脊髄損傷が起こるメカニズムと、直後に見逃されやすい症状がわかる。
外からは分かりにくい「しびれ・痛み・自律神経障害」が続く理由がわかる。
日常生活に影響する排尿・排便、自律神経の問題と適切な対処の重要性がわかる。
首や背中を強く打ったあとに起こる脊髄損傷は、しびれや痛みだけでなく、排尿・排便のトラブルや血圧・発汗の異常など見えない障害を残すことがあります。
損傷した場所によって症状や生活への影響は異なります。
本記事では、損傷の仕組みや症状が続く背景、注意したい体の変化、早期対応の重要性を紹介します。
目次
首や背中を強打した直後に起こる「脊髄のダメージ」

まずは、脊髄損傷とはどのようなものかについて解説します。
外力が脊柱を貫くメカニズム
交通事故や高所からの転落、あるいはスポーツ中の激しい衝撃などにより、頸椎・胸椎・腰椎など脊柱を構成する骨・靱帯・椎間板に大きな力が加わると、脊柱管内に収まる脊髄が直接的な打撲や圧挫・断裂を受ける可能性があります。
メカニズムとしては、事故や転倒などで体に強い衝撃が加わると、骨片や靱帯が脊髄を圧迫・穿通することで、血管損傷→虚血・血腫→脊髄浮腫という連鎖が起こるのではないかと考えられています。
損傷直後に現れる神経機能低下
脊髄が損傷を受けると、損傷部より下位の運動・感覚・反射機能が消失または著しく低下します。
「完全損傷」では全ての機能が消失し、「不完全損傷」では部分的な障害が残ります。
典型的な原因としては、自動車事故が約40%、転倒が約30%というデータも挙げられています。
特に高齢者では少ない衝撃でも骨粗鬆症などの背景があれば損傷リスクが高まるとされています。
このような強打直後の脊髄損傷は、痛みの有無や外見的な変化だけでは見逃されやすいです。
「首を強く打った」「背中に衝撃が走った」という一瞬の出来事が、実は脳からの指令が届かなくなる「見えない障害」の始まりとなる可能性があります。
そのため、早期の段階で、適切な検査・固定・治療を受けることが、脊髄損傷後の回復や合併症予防に大きな影響を与えます。
外から見えない麻痺やしびれが続く理由
脊髄障害、つまり脊髄損傷は、運動や感覚、自律神経機能に障害を与え、痛みを含むさまざまな問題を引き起こします。
神経の混線で起こるしびれや痛み
脊髄は脳と全身をつなぐ太いケーブルのような役割を持ち、ここが傷つくと神経信号の流れが乱れます。
本来は「触れた感覚」を運ぶ神経に痛みの信号が入り込むなど、ケーブル内部で「混線」が起こることで、しびれや灼けるような痛みが続きます。
これが脊髄障害性疼痛と呼ばれる状態で、損傷後に長く続く不快な症状の原因になります。
脳の痛みの感じ方が変わってしまう
脊髄が損傷すると、脳には本来とは違う異常な信号が届き続けます。
その刺激に慣れてしまうことで、脳は少しの刺激でも「痛い」と感じやすくなり、症状が慢性化します。
見た目では回復しているように見えても、患者さんが訴える痛みは脳が変化していることで実際に存在するものです。
脳と脊髄の両方で起こる変化が、つらい症状を長引かせる一因となります。
検査には写らない見えない後遺症が残る
しびれや痛みは、レントゲンやMRIで原因が明確に写らないこともあり、周囲からは気づかれにくい後遺症です。
しかし、患者さんにとっては生活に大きな負担となり、日常動作にも影響します。
神経の回復は時間がかかるため、リハビリや生活調整を続けることが大切です。
見えない症状を「存在しないもの」と捉えず、理解し支える姿勢が周囲にも求められます。
生活の質を左右する排尿・排便・自律神経の障害
脊髄損傷では、運動や感覚だけでなく、自律神経が大きく影響を受けます。
自律神経とは「体を自動で調整する仕組み」で、排尿・排便、血圧、心拍、発汗など、生活に欠かせない働きを担っています。
脊髄が傷つくと、この調整機能がうまく働かなくなり、日常生活に大きな負担がかかります。
排尿・排便のコントロールが難しくなる理由
排尿や排便は脊髄の下部で自動的に調整されています。
脊髄損傷が起こると脳からの指令が途中で遮断され、膀胱が勝手に収縮してしまう、便意がわかりにくい、排便がうまくできない、といった問題が生じます。
これらは医学的に膀胱直腸障害などと呼ばれ、適切なケアが必要です。
本人にとっては精神的負担も大きく、生活の質(QOL)を大きく左右します。
血圧や心拍が乱れやすくなる自律神経の乱れ
脊髄の損傷部位によっては、自律神経がうまく働かず、血圧の急激な上昇や低下、動悸、体温調節の困難が現れます。
特に頸髄レベルの損傷では「自律神経性過反射」と呼ばれる危険な症状が起こり、些細な刺激で血圧が急上昇することがあります。
これらは見た目ではわかりにくいものの、命に関わる場合もあり、周囲の理解と適切な管理が重要です。
発汗の異常や体温調整の難しさも見えない障害
自律神経は発汗や体温調節にも深く関わります。
脊髄損傷では、暑さに弱くなる、汗が出にくい・出やすい、寒さで体温が保てないなど、さまざまな症状が現れます。
これらは日常生活の中で強い疲労感や体調不良につながりやすく、行動範囲を制限してしまうことがあります。
自律神経障害は外から見えないため、周囲が気づきにくい点も大きな特徴です。
まとめ
脊髄損傷では、痛みやしびれ、排尿・排便、自律神経の不調など外から見えない障害が続くことがあります。
神経はゆっくり回復するため、リハビリや生活調整が欠かせません。
近年は、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療リニューロ®も選択肢のひとつとなり、改善を目指す支援が広がっています。
よくあるご質問
- 首や背中を強く打ったあと、症状が軽い場合でも医療機関を受診すべきですか?
- はい。
軽い痛みや一時的なしびれであっても、後から神経症状が悪化することがあります。
検査で早期に異常を確認することで、治療やリハビリの方針が立てやすくなり、合併症の予防にもつながります。 - 脊髄損傷による「自律神経の障害」は日常でどう気づけばよいですか?
- 立ちくらみが増える、異常な発汗、体温調整がうまくいかない、排尿や排便の変化などが目安になります。
これらは外見では分かりにくいため、小さな違和感でも記録し、医療機関へ相談することが大切です。
<参照元>
(1):脊椎・脊髄外傷 – 22. 外傷と中毒 – MSDマニュアル プロフェッショナル版:https://www.msdmanuals.com/
(2):脊髄障害性疼痛の病態とリハビリテーション.Pain Rehabilitation.2024;14(1):7-15.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/painrehabilitation/14/1/14_2/_pdf/-char/ja
(3):脊髄損傷にともなう自律神経の病態と回路再建.The Autonomic Nervous System.2023;60: 110-114.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/60/3/60_110/_pdf/-char/en
(4):書籍・パンフレット等の紹介|別府重度障害者センター:https://www.rehab.go.jp/beppu/book/livinghome.html
(5):PDF:「在宅生活ハンドブックNo.25」自律神経過反射の対処法 p1:https://www.rehab.go.jp/beppu/book/pdf/livinghome_no25.pdf
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