後天性痙性対麻痺の原因とメカニズム
麻痺による歩行や生活動作への影響
リハビリテーション方法と環境の工夫の方法
後天性痙性対麻痺とは事故や脊髄梗塞などの疾患によって脊髄が障害が障害が出現する痙性麻痺のことを指します。
両側の下肢の障害を認め、歩行をはじめとした日常生活動作に大きな影響を与えるため、リハビリテーションが重要になります。
この記事では、後天性痙性対麻痺の原因やメカニズム、リハビリテーション方法まで解説します。
後天性痙性対麻痺の主な原因と発症メカニズム
後天性痙性対麻痺とは、生まれ持った障害ではない両下肢の痙性麻痺を認める障害のことをいいます。
痙性対麻痺とは下肢筋が異常に硬くなり上手く力を入れたり、抜いたりすることができない状態のことを指します。
つまり、後天性痙性対麻痺とは元々下肢に障害がなかった方に外傷や疾患などが原因となり、下肢の筋が固くなり思うように動かすことが難しくなる障害です。
発症の原因は外傷による脊髄損傷や脊髄梗塞などの脊髄の疾患で不全麻痺になってしまうことが挙げられます。
脊髄損傷とは事故や転倒などが原因となり脊柱の中を通る脊髄神経を損傷した状態で、損傷した脊髄よりも下にある神経が動かしていた部位に麻痺が出現します。
脊髄梗塞とは脊髄に栄養を運んでいる血管に血栓などが詰まることによって脊髄神経が障害され、下肢などに麻痺が出る疾患です。
脊髄梗塞は心臓血管外科の手術の合併症としての発症が多く、特に大動脈解離や大動脈瘤などの大血管疾患の術後に発症することが多いと言われています。
脊髄損傷と脊髄梗塞で出現する麻痺は完全麻痺と不全麻痺の2種類に分けることができます。
完全麻痺とは障害された高さ以下の感覚や運動機能が完全に消失し、肛門の感覚や排便のコントロールができなくなる状態です。
完全麻痺では弛緩性麻痺という全く力が入らず、筋肉が柔らかくなる麻痺が出現します。
不全麻痺とは障害された高さより下の脊髄が支配している部位の感覚や運動機能の一部が残されていたり、肛門の機能が残存しているなどで脊髄損傷では89%がこの不全麻痺に分類されます
不全麻痺では上述した痙性麻痺が出現します。
そのため、後天性痙性対麻痺とは健常な方が事故による脊髄損傷や脊髄梗塞を発症することによって両下肢の不全麻痺を発症する状態のことを指します。
ちなみに不全麻痺の脊髄損傷や脊髄梗塞でも発症直後に弛緩性麻痺が出現することがありますが、脊髄ショック期という時期を過ぎると多くが痙性麻痺へ移行します。
後天性痙性対麻痺が出現すると、歩行が困難になるなど日常生活に大きな影響を与えます。
そのため、リハビリテーションを行ったり、社会資源を利用して生活環境を整えるなどの支援策を行うことが重要です。
歩行障害の特徴と日常生活への影響
後天性痙性対麻痺では障害の程度で差はありますが、多くが歩行障害や日常生活動作の障害を認めます。
痙性麻痺では歩行の際に下肢に異常な力が入りやすく、特徴的な歩容になります。
特に問題になりやすいのはStiff knee patternと足部の引っ掛かりです。
Stiff knee patternとは直訳すると「硬い膝のパターン」です。
このStiff knee patternとは下肢に体重が乗っている時に膝が伸び切って曲がらなくなった状態です。
原因は膝を伸ばす筋肉の筋力低下や筋肉の動きの切り替えが上手くできないことです。
膝が伸び切った状態が続いてしまうことで歩行の効率が落ち体力を余分に使ってしまうだけでなく、歩行速度も低下します。
足部の引っ掛かりは麻痺している下肢を前に出す際に膝が上手く曲がらないことや、足部の力が抜けず尖足になってしまうことが原因で見られます。
歩行中に引っ掛かりが出現すると前方への転倒の原因となります。
そのため、リハビリテーションで歩行練習を行ったり装具を使用して歩容を改善することが重要です。
歩行に影響が出るだけでなく、下肢を使用する他の日常生活動作も障害されるため、リハビリや環境の調整が必要です。
効果的なリハビリテーションと支援策
後天性痙性対麻痺には根本的な治療方法がないため、リハビリテーションを行い日常生活を少しでも送りやすくする動作の獲得や生活環境を整えることが重要です。
歩行障害に対するリハビリテーションはストレッチや筋力トレーニングを行い、歩行時に問題となる身体機能を改善したり、歩行練習を行います。
特に痙性麻痺は筋に急な力が入りやすい状態のため、ストレッチを継続して行うことが重要です。
歩行練習では問題となる動作が出現しないような歩容を意識して反復練習を行います。
継続して身体機能を上げる運動や歩行練習を行うことで少しずつ歩行能力を向上することが期待できます。
状態に合わせた環境調整では、介護保険や身体障害者手帳などの社会資源を利用することで金銭的な負担を少なく行うことができます。
歩行が困難な方は車椅子のレンタルや購入、歩行にふらつきがある方は自宅内の手すりの改修工事など、その人によって必要なサービスの調整を行います。
また、物品や住環境の調整だけでなく入浴が困難な方はデイサービスや訪問入浴などの利用、買い出しなどの家事が困難な方はヘルパーの利用など、様々なサービスを利用することができます。
各種サービスの利用のためには認定を受ける必要があるため、サービスを希望する際は市町村の窓口で申請を行いましょう。
まとめ
この記事では後天性痙性対麻痺の原因と歩行障害へのリハビリについて解説しました。
後天性痙性対麻痺は脊髄損傷や脊髄梗塞が原因となって発症します。
歩行障害としてStiff knee patternや足部の引っ掛かりを認めやすく、日常生活動作が障害されます。
リハビリテーションは身体機能や動作に対してアプローチを行い、環境調整を行うことで生活をしやすくすることができます。
脊髄損傷や脊髄梗塞で神経を損傷してしまった後の脊髄の治療は確立されていませんが、再生医療にはその可能性があります。
今後、神経再生医療×リハビリテーションの治療の研究は進んでいきます。
私たちのグループは神経障害は治るを当たり前にする取り組みを『ニューロテック®』と定義しました。
当院では、リハビリテーションによる同時刺激×神経再生医療を行う『リニューロ®』という狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療を行なっていますので、ご興味のある方はぜひ一度ご連絡をお願いします。
よくあるご質問
- 痙性麻痺による歩行障害とは?
- 痙性麻痺では下肢が思うように力を入れたり抜いたりすることが難しくなります。
そのため、歩行においては膝を伸ばす筋や足部の筋の力が抜けなくなることでふらつきが出現しやすく、転倒のリスクがあるため注意が必要です。 - 痙性対麻痺の治療法は?
- 痙性対麻痺の根本的な治療方法は確立されていません。
対症療法としてリハビリテーションや痙性がかなり強い場合はボツリヌス療法や電気治療、体外衝撃波治療などが適応になります。
<参照元>
(1)日本脊髄障害医学会による外傷性脊髄損傷の全国調査|NPO法人 日本せきずい基金:https://www.jscf.org/
(2)脊髄損傷のリハビリテーション|J-stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/30/1/30_58/_pdf/-char/ja
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