・リハビリ内容の紹介
・再生医療の施術可能性
運動失調症とは目的の動作に対するさまざまな動きの協調性が阻害され、運動を円滑に行うことができない病態を指します。
生活上一番問題となるのは、”関節や筋肉をうまく動かして、目的の動作をすることが難しい”ということです。
この記事では、運動失調症の病態からリハビリ内容、当クリニックで施術可能な再生医療について、詳しく解説していきます。
目次
運動失調症とは
運動失調症とは、運動麻痺がないにも関わらず、目的の動作に対する様々な動きの協調性が阻害され運動を円滑に行うことが出来ないという症状です。
運動失調症を発症すると、動きの強弱・スピードのコントロールが難しくなるため、動作が全体的にぎこちなくなります。
手足や体幹を上手く使うことが出来ないためスムーズに動作が行えず、転倒や動作の失敗、また動作に時間がかかることが多く、生活の質を低下させてしまう症状です。
「運動失調症にはどんな種類・原因があるのか」
「運動失調症はどんな症状が出現するのか」
「運動失調症のリハビリ、再生医療について知りたい」
など運動失調症について詳しく知りたい方のために、それぞれ詳しく解説していきます。
運動失調について理解を深めていきましょう。
運動失調症の種類
運動失調症には、以下の5分類があります。
- 小脳性失調症
- 脊髄性失調症
- 前庭迷路性失調症
- 大脳性失調症
一項目ずつ解説していきます。
小脳性失調症
普段、私たちは様々な筋肉・関節を複合的に調整しながら動作を行なっており、これを共同運動といいます。
その共同運動を司っているのが小脳です。
小脳は中枢神経の中の様々な部分と密に連携を図り、円滑な動作を行う上で大変重要な役割を果たしています。
小脳が障害されると、この共同運動が阻害され、「ぎこちない動き」になってしまいます。
小脳性失調症の特徴は以下の通りです。
- ワイドベース歩行(左右の足を大きく開いてバランスを取ろうとする歩行様式)
- 酩酊歩行(体幹・歩幅が安定せずよろめきながら歩く歩行様式)
- 失調言語(声がスムーズに出せず断片的な発語になる)
- 協調運動障害(主に手足と体幹)
- 眼振(眼球が震える状態)
小脳性失調症の主な疾患は以下の通りです。
- 脳腫瘍
- 脳血管障害(脳卒中、脳梗塞など)
- 頭部外傷
- 協調運動障害(主に手足と体幹)
- 脊髄小脳変性症 など
脊髄性失調症
脊髄性失調症は脊髄後索の障害により、フィードバック制御が困難になり、円滑な運動制御が困難になります。
脊髄性失調症の特徴は以下の通りです。
- 運動失調を視覚により代償可能
- ロンベルグ徴候が陽性(閉眼下で失調症状が著明)
- 運動失調は主に下肢に出現
- 深部感覚障害(どの関節がどの角度で動いているかという感覚が低下)
- 鶏足(足を高く上げて床に叩きつけるように歩く)
- 失調症状は静止時・動作時ともに起こる
脊髄性失調症の主な疾患は以下の通りです。
- 脊髄腫瘍
- 脊椎症性脊髄症
- 圧迫性脊髄症
- 変形性頸椎症
- 脊髄空洞症
- 多発性硬化症
- 末梢神経疾患 など
前庭迷路性失調症
前庭迷路性失調症は、前庭器官の障害で生じる運動失調です。
小脳性や脊髄性のように手足や体幹に運動失調が出現するのではなく、起立や歩行時のバランス障害が主症状になります。
前庭迷路性失調症の特徴は以下の通りです。
- 主症状は座位・立位・歩行時のバランス障害
- 閉眼時は次第に動揺が大きくなり転倒の危険がある
- ロンベルグ徴候が陽性(閉眼下で失調症状が著明)
- 運動失調は主に体幹に出現
- 千鳥足歩行(左右の足が交差し転倒リスクが高い)
- 星型歩行(閉眼時に足踏みすると足跡が星型を描く)
- 眼振(眼球が震える状態)
前庭迷路性失調症の主な疾患は以下の通りです。
- 多発性硬化症
- 脳幹梗塞
- 脳幹部腫瘍
- 小脳腫瘍
- 脳動脈瘤
- メニエール病
- 感染性髄膜炎
- 膠原病
- 中毒 など
大脳性失調症
一般的に大脳半球の障害により起こる運動失調であり、症状の出る部位は主に病巣と反対側の手足です。
症状は小脳性運動失調に近似しています。
立位はワイドベースで体幹には動揺を認め、歩行時もワイドベースで歩幅が小さいことが特徴的です。
運動失調症の診断
運動失調の診断は、主に下記の項目を総合的に加味して行われます。
- 病歴
- 家族歴
- 画像検査(CT・MRI)
- 血液、尿、髄液検査
- 血圧、排尿機能検査
- 心臓機能検査
- 神経伝導検査と筋電図検査
- 認知機能検査または神経心理学的評価 • 眼の評価
