・運動機能障害に対する理学療法
・認知機能障害、記憶障害に対する作業療法
・嚥下障害、言語障害に対する言語療法
脳出血を発症するとダメージを受けた脳の部位によって様々な障害が起こります。
代表的なものとして、片麻痺、認知機能障害、記憶障害、嚥下障害、言語障害などが挙げられます。
これらの障害に対してはリハビリを行うことが重要です。
この記事ではそれぞれの障害ごとに行うリハビリテーション方法について解説します。
運動機能障害とその回復のアプローチ
脳出血を発症すると様々な症状が出現します。
代表的な症状として、片麻痺、記憶・認知機能障害、言語障害を含む高次脳機能障害、嚥下障害などがあります。
この記事ではそれぞれの症状やそのリハビリ方法について解説します。
始めに片麻痺などの運動機能障害から解説します。
脳出血を発症し前頭葉などの錐体路と呼ばれる部位がダメージを受けると片麻痺を発症します。
片麻痺とは損傷した脳と左右逆の上下肢に発症する麻痺症状で症状が重度であると日常生活に影響を及ぼします。
片麻痺は発症直後から発症1ヶ月にかけて急激に回復し、その後はゆっくりと発症半年まで改善すると言われています。
そのため、片麻痺に対しては早期からリハビリを行うことが重要です。
特に下肢の麻痺症状が出現すると歩行することが難しくなり、生活が困難になってしまうことがあるため、早期から理学療法を行うことが必要です。
発症後すぐの理学療法は血圧などの全身状態に気をつけながら、ベッドから車椅子へ離床することから開始します。
麻痺症状が軽い方は早期から歩行練習や下肢の筋力トレーニングなどを積極的に行います。
麻痺症状が重度で自力で立位が取れない方に対しては装具などを使用して、介助下での立位練習や歩行練習を行います。
早期から下肢へ積極的なアプローチを行うことで、脳出血による麻痺の回復の促進と必要以上に安静を強いられることによる筋力低下を防ぐことができます。
(参照サイト:理学療法ガイドライン第2版|日本神経理学療法学会)
理学療法によって運動麻痺が改善しても、今後の再発予防を含めて運動を継続して行うことが重要です。
記憶や認知機能への影響とサポート策
次に、記憶・認知機能障害について解説します。
脳出血などの脳血管障害によって脳がダメージを受けると認知機能障害が起こることがあります。
この症状のことを血管性認知症と呼びます。
血管性認知症の治療は薬物療法と非薬物療法があります。
特に非薬物療法では作業療法士と行う認知刺激や日常動作練習が有効と言われています。
認知刺激では認知機能改善の可能性があることが示されており、過去の研究では認知機能テストの点数が非介入群と比較して上がり、1-3ヶ月間効果が持続したことが報告されています。
さらに繰り返し日常生活動作練習を行うことで日常生活能力が改善し、生活の質や幸福感が改善するとされています。
(参照サイト:認知症治療ガイドライン)
他にも、脳出血による症状として側頭葉や海馬などの部位が脳出血によって障害されると認知機能障害とは違った記憶障害を認めることがあります。
記憶障害は認知症と混同されがちですが、一般的に認知症と違いエピソード記憶の障害と考えられています。
例えば、数分前の発言を忘れてしまったり、物をどこに置いたか分からなくなってしまうなどが挙げられます。
記憶障害の治療はまず環境を整えることから始めます。
環境調整の例としては、収納物にラベルを貼る、必要な行動のチェックリストを利用するなどがあります。
また、生活の工夫としてできるだけ一定のパターンで生活を行い、非日常的なイベントは減らすなどが有効です。
さらに、学習法としてはエラーレス学習を用いることが望ましいとされています。
エラーレス学習とはできるだけ失敗をしないように訓練を行う方法です。
記憶障害者は潜在的な記憶が残りやすいという特性があり、一度失敗をしてしまうとその失敗を繰り返してしまうことが多いと言われています。
そのため、訓練を行う際はできる限り失敗をしないように作業療法士などが一緒に認知訓練や動作練習を行うことが重要です。
(参照サイト:記憶障害のリハビリテーション|J STAGE)
嚥下障害や言語障害を乗り越えるリハビリ
最後に嚥下障害と言語障害について解説します。
嚥下障害とは、食事を行う際の飲み込みに関わる動作に障害が起きることを指します。
