iPS細胞で治すことのできる病気とできない病気 | 脳卒中・脊髄損傷|麻痺痺れなど神経障害を再生医療×同時リハビリで改善

iPS細胞で治すことのできる病気とできない病気

           

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012年に山中伸弥先生がノーベル生理学・医学賞を受賞した、日本発の大発見。
新しい治療法や薬剤の開発、治療法が確立されていない難病の原因解明に新たな道を開きました。
また、2021年6月28日に、慶應大学が”iPS細胞”を使って「リハビリ以外に有効な治療法がない」とされている「脊髄損傷を治療する」とした世界初の臨床研究で患者の募集を始めたと発表しています。
今のところ、5年もするとガン化すると言われている「iPS細胞」なので驚きの発表でした。
そうしたニュースもあったので、今回は”iPS細胞”について掘り下げます。

iPS細胞とは

“iPS細胞”とは、induced pluripotent stem cellの略で、「人工多能性幹細胞」のことをいいます。
山中先生は2006年にはマウスでのiPS細胞作製を、2007年にはヒトiPS細胞作製を報告しています。
ヒトの体は、実に37兆個の細胞でできているといわれています。
そして人体を形作る細胞には、皮膚の細胞や筋肉・神経・血液の細胞など様々な種類があり、その数は270種類にもなるといいます。
これらはすべて、見た目も働きも異なるものです。
その「もと」になるのは、一つの受精卵です。
受精した卵子は、細胞分裂を繰り返すとともに、それぞれが独自の機能をもつような細胞に変化していかなければなりません。
これを、「分化」といいます。
一度分化した細胞は、元に戻ることはできません。
後に分化して様々な種類の細胞になることができる細胞、それを「幹細胞」といいます。
幹細胞にも種類がありますが、多くの種類の細胞に分化できる幹細胞の性質を「多能性」といいます。
山中先生の研究グループは、わずか4つの遺伝子を皮膚細胞(線維芽細胞)に導入することで、多能性をもつ幹細胞を作り出しました。
これは、一度分化した体の細胞を分化する前の状態(未分化)に戻すという「脱分化/リプログラミング」に関する画期的な発見となりました。
この”iPS細胞”をどのように医療へ利用していけるのでしょうか。

iPS細胞で治すことのできる病気とまだできない病気

iPS細胞は、理論上身体を構成する細胞であればどのような細胞へも分化できます。
またほぼ無限に増殖する能力をもっています。
この特徴を生かし、主に2つの目的で医療に応用されます。

iPS細胞から細胞や組織を作り出し、病気やケガで欠損、または機能が低下した部位に移植して本来の機能を取り戻すように治療する、いわゆる「再生医療
病気にかかっている患者さんの細胞からiPS細胞を作り、その病気を治すための薬を研究開発する「iPS創薬
です。

再生医療の例として最も実用化に近いと言われているのは、加齢でものが見えにくくなる「加齢黄斑変性」という眼(網膜)の病気に対する治療です。
進行してしまった場合、網膜を取り替えることはできないので、現時点では有効な治療法がありません。
そこで網膜の中心部にある黄斑という部分をiPS細胞で作って移植するというものです。
2014年に第1例目の移植治療が実施され、その安全性が確認されつつあります。
iPS創薬の例としては、進行性骨化性線維異形成症(FOP)という希少難病に対しての治療薬開発が進んでいます。
FOPは、筋肉や腱、靱帯など本来できてはいけないところに骨ができてしまい動きが障害されてしまう病気です。
患者さんの組織をとって研究できればいいのですが、組織採取の刺激によって症状が悪化することがあり簡単ではありません。
そこで、iPS細胞の出番です。
皮膚や血液の細胞であれば負担が少なく採取でき、それらの細胞からiPS細胞を作ります。
そのiPS細胞を培養し増やすことでFOPの病状を再現し、異常な状態になる原因を詳しく調べたり、薬剤の効果を試験したりすることができるようになります。
一方で、iPS細胞が何にでも応用可能あるいはどんな病気でも治せるとは限りません。
昔から、脳は一度損傷を受けると再生しないと言われてきました。
脳の中でも、記憶の形成などは大きな謎の一つでもあり、治療の段階に至るには未だ長い道のりが必要だと考えられています。
しかし脳の病気でも、パーキンソン病や脳梗塞に対する再生医療は広く研究されており、その可能性は広がり続けています。

iPS細胞 利点と問題点

再生医療に使用される幹細胞は数種類が存在

iPS細胞 マウス実験
iPS細胞はその中の一つ、という位置づけになります。
その中でiPS細胞の優れた点、それは自らの体から作り出すことができるということです。
iPS細胞自体、またはiPS細胞から作り出した組織や臓器などを移植する場合、自らの細胞そのものですので拒絶反応が起こりません。
また、自らの体から取り出すことのできる幹細胞に体性幹細胞という細胞がありますが、これと比較した場合、分化する能力(多能性)がiPS細胞の方が優れている、という点も利点の一つです。
一方で、iPS細胞には細胞分裂を繰り返す際に腫瘍(がん)が発生する恐れがあります。
iPS細胞の導入に用いられる因子のうち、c-Mycという因子は細胞増殖に必要なものですが、これは様々なガン細胞で活性化していることが知られているガン遺伝子です。
実際にiPS細胞を移植されたマウスに腫瘍が併発する例が報告されています。
この問題を解決するため、c-Mycを使用しないiPS細胞の作製法についてなど、日々研究が行われています。
また、iPS細胞がもつ多能性は倫理的な問題を新たに引き起こす可能性があります。
理論上はどの細胞にも分化できる訳ですから、精子・卵子になり新たな命を生み出すことができるかもしれません。
また、クローン人間の誕生、といったことも全くのおとぎ話ではなくなってきています(もちろんクローン技術には厳しい規制があります)。