- 遺伝学的血液検査 など
運動失調症の検査・評価
運動失調症の検査や評価は、主に理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が実施します。
運動失調症の症状は多岐にわたるため、正しい検査方法で検査するとともに症状を複合的に評価する必要があります。
下記が協調運動障害の評価をベースとした運動失調症の評価項目です。
- 筋緊張異常
- 四肢の運動失調の程度
- 体幹の運動失調の程度(座位、立位)
- 立位平衡能力(バランス能力)
- 歩行障害(酩酊歩行、ワイドベース歩行、鶏足歩行、千鳥足歩行)
- 時間測定異常
- 共同運動不全
- 反復運動障害
- 企図振戦
- 跳ね返り現象
- 重量感覚の障害
- 眼球運動障害
- 書字障害
- 言語障害 など
運動失調症の運動療法・リハビリテーション
運動失調症の方にとって、できるだけ長く活動的に過ごすことは重要な治療計画の一部です。
治療目的は生活の質の向上にあり、必要に応じて理学療法士、作業療法士、言語聴覚士で連携を測りながら個々の患者さんに合わせたリハビリテーションを提供します。
そのために、まず日常生活上での環境設定へのアプローチを行うのが一般的です。
具体的には、以下のような項目が挙げられます。
- 必要な箇所への手すりの設置
- 段差の解消
- 家具の配置調整
- 歩行補助具の選定
- 衣服の工夫
- トイレの改修やポータブルトイレの設置
- 浴槽の改修
- ご家族さんへの介助指導 など
環境設定へのアプローチを行なった上で、以下のようなリハビリを実施します。
- 関節可動域訓練
- 筋力強化訓練
- 立ち上がり訓練
- 歩行訓練(平地、エアロバイク)
- 視覚誘導によるバランス訓練
- 動作の反復訓練
- フレンケル体操
- (仰向けで目標物を目で見ながら足を目標物に正確に当てる)
- 重り負荷下での運動(運動制限の促通と過剰な動揺の抑制が目的で歩行訓練にも適用されることがある)
- 弾性緊縛帯(二の腕や太ももに弾性包帯を巻き、動作時の手足の動揺を抑制することが目的)
- プレーシング(手足を一定の位置で保持する訓練で筋の同時収縮を運動学習することが目的) など
運動失調症のリハビリテーションは、多岐にわたる様々な症状に対し適宜機能評価を行いながら上記の運動療法を組み合わせて実施していきます。
運動失調症における再生医療リハビリ
運動失調症は、協調運動障害に基づく様々な症状によりスムーズな日常生活動作が阻害されてしまう症状です。
運動失調症にはさまざまな起因疾患、原因があります。
その起因となる疾患の中に再生医療を実施できる疾患があることをご存知でしょうか。
当院では、脳卒中や脊髄損傷の治療に関して、最も歴史が長く安全性・効果が報告されている骨髄を元とした幹細胞点滴を実施しています。
ここでは、再生医療の基本情報と当院での再生医療リハビリ(再生医療+リハビリ)について詳しく解説していきます。
そもそも再生医療とは、怪我や病気などによって失ってしまった機能を薬で治癒するのではなく、人の持つ「再生力」を利用して治癒を目指す治療法です。
神経や血管の障害を元の状態に再生するための治療として、効果が期待されているのが再生医療なのです。
再生医療では幹細胞(神経や血管の元となる自身の細胞)を治療に応用します。
幹細胞を体内に移植すると、体内で増殖・成長する過程で組織を修復する因子を分泌し、神経や血管に対して保護的に作用するのです。
新たな神経ネットワークや新生血管の形成を通じて治療効果を発揮することが期待されています。
ニューロテックメディカル株式会社では、「ニューロテック®」として脳卒中・脊髄損傷・神経障害などに対する幹細胞治療の基盤特許を取得しており、再生医療の効果を高める取り組みを行っています。
しかしながら再生医療だけで、運動失調の症状が劇的に回復するという症例は今まで報告されておりません。
だからこそ、再生医療リハビリ(再生医療+リハビリ)を集学的な治療として行える体制を構築、進化させていきたいと考えております。
当院の特徴は、前述した運動失調症の運動療法・リハビリテーションの内容に加え、幹細胞点滴や上清液導入下で、磁気刺激機器、電気刺激機器、ロボットといったデバイスを用いたリハビリを受けていただくことができることです。
デバイスにより脳や神経への刺激が損傷箇所の血流を増やし、修復を促しながら効率的に運動神経・感覚神経の神経回路を鍛えることができます。
デバイスを用いた詳しい訓練法につきましては下記関連記事をご覧ください。
