・サルコペニアとはどんな病気か
・かかりつけ医もしくは地域の医療現場で行う検査と診断
・医療現場もしくは臨床研究施設で行う検査と診断
サルコペニアは、筋肉量の減少から運動機能の低下が進行する病気です。
原因は、加齢や運動不足、栄養状態などが関係していると考えられていますが、脳卒中を患った患者さんにもよくあらわれることが知られています。
サルコペニアが進行すると、生活の質が低下し転倒や骨折、寝たきりといった状態になってしまう可能性が高まり、死に至る危険性さえあります。
症状が進行し重症化すると改善しにくくなってしまうため、出来るだけ早く発見して適切な治療を受けることが大切です。
このブログでは、アジア人に対するサルコペニアの診断基準をご紹介します。
目次
かかりつけ医もしくは地域の医療現場で行う検査と診断
サルコペニアの診断に以前から用いられている方法では、骨格筋量を測定するために専門の装置が必要でした。
しかし2019年にAWGS(The Asian Working Group on Sarcopenia)が新しい診断基準を公表しました。
この診断基準によって、場所を問わず診断できるようになり、医師だけではなく看護師やリハビリスタッフなどでもサルコペニアを発見できるようになったのです。
サルコペニアの初期のスクリーニング項目は下腿周囲長、SARC-F、SARC-CalFによる評価です。
これらいずれかのスクリーニング項目でサルコペニアの疑いがある方は、握力と身体機能の検査を行います。
下腿周囲長を測る
最初に、下腿周囲長(ふくらはぎでもっとも太い部分)を測定します。
男性では34cm未満、女性では33cm未満の方は、サルコペニアの疑いがあります。
さらに簡単な方法として、「指輪っかテスト」があります。
これは実際に長さを測るのではなく、自分の両手の人差し指と親指をくっつけて輪っかを作って、この輪っかの大きさとふとももの太さを比べるテストです。
輪っかよりもふとももの方が細かったらサルコペニアの疑いがあります。
SARC-F、SARC-CalF
SARC-FとSARC-CalFはサルコペニアのスクリーニングツールです。
- S:力の弱さ
- A:歩行補助員の有無
- R:椅子からの立ち上がり
- C:階段を登る
- F:転倒
という5つの質問で構成されています。
この5つに下腿周囲長を加えたものがSARC-CalFです。
下腿周囲長は男性34cm未満、女性33cm未満で10点で、それ以上は0点となります。
SARC-Fは4点以上、SARC-CalFは11点以上でサルコペニアの疑いあり、となります。
質問事項 | 0点 | 1点 | 2点 |
---|---|---|---|
4~5kgのものを運ぶのは? | 全く大変でない | 少し大変 | とても大変/できない |
部屋の中を歩くのは? | 全く大変でない | 少し大変 | とても大変/できない |
椅子やベッドからの立ち上がりは? | 全く大変でない | 少し大変 | とても大変/できない |
階段を10段あがるのは? | 全く大変でない | 少し大変 | とても大変/できない |
この1年で転倒した回数は? | なし | 1~3回 | 4回以上 |
握力測定と身体能力検査
初期スクリーニング項目でサルコペニアの疑いがあると判断された方は、握力測定か身体能力検査を行います。
握力は、男性28kg未満、女性18kg未満で筋力が落ちているとみなされます。
筋力がこれ以上落ちると、日常生活を送る上で支障を感じるようになる可能性があります。
身体能力検査は、5回椅子から立ち上がるテストを行います。
椅子に座っている状態から立ち上がってもう一度座るという動作を5回繰り返します。
この動作に12秒以上かかった方は、身体能力が落ちているとみなされます。
急性期から慢性期までの医療現場もしくは臨床研究施設で行う検査と診断