iPS細胞治療の現状

実際に研究が進んでいるiPS細胞を利用した医療について解説

再生医療

加齢黄斑変性:2014年に行われた移植手術の術後約5年が経過し、安全性に問題がないことが確認されています。
2017年には他人のiPS細胞由来の細胞を用いた手術が5人に行われ、1人で拒絶反応がみられたものの、他では順調な経過です。
iPS細胞による再生医療では最も進んでいるといってよい分野です。
パーキンソン病:ドーパミンという物質を出す神経細胞の減少や変性が原因と考えられており、根本的な治療法がありません。
そこで、iPS細胞由来の神経細胞を脳に直接注入する方法が考案され、2018年10月に1例目の手術が行われました。
2年を目安に安全性の確認と有効性の評価が予定されています。
重症心不全、心筋症:機能が低下してしまった心臓の筋肉は、元の機能を取り戻すのが困難です。
そこで、iPS細胞から心筋細胞を大量に作製して、シート状にして心臓に移植する方法が考案され、2020年1月に1人目の手術が行われました。
現在までに3人の患者さんが手術を受けています。
血小板減少症:血小板を輸血しても異物として攻撃してしまい、血小板が増えない患者さんに対して、自らのiPS細胞から作製した血小板を輸血する方法です。
自らの細胞なので破壊されずに残ることが期待されています。
1人に対しての臨床研究が終了しています。
他にも、脊髄損傷や軟骨損傷、角膜疾患に対する臨床試験が承認されていますし、基礎研究の段階ではあらゆる分野でiPS細胞の応用が試みられています。

iPS創薬

難病患者さんからiPS細胞を作製し、それを元に薬剤治療が研究され、下記のような難病に対して臨床応用が開始されています。

脊髄性筋萎縮症
進行性骨化性線維異形成症(FOP)
ペンドレッド症候群
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
その他
免疫細胞によるがん治療:iPS細胞をがんの治療に応用する動きが始まっています。
健康な人の血液からがんを攻撃する免疫細胞の一種(NKT細胞)を取り出し、それからiPS細胞を作製。
増殖させたiPS細胞をNKT細胞に分化させ、患者に投与するという方法です。
2020年10月1人目の治療が開始されています。

以上のように、iPS細胞に関する医療応用はめざましい発展を遂げています。
しかし、これらの研究には膨大な費用がかかります。
また、患者さん自身の細胞からiPS細胞を作製するのにも膨大な時間と費用がかかるという現状があるそうです。
山中先生は「医学研究のゴールは画期的な治療法を“低価格”で提供すること」と述べており、新たな動きとして、免疫拒絶反応を起こされづらい性質をもった健康なボランティアから提供を受けて、iPS細胞のストックを開発することに注力しているそうです。
日常診療の選択肢の一つとして、iPS細胞による治療が受けられる日が来るのもそう遠いことではないかもしれません。

ES細胞とiPS細胞の違い

ES細胞とは「胚性幹細胞」という細胞のこと

胚性幹細胞
iPS細胞と同じく、多能性を有する幹細胞です。
iPS細胞よりも少し歴史は古く、1998年にはヒトのES細胞(embryonic stem cell)が樹立されています。
ES細胞は、受精卵が胎児になるプロセスで、分裂が始まった後の胚盤胞(はいばんほう)の中にある細胞を取り出して培養されたものです。
多能性を有し、ほぼ無限に増殖することができるため、iPS細胞と同じく再生医療研究の中心的役割を果たしています。
問題点としては、受精卵を破壊し取り出すという工程のため、倫理的問題を常に含んでいることがあります。
また、受精卵である限り自分自身のES細胞を作り出すことは不可能であるため、移植するときに拒絶反応が起こりえるという課題があります。
その点、iPS細胞はES細胞がもつ倫理的問題、拒絶反応をクリアすることのできる細胞といえます。
以上、iPS細胞について解説しました。
再生医療の世界は日進月歩です。今日できなかったことが明日できるようになっているかもしれません。
引き続き、注目していきましょう!


貴宝院 永稔【この記事の監修】貴宝院 永稔 医師 (大阪医科薬科大学卒業)
脳梗塞・脊髄損傷クリニック銀座院 院長
日本リハビリテーション医学会認定専門医
日本リハビリテーション医学会認定指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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コメント

    • 佐藤 圭
    • 2022.04.22

    初めまして宜しくお願い致します。
    私の知人(75歳)この数年歩行困難になり医師からパーキンソン予備軍と診断されました。今のところ歩行のリハビリをしていますが何か良い方法はないでしょうか?
    宜しくお願い致します。

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