとめ
脳梗塞後の嗅覚や味覚の変化は、生活に与える影響も大きいです。
しかし、工夫を重ねることで生活の質の改善が可能となる場合もあります。
神経機能の回復を支える再生医療リニューロ®を併用する選択肢も、回復を後押しする一助となるでしょう。
よくあるご質問
- 脳梗塞後の味覚や嗅覚の変化は治るのでしょうか?
- 脳梗塞後の味覚や嗅覚の回復には個人差がありますが、日々の工夫や少しずつ新しい味に触れることで改善する例があります。
完全に元に戻らなくても、食べられる食品の幅が広がることがあります。
- 味覚障害があるとき、無理にでも普段の食事に戻した方が良いですか?
- 無理に以前の食事に戻す必要はありません。
食べやすい温度や食感のものを選び、食べられる食品を中心に摂る方が負担が少なく続けやすいとされています。
食べ物の味や温度を工夫し、無理ないように食事をとるようにしましょう。
<参照元>
(1)Schön M, Cruz DM, Tomás R, Sotero F, Alves PN, Canhão P. Assessing Taste and Smell Dysfunction in Acute and Chronic Stroke Patients: Insights From an Adapted Bedside Questionnaire. Eur J Neurol. 2025 May;32(5):e70089.:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40342227/
(2)Wehling E, Naess H, Wollschlaeger D, Hofstad H, Bramerson A, Bende M, Nordin S. Olfactory dysfunction in chronic stroke patients. BMC Neurol. 2015 Oct 12;15:199. doi: 10.1186/s12883-015-0463-5. Erratum in: BMC Neurol. 2015 Nov 19;15:237.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4604071/
(3)Dutta TM, Josiah AF, Cronin CA, Wittenberg GF, Cole JW. Altered taste and stroke: a case report and literature review. Top Stroke Rehabil. 2013 Jan-Feb;20(1):78-86.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3777265/
(4)おいしさの脳科学. 科学基礎論研究.1997;27(1):1-8. p3:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kisoron1954/27/1/27_1_1/_pdf
(5)Lost your sense of taste or smell? 8 tips for eating well | MD Anderson Cancer Center:https://www.mdanderson.org/
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