脳出血によって脳がダメージを受けると、嚥下に関わる脳からの命令が上手く伝わらず、誤嚥のリスクが高まります。
嚥下障害に対するリハビリテーションは言語聴覚士による直接訓練と間接訓練があります。
直接訓練とは、食形態を工夫し患者が摂取できる方法を工夫しながら実際に食事場面で嚥下を行う訓練方法です。
食事の調整を行うことや代償的な手段を用いる嚥下訓練が、急性期の脳卒中後の患者の接触状況の改善に有効であったと報告されています。
間接訓練は実際には嚥下を行わない訓練方法です。
頭部挙上訓練や嚥下体操、舌の運動などがあり、嚥下障害が重度で直接訓練を行うリスクが高い場合や、直接訓練を行う前のコンディショニングとして行われます。
(参照サイト:嚥下障害のリハビリテーション|J STAGE)
嚥下リハビリテーションは言語聴覚士などの専門家以外が行うと、誤嚥させてしまうリスクも高く、専門的な知識が必要な分野です。
しかし、言語聴覚士によって行われる嚥下リハビリテーションは患者の生活の質を上げることができ、摂食が進むことで他のリハビリテーションの効果も得られやすくなります。
そのため、嚥下障害に対するリハビリテーションは非常に重要です。
言語聴覚士が関わる障害として、他には言語障害が挙げられます。
言語障害は前頭葉や側頭葉が脳出血によってダメージを受けることで発症し、言葉の理解や表出が行いづらくなります。
言語障害に対しては、簡単な言葉でのコミュニケーション方法の確立を行ったり、短文から話せるように少しずつ難易度を上げながら会話の練習を行います。
言語障害の改善には時間がかかりますが、リハビリテーションで少しずつ改善すると言われているため、諦めずに継続することが重要です。
まとめ
この記事では脳出血による障害とリハビリの選択肢について解説しました。
脳出血では片麻痺などの運動機能障害、認知機能障害や記憶障害、嚥下障害や言語障害などの症状が出現することがあります。
それぞれに対して、理学療法、作業療法、言語療法を行うことでリハビリテーションを進めることが重要です
脳出血で神経を損傷してしまった後の脳の治療は確立されていませんが、再生医療にはその可能性があります。
今後、神経再生医療×リハビリテーションの治療の研究は進んでいきます。
私たちのグループは神経障害は治るを当たり前にする取り組みを『ニューロテック®』と定義しました。
当院では、リハビリテーションによる同時刺激×神経再生医療を行う『リニューロ®』という狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療を行なっていますので、ご興味のある方はぜひ一度ご連絡をお願いします。
よくあるご質問
- 脳出血のリハビリにはどんな内容がありますか?
- 運動機能障害を改善し移動動作の確立を目指す理学療法、高次脳機能障害や日常生活動作の障害に対する作業療法、嚥下障害や言語障害に対する言語療法があります。
これらのリハビリを発症早期から行うことが重要です。 - 脳出血後の後遺症はどのようなものですか?
- 脳出血後の後遺症の中で代表的なものは片麻痺、認知機能障害、高次脳機能障害、嚥下障害、言語障害などがあります。
これらの障害は脳出血によってダメージを受けた部位によって、出現する後遺症が変わります。
<参照元>
(1)理学療法ガイドライン第2版|日本神経理学療法学会:
https://cms.jspt.or.jp/upload/jspt/obj/files/guideline/2nd%20edition/p001-106_01.pdf
(2)認知症治療ガイドライン:
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_03.pdf
(3)記憶障害のリハビリテーション|J STAGE:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1963/42/5/42_5_313/_pdf
(4)嚥下障害のリハビリテーション|J STAGE:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/larynx/32/01/32_20/_pdf
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