・半側空間無視は脳損傷によって反対側の空間認識が欠ける状態であり、患者は気づかないことが多いことがわかる。
・プリズムメガネ、VR技術、薬物療法など、多様な治療法が存在し、リハビリとしてはそれぞれが効果的であることがわかる。
・薬物療法にはドパミン系やノルアドレナリン系の薬物が使用されているが、効果には限界があり、個々の患者による反応が異なることがわかる。
半側空間無視は脳損傷による空間認識障害です。
リハビリテーションには、プリズムメガネやVR技術を活用した視覚トレーニング、さらには薬物療法が有効です。
これらの方法は、個々の患者の症状や状態に応じて組み合わせ、効果的に空間認識を改善します。
患者の早期の社会復帰を目指し、最新のリハビリ機器やアプローチが活用されています。
目次
半側空間無視に効果的な視覚トレーニングやリハビリ機器
半側空間無視とは、大脳半球が損傷した際に、反対側の体に与えられた刺激に気づいたり、反応したり、その方向に向いたりすることが障害されている病態のことです。
特に、右半球を損傷した際に報告が多く、特に急性期で70〜80%程度、慢性期で40%程度、左半球損傷による右半側空間無視は0〜38%程度と言われています。
半側空間無視の症状としては、日常生活の場面で「左側の障害物にぶつかる」「食事で左側にあるものを残す」「道に迷う」などの症状が起こります。
患者さんの訴えとしては、「左足が上がらずつまずく」「食事が少ない」「新聞が読めない」というような、無視が起こっているとは直接わからないような表現をする場合があります。
つまり、患者さんの多くは自分が半側空間無視になっているとは気づいておらず、道上生活で遭遇するさまざまな不都合が無視と結びつかないのです。
さて、半側空間無視は脳損傷患者のリハビリにおいて重要な機能予後増悪因子となります。
そこで、さまざまなリハビリテーション手法が試みられています。
聴覚や視覚などの手がかりによって、自分から空間探索を促すTop-downアプローチと、受動的な刺激により無意識に無視側へ注意を向ける、Bottom-upアプローチに分けられます。
最近では、プリズム適応療法や、頭頂葉後部(posterior parietal cortex、以下 PPC)への刺激療法であるTMSが有望とされています。
プリズムメガネで視界を調整!視覚リハビリテーション
プリズムメガネは、半側空間無視のリハビリテーションにおいて視覚補助として有効なツールです。
このメガネは視界を補正することで、無視されている側の空間認識を改善し、日常生活の中でよりバランスの取れた視覚情報を脳に提供します。
プリズムメガネの使用により、半側空間無視の患者は無視していた領域を視認しやすくなり、食事や歩行、物を取るといった行動の正確さが向上すると報告されています。
研究では、特に左側を無視するケースで効果が高く、右半球の脳損傷患者に多く見られるこの障害に対して有効なリハビリ手段となっています。
プリズムメガネを用いたリハビリは、長期間の使用によって効果が持続することも期待されており、繰り返しの訓練で視覚情報処理の再構築が進むことが示唆されています。
ただし、全ての患者に即効性があるわけではなく、個々の状況に合わせた適切な訓練が必要です。
メガネの使用による改善効果が得られるかどうかは、患者のリハビリへの取り組みや、視覚機能の程度に依存しますが、視覚補助を活用したアプローチは今後の治療において重要な位置を占めています。
VRやデジタルツールを活用した半側空間無視のリハビリテーション
近年、仮想現実(VR)やその他のデジタルツールが半側空間無視のリハビリテーションにおいて注目されています。
これらの技術は、患者が安全な環境でリハビリを受けられるようにするだけでなく、現実の生活に近い状況をシミュレートすることで、より効果的なリハビリ訓練を提供します。
たとえば、VR技術を使用した訓練では、患者が無視する側の空間に注意を向けるタスクを繰り返し実行することが可能です。
この訓練により、視覚と空間認識の改善が期待され、結果として日常生活での自立度が向上します。
さらに、デジタルツールを利用したリハビリには、ゲーム要素が取り入れられることが多く、患者が楽しみながら訓練に取り組むことができるのも利点です。
これにより、患者のモチベーションが高まり、長期的なリハビリの継続がしやすくなります。
研究では、VRリハビリを受けた患者が従来のリハビリと比較して、視覚的注意力や空間認識能力が改善したと報告されています。
