・左片麻痺の歩行障害のリハビリテーション
脳卒中の代表的な後遺症に片麻痺があり、片麻痺による歩行障害はADLやQOLに大きく関わります。
特に左の片麻痺では、注意障害や注意障害などの高次脳機能障害を合併することがあり、リハビリが思うように進まないこともあります。
この記事では左片麻痺の歩行障害のリハビリテーションについて解説します。
目次
左片麻痺の歩行障害
運動障害
片麻痺とは脳の損傷(脳卒中、外傷、腫瘍など)により、左右どちらかの手足が動かしにくくなる障害です。
主に錐体路という運動神経伝導路が障害を受けることにより生じます。
脳の損傷の部位・程度により片麻痺の重さは異なり、全く動かせない状態から、共同運動と呼ばれるような部分的に動かせる状態、健側とほとんど変わらない程度にまで動かせる状態など様々です。
片麻痺があると筋肉を効率的に動かすことができなくなるので、歩行障害が出ることになります。
感覚障害
片麻痺ではしばしば感覚障害を合併します。
感覚障害は触覚、痛覚、温覚、圧覚など接触したものを認識できにくくなる表在感覚障害と、位置覚、運動覚といった自分の手足がどこでどうなっているのか分かりにくくなる深部感覚障害に分けられます。
接触したものの情報がないというのは、例えて言えば分厚い靴下を履いている状態に近く、当然歩きにくさに繋がります。
自分の手足の位置、動きがわからないと、足をつく場所がばらばらになったり、降り出す際に反対の足とぶつかってしまうなどが起こります。
筋肉の収縮・麻痺だけでなく、感覚障害も歩行に影響を与えるのです。
歩行能力の改善のためのリハビリテーション方法
ガイドラインでの歩行訓練
脳卒中診療ガイドラインでは、歩行障害のリハビリテーションについて推奨されていることがあります。
まず、頻回に歩行訓練を行うこと(推奨度A)です。
練習を積めば積むほど歩行障害が改善しやすいのはイメージできるでしょう。
1日に2時間を1回を行うよりも、1日30分を4回行う方が、同じ2時間の運動でも高い効果が期待できます。
ガイドラインでは機器を用いたリハビリテーションも推奨されています。
機器とは、バイオフィードバックを含む電気機器、部分免荷トレッドミル、歩行補助ロボット、機能的電気刺激などで、いずれも推奨度はBです。
病院によっては導入していない施設もあるため、自分や家族が受ける際にはどのような機器があるのかをリサーチするのも良いでしょう。
左片麻痺で気をつけること
左片麻痺では高次脳機能障害が合併していることがあります。
高次脳機能障害は程度も症状も人により異なりますが、高次脳機能障害があるかないかでリハビリの進み具合は全く異なります。
注意障害は物事を適切に意識できなくなったり、集中力が持続しなかったりということがあります。
せっかくリハビリの時間をとっても集中できないのであれば意味がありません。
半側空間無視(左)も左片麻痺に合併しやすいです。
その人にとって、世界の半分が認識できない状態で、更にそのことに気がつけません。
左側にある障害物に気が付かなかったり、左側からの介助(片麻痺の介助は麻痺側から行います)が認識できなかったりなどの影響があります。
このような個人差の大きい高次脳機能障害を把握しておかないと、リハビリテーションは勧めにくいです。
また、病院や自宅での生活をするにあたっての環境調整(動線の確保や手すり、段差解消など)も適切に行えません。
家庭でできるリハビリテーション
病院を退院した後でも片麻痺患者さんの生活は続いていき、そのためのリハビリテーションが必要です。
ある動作を達成する場合には、その動作に近い動作を練習すると効果的と言われています。
つまり、歩行障害を減らしたいのであれば、歩行をするのが一番良いのです。
しかし、左片麻痺による歩行障害がある人が一人で歩行練習するのは安全とは言えません。
筋力訓練
家庭でできる筋力訓練でおすすめなのはスクワットです。
スクワットは器具を用いずに、歩行に必要な筋力を鍛えることができます。
手すりや椅子などの支えを用いれば転倒のリスクが減ることも魅力です。
バランス訓練
バランス能力も歩行と強く関係します。
歩行の途中で必ず片足立ちになる時間があることもあり、片足立ちを行うことで良い訓練になります。
何かに捕まって行うと良いでしょう。
また、リーチ動作も有効です。
座った状態や立った状態で前後上下左右に手を伸ばします。
このとき、手だけを動かすのではなく、身体全体を使うことを意識しましょう。
こちらも転倒には十分に気をつけてください。
二重課題トレーニング
左片麻痺で高次脳機能障害がある人は、同時に頭も動かしながら運動を行うのも良いでしょう。
スクワットやバランス練習をしながら、何かを数えてみたり、周囲のものを呼称してみたり、クイズを行ってみたりなどがあります。
頭を使っている間でも動きを止めない、不安定にさせないのがコツです。
一人でやるのは難しいかもしれないので、きちんと見てくれる人がいると良いですね。
まとめ
この記事では左片麻痺の歩行リハビリテーションについて解説しました。
左片麻痺は注意障害や半側空間無視を合併することが多く、歩行動作のリハビリに難渋することもあります。
脳卒中により左片麻痺が出た人はほぼ全員がリハビリテーションを行うこととなりますが、どうしても後遺症が出てしまう人はいます。
当院ではニューロテック®という「神経障害は治るを当たり前にする取り組み」を行っています。
取り組みの中の一つであるリニューロ®では、同時刺激×神経再生医療™、骨髄由来間葉系幹細胞を用いて狙った脳や脊髄の治る力を高めた上で、神経再生リハビリをおこなうことで神経障害の軽減を目指しています。
エビデンスをキャッチしながら、今と未来の患者さんに医療を提供していきたいものです。
よくあるご質問
- 片麻痺になると歩行できないのはなぜですか?
- 片麻痺がある状態は痙縮や筋出力の低下があり、歩行に必要な筋力を発揮しにくくなります。
また、感覚障害があると接地がわからなかったり、反対側の足にぶつけてしまったりなどして歩行がしにくくなります。 - 歩行訓練にはどんな種類がありますか?
- 歩行訓練には、自由歩行訓練、介助歩行訓練、ロボットや免荷装置を使った訓練などがあります。
屋内か屋外か、装具などの補助具を用いるか、整地か不整地かなどで訓練の難易度が異なります。
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<参照元>
・脳卒中治療ガイドライン2021:
https://www.kk-kyowa.co.jp/stroke2021/
・脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/37/1/37_129/_pdf
・脳卒中後遺症の歩行獲得に向けた理学療法:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/40/8/40_KJ00009392320/_pdf
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