・脊髄損傷のリハビリテーション
・回復期リハビリテーション病棟と脊髄損傷
・脊髄損傷患者のADL
脊髄損傷は対麻痺・四肢麻痺、膀胱直腸障害などの重い後遺症があり、その後の人生に大きな影響を与えます。
受傷後に日常生活をできるだけ安全に行うためには、急性期から安定期までリハビリテーションが重要です。
この記事では、脊髄損傷と回復期リハビリテーションについて解説します。
脊髄損傷後遺症の概要
脊髄は脳から末梢神経の間を繋ぐ役割を持つ、脊椎の中にある中枢神経です。この脊髄が何らかの原因により障害を受けた状態を脊髄損傷と呼びます。
手足の麻痺や排尿障害・排便障害、感覚障害が主な後遺症です。損傷された部位より以下ですべての機能が失われる完全麻痺と、一部の機能が残存する不全麻痺に分けられます。近年では高齢者が転倒することで生じる、中心性脊髄損傷(上肢に優位な障害がでる不全麻痺を呈する)が増えています。
障害の評価にはFrankelの分類とASIAの機能障害尺度が有名です。
日常生活動作の獲得
これまでの知見の積み重ねにより、完全麻痺では損傷高位により日常生活自立度の上限が推定されやすくなりました。
具体的には以下の通りです。
C4:電動車いす、全介助
C5:車椅子、自走が一部できる
C6-7:車椅子ベースで日常生活動作の自立が見込める
Th1-10:上肢はおよそ正常に動かすことができるが、歩行はできず車椅子
Th11:長下肢装具で杖歩行の可能性がある
L1以下:短下肢装具で歩行の可能性があり、一部実用的な歩行も見込める
不全麻痺の場合は上記よりも高い機能に到達する可能性があります。
回復期リハビリテーション病棟について
上記のような日常生活動作が見込めるといっても、リハビリテーションを行わずに自動的に到達するということはありません。
中でも回復期リハビリテーションは今後の生活において重要です。回復期リハビリテーション病棟は脳卒中や脊髄損傷などの対象疾患がある場合に、急性期以降のリハビリテーションを行うことが可能な病棟です。
上限は脊髄損傷では150日(重度の頚髄損傷の場合は180日)と定められています。脊髄損傷の神経症状に回復が起きるのは受傷後6-9ヶ月までと言われていますので、回復期リハビリテーション病棟の期間をどれだけ充実させるかが鍵になるでしょう。
単なる身体の訓練だけでなく、排泄方法の管理や車椅子の選定、サービスや在宅環境の調整などを行い、患者さんの退院後の生活の基盤を固めます。
歩行可能性の評価
先述したように完全麻痺の場合には損傷高位によって歩行の可否が明確になります。まず重要なのは損傷高位を正しく評価することです。
評価にはASIAの機能障害尺度が具体的に診断できるので良いでしょう。
不全麻痺の場合には損傷高位だけでなく、筋緊張や感覚障害もしっかり評価を行います。
中でも増えつつある中心性脊髄損傷は、四肢の不全麻痺で予後が推定しにくく、高齢者や併存疾患により更にリハビリテーションが難渋することもあります。
不全麻痺の場合、歩行自立、屋外歩行の可否の予後因子としてASIAの機能障害尺度や、寝返りができるか、FIMの認知機能、受傷時の年齢、早期の立位が可能かが報告されています。
上肢筋力増強訓練の重要性
脊髄損傷で下肢が不自由になってしまった場合に、上肢の機能はより重要となります。
食事や更衣、整容では強い筋力を発揮する場面は少ないですが、車椅子を実用的に使用する場合には上肢の体力が必要になります。
また、完全対麻痺の場合、座面から車椅子に乗り込んだり、移乗したりする際は上肢で体全体の移動を行わないといけません。
改造した自動車の運転をする際には、車椅子を自身で車内に積み込む必要があります。
よって、上肢の筋力増強訓練はバイタルサインが安定した急性期から、回復期・維持期に至るまで常に重要です。
まとめ
この記事では脊髄損傷の回復期でのリハビリテーション、予後について解説しました。
脊髄損傷は手足の麻痺や膀胱直腸障害など、例え軽微であってもその後の人生に大きな影響を与えます。
受傷してしまった際はしっかりとしたリハビリテーションが重要です。
回復期リハビリテーションにより何とか日常生活が行えるようになった方でも、後遺症に全く悩まないという人はいないでしょう。
脊髄損傷後遺症に対しては、かつてはリハビリや対症療法を行うしかありませんでした。
近年では再生医療の発展により根本的な治療も期待されています。
当院では脊髄損傷後遺症・脳卒中後遺症の方に対し、ニューロテック®という『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』を行っています。
その中のリニューロ®は、同時刺激×神経再生医療、骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリで構成され、「狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める」ことを目標とします。
今後も当院では医療の発展に注目しながら、目の前の患者さんの後遺症を減らすための工夫に取り組んで行きます。
よくあるご質問
回復期リハビリテーションの重要性とは?
急性期の治療が終わってもすぐさま自宅や施設に退院できる人ばかりではありません。
回復期リハビリテーション病棟は対象疾患(脳卒中や骨折後など)に対して、日常生活動作(ADL)を上げるのに重要です。
回復期リハビリのメリットは?
回復期リハビリテーション病棟は脳卒中や脊髄損傷、運動器疾患などの対象疾患に対してリハビリテーションを行う病棟です。一般的に急性期病院よりもリハビリテーションの時間が多く、サービスや環境の調整に時間をかけられることがメリットです。
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<参照元>
・日本脊髄外科学会HP「脊髄損傷」:
http://www.neurospine.jp/original62.html
・脊髄不全損傷者の歩行能力の予後予測に関する研究:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/42/3/42_KJ00009989976/_pdf
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