脳卒中、脊髄損傷に起因する運動失調症に対しては、再生医療と最先端のリハビリテーションを組み合わせることで最大限の機能回復を達成できると考えています。
また今まで根本的な治療方法がないといわれていた脊髄小脳変性症ですが、近年再生医療を用いた治療法の研究が日に日に進んでおり、実験室レベルでの研究から実際の患者さんへの治療に使用するまで、進歩的な治療が行われています。
不可能を可能とする再生医療のさらなる進歩に期待するところです。
運動失調症状にお悩みの方やそのご家族の方は、ぜひ一度ご相談ください。
一旦、病気で障害を持たれると、それを治すためにリハビリが必要になりますが、自分を治す力は年齢とともに急激に弱くなってしまいます。リハビリを行うだけでなく、自分を治す力を出来るだけ高め、リハビリを行う前の下地作りをしてあげる再生医療には重要な意味があると考えられます。しかし、再生医療では治療さえおこなえばそれで十分という魔法の薬ではありません。
まとめ
運動失調について、その種類・原因から症状、また従来のリハビリや当院での再生医療リハビリについてご紹介しました。
運動失調は、麻痺や筋力低下などの機能障害がないにも関わらず、動作にぎこちなさが出現し上手く身体を動かせない病気です。
日常生活に様々な影響を及ぼす症状であるため、機能回復・維持の為にもリハビリの実施が不可欠です。
リハビリでは、装具の使用や環境設定などを行う代償的アプローチと、根本的な障害を改善することで機能を向上させることを目的とする回復的アプローチ、それに加えて、当院では再生医療リハビリを実施しております。
それぞれの原因に合わせたリハビリを行い、運動失調の軽減を目指しましょう。
よくあるご質問
小脳性運動失調の症状は?
小脳性運動失調の主な症状に歩行障害があります。
歩行中の方向転換や階段の昇降などが不安定になったり、座る動作なども難しくなったりします。
そのため、手すりや杖や歩行器など指示補助具の利用が必要となります。
運動麻痺と運動失調の違いは?
運動麻痺は、自らの意思で筋肉を動かせない状態を指し、筋肉や大脳皮質・脊髄・末梢神経が障害を受けることが原因です。
一方、運動失調は、スムーズな運動が障害された状態を指し、筋肉の動きを調整する機能が失われることに起因します。
関連記事
このページと関連のある記事
<参照元>
・小脳性運動失調のリハビリ:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/2/56_56.101/_pdf
・運動失調のアプローチ:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/14/0/14_1/_pdf
・運動失調の歩行の特徴:
https://www.ayumieye.com/ataxia/
・運動失調の評価とリハビリ:
https://www.stroke-lab.com/speciality/6109
・運動失調の評価:
https://www.movementdisorders.org/MDS-Files1/Education/Patient-Education/Ataxia/AtaxiaJapanese.pdf
・運動失調の理解とリハビリ:
https://kango.medi-care.co.jp/blog/237
・運動失調のリハビリ:
https://www.kyoureha.info/blank-46
・脊髄小脳変性症の最新治療:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/36/5/36_580/_pdf/-char/ja
・失調症のリハビリ:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1964/28/10/28_10_774/_pdf
・脊髄小脳変性症の症状:
https://www.neurology-jp.org/public/disease/ataxia_detail.html
・再生医療リハビリ:
https://neurotech.jp/saiseiiryou/rehabilitation/
・脳卒中に対する再生医療:
https://neurotech.jp/saiseiiryou/rehabilitation/
・川平和美(2004) 標準理学療法学・作業療法学 神経内科学第2版 医学書院
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