水頭症の運動機能の障害とそのリハビリ方法
認知機能障害とその対応方法
排尿障害の特徴と日常生活の工夫
水頭症とは脳の中にある脳室と呼ばれるスペースに脳脊髄液が過剰に溜まってしまい、脳室が拡大してしまう疾患です。
高齢者に多く発症し、日常生活動作に影響を及ぼします。
3大徴候として歩行障害、認知機能障害、排尿障害があります。
この記事では水頭症の3大徴候とその対応方法やリハビリ方法について解説します。
運動機能への影響:歩行障害やバランス感覚の低下
水頭症では高頻度に歩行障害を認め、国内では91%に歩行障害を認めると報告されています。
歩行障害は小刻み、すり足、脚を開いて歩くワイドベースと呼ばれる歩容で、一見するとパーキンソン症候群と似ている症状です。
しかし、水頭症ではパーキンソン症候群と違い振戦が起こらない点や掛け声での改善を認めにくい点で鑑別をすることができます。
水頭症の検査で臨脳脊髄液排除試験(CFS tap test)と呼ばれるテストを行う場合は事前に歩行状態の確認を行います。
具体的には10m歩行やTimed up and go test(TUG)というバランステストを行い、CFS tap test後に再度検査を行います。
この際に10%以上の検査時間の短縮を認めると手術の適応があるとされています。
水頭症を発症してしまうと、歩行能力が高確率で低下してしまいますが、その結果として日中の活動性が低下しているとの報告もあります。
また、水頭症は高齢者に多く、元々筋力が低下してしまっている状態に歩行障害が加わってしまうため、転倒のリスクが高くなりやすいことも特徴です。
水頭症のこれらの症状はCFS tap testが陽性であった場合にシャントを作成する手術を行うことで改善が期待できます。
また、手術の施行の有無に関わらずリハビリテーションを行うことは重要です。
水頭症のリハビリテーションは歩幅を増やすためのステップ練習、台またぎ練習、すり足の改善目的に手すりなどの支持物を使用した下肢挙上練習、ふらつきの改善を目的としたバランス練習を行います。
さらに訪問リハビリテーションなどを利用して屋外歩行練習を行い、活動量を増やすことも重要です。
反復してこれらの練習を行うことで転倒のリスクを減らし、生活での活動量を上げることで水頭症の症状だけでなく、不動による廃用症候群の改善を行うことができます。
認知機能への影響:記憶力や判断力の変化
水頭症の認知機能の低下は80%に認めると報告されています。
水頭症における認知機能の低下は精神運動速度の低下、ワーキングメモリーの低下、語想起能力の障害などの前頭葉症状から障害を認めます。
重症化してしまうと全体的な認知機能が低下します。
アルツハイマー型認知症との鑑別は、被害妄想や失認・失行がないことが挙げられますが恒例の患者が多いため、アルツハイマー型認知症を合併している方も多いことに注意が必要です。
CFS tap testを行う際はMini Mental State Examination(MMSE)と呼ばれる認知機能検査を事前に行います。
脳脊髄液を排出した後にMMSEの点数が3点以上改善すれば検査は陽性と判断されます。
水頭症には有効な薬物療法はないため、基本的には認知機能の障害に対しても手術療法のみが根本的な解決に有効な方法です。
そのため、リハビリテーションにおける認知機能に対する目的はできるだけ現状の認知機能を落とさないようにすることと生活環境を整え、日常生活を送りやすくすることになります。
リハビリテーションでは認知機能訓練や認知リハビリテーションなどを行います。
認知機能訓練とは、紙面やコンピューターなどを用いて個々の能力に合わせて課題を行う治療方法です。
認知リハビリテーションとは個別にゴールを設定し、理学療法士や作業療法士がそのゴールを達成するための運動療法や日常生活動作練習などを行うことです。
個別のゴールは基本的に日常生活動作の改善を設定します。
水頭症の認知機能低下は手術療法が有効ですが、リハビリテーションでの進行予防や家族などの環境への働きかけで日常生活を維持・改善することができます。
排尿障害などの自律神経系への影響と対策
水頭症における排尿障害は60%に認められます。
基本的には過活動膀胱になりやすく、頻尿、人によっては夜間の頻尿が問題になる方がいます。
しかし、患者は高齢者が多く男性では前立腺肥大症、女性では骨盤底筋群の筋力低下によって排尿障害を認めることが多く、原因が水頭症か鑑別することが難しいとされています。
水頭症では初期のころは尿意を感じてもトイレまで間に合わないことが増えていきますが、重症化するとそもそもの尿意を感じなくなり失禁します。
CFS tap testでは失禁の頻度が改善するかどうかを判別します。
リハビリを行うことで過活動膀胱を改善することは難しいですが、日常生活の工夫としてトイレに行く時間を決めることやおむつを着用することも日常生活を少しでも快適に過ごすための方法です。
まとめ
この記事では水頭症の後遺症と日常生活について解説しました。
水頭症では3大兆候として歩行障害・認知機能の低下・排尿障害があり、それぞれに対して日常生活を工夫することで体力や認知機能の維持・改善効果が期待できます。
水頭症でシャント術が有効でなかった場合の脳への根本的な治療方法は確立されていませんが、再生医療にはその可能性があります。
今後、神経再生医療×リハビリテーションの治療の研究は進んでいきます。
私たちのグループは神経障害は治るを当たり前にする取り組みを『ニューロテック®』と定義しました。
当院では、リハビリテーションによる同時刺激×神経再生医療を行う『リニューロ®』という狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療を行なっていますので、ご興味のある方はぜひ一度ご連絡をお願いします。
よくあるご質問
- 水頭症の後遺症で障害になるものは何ですか?
- 水頭症の後遺症として歩行障害・認知機能障害・排尿障害があります。
どの障害も日常生活に影響を与えるものですが、リハビリテーションや生活環境を整えることで維持や改善を期待することができます。 - 水頭症は寿命に影響しますか?
- 水頭症は治療をせずに放置すると寿命が短くなってしまいます。
水頭症が疑われた際に適切な治療を行うことによって症状を改善し、予後を良くすることは可能です。
また、治療効果があったか、別の疾患を持っていないかなどが寿命に影響するため、水頭症の有無のみで予後がどれくらいかは判断が難しいです。
<参照元>
(1)第7回障害者総合支援法対象疾病検討会資料:厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000960309.pdf
(2)特発性正常圧水頭症:臨床症候群として:https://www.jstage.jst.go.jp/article/neuropsychology/36/3/36_17091/_pdf/-char/ja
(3)特発性正常圧水頭症の治療におけるリハビリテーションの役割と問題点:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/16/5/16_KJ00004580130/_pdf/-char/ja
(4)特発性水頭症の診断と治療:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/12/100_3640/_pdf/-char/ja
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