骨格筋量が測定できる医療施設では、DXA法やBIA法で骨格筋量を測定しサルコペニアの診断を行います。
また、身体機能検査として、5回椅子立ち上がりテスト以外に6メートル歩行テスト、SPPBツールによる評価を行うことも可能です。
筋力低下を調べるため、握力を測定することはかかりつけ医で行う検査と同じです。
DXA法とBIA法
DXA法は、吸収率が異なる2種類の異なるX線を使って骨格筋量を測定する方法です。
X線を使用しますが、被爆量はわずかで靭帯への影響は少ないと考えられています。
しかし、測定装置が高価で広い設置スペースが必要であるため、限られた医療施設にしか設置できません。
BIA法は、組織の電気抵抗値を計測することで骨格筋量を測定する方法です。
水分が多い筋肉組織では電気抵抗が低く、水分が少ない脂肪組織や骨では電気抵抗が高いことを利用して骨格筋量を測定します。
人体への侵襲性が少なく短時間で測定でき、測定装置の持ち運びも可能です。
DXAは男性7.0kg/㎥未満、女性5.4kg/㎥未満、BIAは男性7.0kg/㎥未満、女性5.7kg/㎥未満でサルコペニアと診断されます。
6メートル歩行テストとSPPBツールでの評価
6メートル歩行テストは、6メートル歩いたときの歩行速度が1.0m/s未満(男女共通)だとサルコペニアの疑いありとなります。
SPPBは、簡易身体機能評価法です。
閉脚立位、セミタンデム立位、タンデム立位の順に各10秒間保持するバランステストと4m歩行時間、椅子からの5回立ち上がりテストを行います。
バランステストは全て出来た場合4点、セミタンデム立位までは2点、閉脚立位までは1点、全くできなかったら0点です。
4m歩行にかかった時間が、4.82秒未満は4点、4.82~6.21秒は3点、6.21~8.70秒は2点、8.71以上は1点、歩けなかった場合は0点です。
椅子からの5回立ち上がり時間は、11.20秒未満は4点、11.20~13.69秒は3点、13.70~16.69秒は2点、16.70秒以上は1点、できなかった場合は0点です。
この3つのテストの合計得点が9点以下でサルコペニアの疑いありとなります。
サルぺニアの重症度の分類
サルコペニアは、骨格筋量の低下に加えて筋力の低下もしくは身体機能の低下が認められる方が該当します。
重症サルコペニアは、骨格筋量の低下、筋力の低下、身体機能の低下全てが認められる方が該当します。
重症度を知ることは、治療方針や回復目標の設定に利用されています。
まとめ
サルコぺニアの診断基準をご紹介しました。
サルコペニアは進行してしまうと改善するのが難しくなってしまうため、早期発見は非常に大切です。
下腿周囲長測定や握力測定、5回椅子からの立ち上がりテストなどは自宅でもできるため、この診断基準を知っていればひとりでも行えます。
その結果、サルコペニアの可能性があったら医療機関に行き、適切な指導や治療を受けるようにしましょう。
よくあるご質問
- サルコペニアの診断はかかりつけ医でもできますか?
- はい。
サルコペニアの診断に以前から用いられている方法では、骨格筋量を測定するために専門の装置が必要でしたが、2019年に発表された新しい診断基準によって、場所を問わず診断できるようになりました。 - サルコペニアが重症化した場合どんな症状が出ますか?
- 骨格筋量の低下、筋力の低下、身体機能の低下が見られます。
また、筋力の低下に伴い転倒や骨折を起こし、寝たきり状態になるリスクがあります。
関連記事
このページと関連のある記事
2024.08.01
廃用症候群は簡単な運動で予防出来る?!
脳卒中を発症すると何かしらの後遺症が残りやすく、発症前よりも運動機会が減ってしまう方が大半です。臥床時間が長くなると廃用症候群が進んでしまうことも珍しくありません。そのため、意識的に体を動かす習慣をつけることが大切です。この記事では姿勢別にリハビリ運動をまとめ、片麻痺等がある方でも安心して出来る運動...
コメント