・横断性脊髄炎の症状
・薬物療法と非薬物療法の違い
・横断性脊髄炎のリハビリテーションについて
横断性脊髄炎とは脊髄内の炎症によって脊髄が横断的に障害され、四肢体幹に運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害が起こる疾患です。
運動麻痺や感覚障害などの症状が起こると、日常生活動作が障害され、歩けなくなることもあります。
この記事では、横断性脊髄炎の薬物療法と非薬物療法の違い、リハビリテーションについて解説します。
横断性脊髄炎のリハビリ治療とは
横断性脊髄炎とは、脊髄内の炎症によって脊髄が横断的に障害され、四肢・体幹に運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害が起こる疾患です。
感染や自己免疫疾患が原因であることが多いとされており、治療の選択には原因を特定することが重要とされています。
横断性脊髄炎を発症してしまうと日常生活の動作を行うことが困難になり、中には寝たきりになってしまう方もいます。
また、横断性脊髄炎を発症した後に四肢の麻痺などによって動作が制限され、活動量が低下すると廃用症候群という筋力などの身体機能が低下する障害が起こることがあります。
リハビリテーションは横断性脊髄炎のほとんどの方に行います。
具体的なリハビリテーションの内容は麻痺による筋力低下に対するトレーニングや身体機能の低下による日常生活動作の障害に対する指導などが中心です。
横断性脊髄炎に対するリハビリテーションは神経の障害による身体機能の障害だけでなく、廃用症候群を予防し日常生活を送れるようにすることを目的としています。
薬物療法と非薬物療法の比較
横断性脊髄炎の治療は原因によって変わります。
細菌やウイルスなどの感染がきっかけの髄膜炎が原因で発症した場合は、それぞれに対応する抗生剤や抗ウイルス薬を使用し、感染のコントロールを行います。
多発性硬化症や視神経脊髄炎、MOG抗体関連脊髄炎などが原因で横断性脊髄炎を発症した場合、高容量の副腎皮質ステロイドを使用することが勧められています。
しかし、疾患によっては副腎皮質ステロイドの効果の有効性が証明されていないものもあります。
また、ステロイドに免疫反応を低下させる副作用があるため、横断性脊髄炎と感染症を合併している場合はステロイドを使用することができません。
ステロイドは副作用が多い薬剤として知られており、副作用は頻脈や易感染性、骨粗鬆症などがあります。
副作用がきっかけで心不全や細菌・ウイルス感染、骨折などを発症した場合はステロイドが使用できなくなることがあります。
ステロイドはこのように使用時に注意が必要な薬剤ではありますが、自己免疫疾患を原因とした横断性脊髄炎に対する第一選択薬とされています。
他の治療は非薬物療法として血漿交換療法があります。
血漿交換療法とは血液を取り出し、血漿を抽出した後に代わりの血漿を使用する治療方法です。
日本ではステロイドを使用してもあまり効果がない場合に行うことができます。
血漿交換療法は行える施設が限られており、血圧低下などの副作用が出現することがあります。
横断性脊髄炎に対する薬物療法と非薬物療法は、第一選択として薬物療法のステロイドを使用し、効果がなければ非薬物療法の血漿交換療法を行うという順番になっています。
また、ステロイドや血漿交換療法と並行して非薬物療法のリハビリテーション治療を進めます。
低下してしまった日常生活動作能力はリハビリテーションで改善を目指します。
リハビリテーションの具体的な内容に関しては次の項で解説します。
生活の質を向上させるためのリハビリ方法
上述の通り、横断性脊髄炎の方はリハビリテーションを行うことが一般的です。
リハビリテーションはどのような障害が出ているかを確認することから開始します。
横断性脊髄炎では四肢の運動麻痺や感覚障害、膀胱直腸障害が原因となり日常生活動作能力が低下します。
麻痺の程度によっても変わりますが、発症後に歩行が行えなくなるケースもあります。
そのため、リハビリテーションでは四肢の運動麻痺や感覚障害の状態を評価し、治療の経過を見ながら最終的に歩行の再獲得を目指すのか、日常生活を車椅子で行うのか目標を立てて治療を行うことが重要です。
歩行の再獲得を目指す場合は下肢の筋力トレーニングを行ったり、歩行練習を行います。
歩行練習を行う際に膝にうまく力が入らず、体重を支えることができない場合などには装具やロボットを使用してリハビリテーションを行うこともあります。
日常生活を車椅子で過ごすことを目標にする場合は車椅子への乗り移りの練習や車椅子を漕ぐ練習を中心に行います。
どちらを目指す場合でも目標が低すぎたり、高すぎる場合には途中で目標を変更することがあります。
横断性脊髄炎によって運動が障害されてしまうと、自力で日常生活に戻ることは非常に難しいため、リハビリテーションを行うことは非常に重要です。
まとめ
この記事では、横断性脊髄炎の治療とリハビリの効果について解説しました。
横断脊髄炎の治療は薬物治療としてステロイドの使用を行うことと非薬物治療として血漿交換療法、リハビリテーションがあります。
第一選択としてはステロイドを行いますが、ステロイドの効果があまり得られない際に血漿交換療法を行います。
リハビリテーションは麻痺してしまった四肢トレーニングや歩行練習、人によっては車椅子の練習を行います。
横断性脊髄炎で神経を損傷してしまった後の脊髄の治療は確立されていませんが、再生医療にはその可能性があります。
今後、神経再生医療×リハビリテーションの治療の研究は進んでいきます。
私たちのグループは神経障害は治るを当たり前にする取り組みを『ニューロテック®』と定義しました。
当院では、リハビリテーションによる同時刺激×神経再生医療を行う『リニューロ®』という狙った脳・脊髄の治る力を高める治療を行なっていますので、ご興味のある方はぜひ一度ご連絡をお願いします。
よくあるご質問
- 脊髄炎になると筋力が低下する?
- 脊髄炎になると炎症によって筋肉に指示を出している神経が障害され、筋力が低下します。
神経自体を再生することはできませんが、筋力トレーニングによって筋力を改善することができます。 - 横断性脊髄炎は排尿障害を起こしますか?
- 横断性脊髄炎では神経繊維が横断的に障害されることが特徴です。
脊髄神経が横断的に障害を受けると障害を受けた部位より下の神経に障害が出現します。
排尿をコントロールしている神経は脊髄神経の最も下にあるため、横断性脊髄炎では排尿障害を認めることが多くあります。
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<参照元>
・脊髄損傷者に対するリハビリテーション:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/30/1/30_58/_pdf/-char/ja
・MSDマニュアル 横断性脊髄炎:MSDマニュアル 横断性脊髄炎
・多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023:https://www.neurology-jp.org/files/images/20230317_01_01.pdf
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