ただし、技術の普及にはコストや訓練内容の個別化が課題となっており、さらなる研究と実用化が進められています。
薬で改善できる?半側空間無視に対する薬物療法の現状と課題
半側空間無視に対する薬物療法は、リハビリテーションと併用することで一定の効果が期待されるものの、現状ではその効果に限界があることも指摘されています。
主に使用されている薬物としては、ドパミン系やノルアドレナリン系の薬物があります。
これらの薬物は、注意力や空間認識を改善する目的で使用されますが、個々の患者による反応の違いや副作用のリスクも考慮する必要があります。
例えば、ドパミンを増加させる薬物は、無視している側への注意力を増加させる効果があるとされています。
特に、レボドパといったパーキンソン病の治療薬が、半側空間無視にも一定の効果を示すことが報告されています。
一方で、薬物療法の効果は一時的であり、長期間にわたる持続的な改善は見込めない場合が多いです。
また、薬物に対する個別の反応も大きく、全ての患者に同様の効果が得られるわけではありません。
薬物療法は、リハビリテーションと並行して行われることが多いですが、あくまで補助的な役割として位置づけられています。
将来的には、薬物療法の効果を高める新しい治療法の開発が期待されているものの、現時点ではリハビリテーションを中心とした多面的なアプローチが重要とされています。
まとめ
半側空間無視のリハビリには、プリズムメガネやVR技術、薬物療法が有効ですが、効果には個人差があり、特定のアプローチに依存しない多面的な治療が重要です。
半側空間無視は特に、脳損傷の後遺症として重要です。
そうした方のリハビリテーションの効果を高めるため、リニューロ®は、半側空間無視や脳損傷などの神経障害に対し、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療です。
同時刺激と神経再生医療を組み合わせ、狙った神経領域に効果的なリハビリを促進します。
さらに、骨髄由来間葉系幹細胞や神経再生リハビリの併用により、治療効果を最大限に引き出し、より早く、より確実に日常生活に復帰できることを目指しています。
ぜひご興味のある方は、当院までぜひご相談くださいね。
よくあるご質問
- 半側空間無視の治療法は?
- 半側空間無視の治療法には、視覚や聴覚を利用したリハビリテーションがあり、プリズム眼鏡や仮想現実(VR)技術が有効です。
これらの方法は、空間認識を改善し、日常生活での自立度を高めます。
また、薬物療法も併用されることがあり、ドパミン系薬物が使用されます。 - プリズム眼鏡の効果は何ですか?
- プリズム眼鏡は、視界を補正することで半側空間無視の患者が無視している側の空間を認識しやすくし、日常生活での行動や動作を改善します。
特に、歩行や食事などの精度向上に役立つとされています。
<参照元>
・半側空間無視.高次脳機能研究.2008;28(2):214-223.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/28/2/28_2_214/_pdf
・半側空間無視のリハビリテーション ―最近のトピックス―.Jpn J Rehabil Med.2016;53(8):629-636.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/53/8/53_629/_pdf
・Shin JH, Kim M, Lee JY, Kim MY, Jeon YJ, Kim K. Feasibility of hemispatial neglect rehabilitation with virtual reality-based visual exploration therapy among patients with stroke: randomised controlled trial. Front Neurosci. 2023 Apr 20;17:1142663. doi: 10.3389/fnins.2023.1142663. PMID: 37152602; PMCID: PMC10157074.:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10157074/
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