・MOG抗体関連疾患と視神経脊髄炎の違い
・MOG抗体関連脊髄炎に対するリハビリテーション
・脊髄障害に対する再生医療の理論
MOG抗体関連脊髄炎とは、MOG抗体が関連している自己免疫疾患であり早期からのステロイド治療が効きやすいと言われています。
類似疾患としては視神経脊髄炎がありますが、MOG抗体関連疾患は視神経脊髄炎より比較的予後が良好です。
この記事ではMOG抗体関連疾患について症状からリハビリテーション、再生医療について解説しています。
MOG抗体関連疾患(MOGAD)と視神経脊髄炎(NMOSD)の違い
MOG抗体関連疾患(MOGAD)と視神経脊髄炎(NMOSD)は特徴や症状がよく似ているため、混同されることが多い疾患です。
両者の診断学上の大きな違いは、発症に関わる自己免疫です。
MOGADでは抗MOG抗体が発症の原因になるのに対し、NMOSDは抗Aquaporin-4抗体が原因となります。
主な症状は類似しており、どちらの疾患も脊髄障害と視神経障害に分かれます。
脊髄障害ではしびれ、錐体路障害、直腸膀胱障害、勃起障害などが起こります。
錐体路障害は、一般的に運動麻痺のことを指します。
錐体路障害が起きてしまうと運動麻痺により、筋力が低下したり日常生活動作を行いづらくなったりします。
視神経障害では眼痛や外眼筋麻痺などを引き起こすことがあります。
経過に関しては大きな違いがあります。
NMOSDは視神経と脊髄に対して高度な病変を伴う炎症を繰り返す疾患です。
そのため、症状は重く20年前までは多発性硬化症の亜型と考えられていました。
MOGADにおける脊髄障害は脊髄神経の下のレベルで起こりやすく、錐体路障害は軽度で、感覚障害や直腸膀胱障害が症状の中心になることが多いとされています。
また、視神経炎は眼痛が主で画像初見上では神経の腫脹を認めますが、治療が効きやすいことも特徴の一つです。
さらに、MOGADはNMOSDと比較し、再発の頻度が低いと言われています。
日常生活で取り入れるべきリハビリ運動
MOG抗体関連脊髄炎では、錐体路障害を認めますが後遺症にはなりづらく、運動麻痺が残ることは少ないとされています。
日本における疫学調査では96%の方にステロイド療法が有効であり、ステロイドが効かなかった症例に対して、血液浄化療法を行うと90%程度有効であることが報告されています。
このことから、医療機関に入院し適切な治療を行なった方は予後が良好であることがわかります。
リハビリテーションは入院中から開始し、治療経過とともに車椅子への乗り移りから開始し、起立練習、歩行練習と段階的に進めます。
ステロイド療法の効果が出れば筋力は徐々に回復しますが、入院中の不動の影響で体力や筋力は低下します。
そのため、症状が改善した後も体力・筋力の改善を目的にリハビリテーションを行います。
症状が改善した後のリハビリテーションは、体力・筋力・柔軟性アップを目的に有酸素運動・筋力トレーニング・ストレッチを行うことが勧められます。
例えば、運動開始時にウォーミングアップとしてストレッチを行い、スクワットやランジなどの筋力トレーニングを行います。
その後、有酸素運動としてウォーキングを30分行い、クールダウンとして再度ストレッチを行うなどが挙げられます。
これは運動の一例ですが、このような運動を継続して行うことが重要です。
MOG抗体関連脊髄炎では、稀に運動麻痺が残存してしまうことがあります。
リハビリテーション治療のみでは損傷されてしまった神経の改善は困難ですが、残存している筋力や日常生活動作の改善を行うことができます。
運動麻痺が残存している場合、まずは日常生活が送れるように起立練習や歩行練習などの生活動作の練習から運動を開始します。
筋力低下が著しい場合は軽負荷から開始できるハーフスクワットやカーフレイズなどの筋力トレーニングを行うことが勧められます。
再生医療とリハビリで見える新たな希望
リハビリ運動の効果については上述しましたが、リハビリテーションのみではMOG抗体関連脊髄炎の後遺症が残ってしまった場合、錐体路障害によって生じる運動麻痺の原因である脊髄神経の損傷を改善をすることは困難です。
そこで、脊髄損傷に対する再生医療の研究が注目されています。
脊髄損傷に対する再生医療では、患者様の骨髄液から培養に使用する細胞を分離し、特殊な方法で培養を行います。
培養を行なった細胞から細胞製剤を作成し、静脈注射を行う自家骨髄幹葉系幹細胞治療が行われています。
この治療では神経栄養因子を使用した神経を保護する機能や炎症を抑える効果、神経細胞への分化、神経幹細胞の働きをよくすることによって脊髄神経の再生を期待することができます。
従来では再生医療とリハビリの組み合わせはあまり行われていませんでしたが、再生医療における神経の再生する段階においてリハビリを行うことで神経回路がより効率的に改善することが分かってきています。
まとめ
この記事では抗MOG抗体関連脊髄炎について解説しました。
抗MOG関連脊髄炎は自己免疫疾患であり、しびれを中心とした感覚障害や錐体路障害、直腸膀胱障害などの脊髄症状を引き起こします。
ステロイド治療がよく効きますが、後遺症として感覚障害や錐体路障害が残存し、日常生活動作に障害が残ってしまう方もいます。
神経を損傷してしまった後の錐体路障害の治療は確立されていませんが、再生医療にはその可能性があります。
今後、神経再生医療×リハビリテーションの治療の研究は進んでいきます。
私たちのグループは神経障害は治るを当たり前にする取り組みを『ニューロテック®』と定義しました。
当院では、リハビリテーションによる同時刺激×神経再生医療を行う『リニューロ®』という狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療を行なっていますので、ご興味のある方はぜひ一度ご連絡をお願いします。
よくあるご質問
- MOG抗体関連疾患とはどういう病気ですか?
- 中枢神経の中にある髄鞘と呼ばれる部分に含まれるMOGというタンパク質に自己抗体が脊髄や脳、視神経を障害することで発症する視神経や脊髄に炎症を起こす疾患群のことです。
比較的ステロイド治療が効きやすいと言われており、後遺症が残る人は少ないとされています。 - 視神経脊髄炎は自己免疫疾患ですか?
- はい、視神経脊髄炎は自己の中にある抗体が、視神経や脳、脊髄などを障害してしまうことによって起きる疾患です。
もともと、AQP4抗体と呼ばれる抗体を持っている方が発症するとされていましたが、近年MOG抗体によっても発症することが分かってきました。
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<参照元>
・抗MOG抗体関連疾患の臨床像 :https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnd/27/1/27_60/_pdf
・東京逓信病院HP:https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/shinnai/nmo.html
・抗MOG抗体関連疾患(MOGAD) 水野昌宣 日本アフェレシス学会雑誌 43(2):88-95,2024
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